吉良からのメッセージ

2015年6月2日

安全保障法制議論に対して思うこと

5月26日から審議が始まった安全保障関連法案が、特別委員会において毎日議論されていますが、本日のブログでは私が感じていること、思うところについて、お伝えしたいと思います。

(1)いきなり各論の議論が先行し、わが国を取り巻く環境変化の説明など大局の議論が深まっていない。
(2)大局的議論とも関連しますが、抑止力を高める必要性(とその各論部分における野党の反論)の議論が中心で、外交的努力の議論がなされていない。
(3)日米同盟の強化とその最有力手段としての集団的自衛権行使容認によって抑止力を高めることを目的としながら、米国の日米安全保障条約上のコミットメントが如何なる状況下において揺らぐことがあるのか、米国の行動原理や過去のモンロー主義台頭の歴史的事実はどのようなものか、など、当該法案の背景の本質的議論がなされていない。

と感じています。(1)、(2)、(3)は全て関係しているのですが、この時期に当該法案が提出された背景には、国際情勢と国内的政治状況の2点があると思われます。

上記(1)の国際情勢については、議論の前提として取上げられていますが、中国の経済的、軍事的台頭により、東アジア、アジア全域、太平洋地域における力のバランスが大きく変化していることです。
その中国が米国を中心とする国際秩序に挑戦する構えを見せていることが、米国やわが国の危機感を高めています。特に、南シナ海における中国の強引な島嶼主権の主張が、同じく主権を主張する東南アジアの国々と諍いを起こし、激しい主張の応酬は勿論、既に軍事的衝突も繰り返されていることが更に危機感を高めています。

東シナ海における資源開発、尖閣問題、防空識別圏などでわが国と対立していることもあいまって、わが国として、いざという時に備える必要があることは確かです。

国民に対しては、このようなわが国を取り巻く国際環境の変化や背景について、もう少し分かりやすく説明する必要があると思っています。

民主党は現在、海外派兵の際の条件など各論につき厳しく追及していますが、岡田代表や長島昭久議員など一部の議員の質問を除けば、法解釈論的技術論が中心になっているような気がします。政権取得前の野党ならいざ知らず、政権与党を経験した政党としては、国際情勢の変化とそれに対する備えの必要性をもっと強く主張すべきだと思います。

民主党は「近くは現実的に」「遠くは抑制的に」「国際貢献は積極的に」という明確な指針を持っています。つまり、「近くの」わが国を取り巻く環境変化にともない抑止力を強化する必要性について、大筋では与党の問題意識とその対処方法について理解賛同しているといえます。
一方、安倍政権が中央突破を図る「遠くの」ペルシア湾・ホルムズ海峡での機雷掃海や、(法理論上)地球の裏側まで行って武力行使することも可能な一般法については、慎重な立場、つまり、このような場合は毎回特別措置法で対応すればよいという立場です。

2009年の政権担当前の野党ならば、現在のような各論追及を中心とした議論でも国民の納得、期待を得られたかもしれませんが、政権与党経験ある政党としては、自分たちが再び政権を担った時の考え方をもっと国民に知ってもらうべきだと思います。

2点目の国内的政治状況については、安倍政権の支持率が高いうちに、難度の高い、国民的支持が得られにくい、または支持を得るのに時間がかかる重要課題を「さっさと法案化して通しておこう」それも「できるだけ制約の少ない、どのような状況にも対応できる懐をひろくした法案にしておこう」という魂胆が見え見えです。
この点については、本来なら憲法改正を掲げ、その各論の法として提出するような、国の根幹に関わる重要法案ですから、本筋の憲法改正で正面突破するか、時間をじっくりかけて議論すべきテーマだと思います。

上記(2)の外交努力についてですが、今回は政府提出法案審議のため、法案内容の各論について議論するのは当然ですが、ソフトな抑止力たる外交努力についての議論がなさすぎるように感じます。そこで、対中国「外交努力」について、現在私が考えるところを簡単に説明したいと思います。

軍事的な意味における「脅威」について、「侵略される、攻撃される脅威とは、相手国にその意思と能力があり、攻められる国が、脅威と感じる場合」と説明されます。
先ほど述べたように、中国の台頭が国際環境変化の最大の要因ですが、その中国は軍事力の増強と近代化の結果、「能力」を持つに至っています。それ故、我が国としては「備え」が必要であり、備えをより厚くするために日米同盟の強化が必要です。
一方、「過去の歴史」もあり、日本よりも国力をつけた中国が「意思」を持つ可能性も充分あります。その意思を和らげる、否、全く持たせない外交努力こそが安全保障上最も重要です。

相手に能力がなかった時代に少々挑発的なことを言っても、相手にその能力がないのですから脅威にはなりませんが、能力のある相手に挑戦的なことを言い続けていたのでは、意思を持たせてしまい本当の「脅威」になってしまいます。

相手国とその国民に好感を持ってもらう外交努力が今ほど重要な時期はありません。それゆえ、私はこのような問題意識を持ちながら、来るべき安倍晋三総理談話を利用して、中国への謝罪と感謝のメッセージを発するべきだとの主張を先の外務委員会で展開しました。

その詳細内容は、次回に紹介させてもらいます。

吉良州司