吉良からのメッセージ

2014年3月31日

日本経済停滞の真犯人(前編)  

日本経済停滞の真犯人(前編)  

――エネルギー輸入金額の増大による国富の海外流出こそ真犯人――

みなさんお元気ですか。 吉良州司です。

ご無沙汰していて申し訳ありません。 ご無沙汰が続いているので、吉良さんは今、一体何をしていて、これからどうしようとしているのか、心配かけているだろうと思うと申し訳ない限りです。現在、大分と東京を行ったり来たりしながら、東京では情報収集と講演、政策研究を中心に、大分では訪問、面談、講演など地道に活動しており、お陰様で元気にやっています。

■消費税アップ

さて、明日、4月1日からいよいよ消費税が8%にあがります。17年ぶりの消費税アップということで、駆け込み商戦は活況だったようで、スーパーや家電・家具量販店のレジの長い列に並んだ方も多かったのではないでしょうか?

最近の報道では、「消費税アップによる景気の減速が心配。減速させないためにも24年度補正、25年度本予算の公共事業の前倒し執行などで景気を下支えしなければならない」といった論調が目につきます。

■アベノミクスの成果と課題

アベノミクスは、旧来型の金融政策(第1の矢)、財政出動政策(第2の矢)、経済成長政策(第3の矢。徹底した規制緩和をしなければ成果は期待できない)を総動員して、足下の景気浮揚と中長期的な経済成長を目指す政策群だと言えます。

そして、巷間言われるように、円安効果による輸出企業の急速な業績回復、株価の上昇、資産を持てる者の消費拡大、企業や人のやる気・前向き志向の喚起、など短期的には一定の成果が上がっているように見えます。一方、資産を持たざる者への好影響はほとんどない中でのガソリンや電気料金など輸入関係物価の上昇による生活費上昇、地方や中小零細企業への波及効果はないか限定的、貿易赤字の拡大と経常収支の悪化といったマイナス面も厳然と表れています。

第1の矢、第2の矢の効果は一定程度あると思いますが、国民生活に直結する第3の矢が、実体あるもの、換言すれば、一般国民がその効果を享受できるものになるのか、そこが最大の関心事であり、それが実現できなければ結局掛け声倒れになってしまいますので、今後も注視していきたいと思います。

何故なら、第3の矢は先述した通り、徹底した規制緩和に踏み込めるかどうかにかかっている、言い換えれば、既得権益集団の既得権に切り込めるかどうかにかかっています。、私が10年前から主張し続けている通り、自民党政権は過去に業界団体を育て、その育てた業界団体が既得権益集団と化したまま、最大の自民党応援団になっているため、その権益にメスを入れることは極めて難しいと思っています。

そして、既得権益に踏み込めないまま第3の矢が腰砕けになってしまうと、第1の矢、第2の矢は、一時的な効果に止まり、結局は貿易収支や経常収支の赤字定着、日本国債の信用低下、今度は過度の円安や円の暴落につながりかねません。

■日本経済低迷の真犯人

政権批判のようなことばかり書いてきましたが、今回のメルマガは二回のシリーズで、現在の日本経済の低迷は「エネルギー輸入金額の増大による国富の海外流出こそ真犯人」であり、狂乱物価とまでいわれたインフレ下にない点を除けば「現在は長期に亘る石油ショック状態が続いている」ことが最大の原因であり、この対策を打たない限り、真の経済再生はありえないということをお伝えしたいと思います。

1973年の第4次中東戦争を契機に発生した第1次石油ショックは、石油輸出機構OPEC の湾岸6ヶ国が原油公示価格をバレル3.01ドルから11.65ドルへ引き上げ、我が国をはじめ、石油を中東に依存していた先進国経済に大打撃を与えた、まさに「石油危機」でした。この影響で、我が国経済は1974年(昭和49年)に戦後初めてマイナス1.2%成長となり、高度経済成長の時代が終焉しました。

下記に掲載した添付資料のように、原油価格はその後も1979年のイラン革命を契機とする第2次石油ショック、イラクのクウェート侵攻などその時々の中東情勢により変動しますが、1986年から1999年までがだいたいバレル10ドル台半ばから後半、それ以降2003年のイラク戦争前までは、バレル20ドル台で推移していました。

因みに今から15~6年前の1998年、1999年の我が国の化石燃料輸入額は5.6兆円でした。

1バレル

1973~1979年   $3.01⇒$11.65

1979~1983年   $11.65⇒$34

1987~2004年   $20⇒$30

2004~2008年   $30⇒$80

2008年(リーマンショック)$133.9

2008~2013年   $80~$110推移

 

そして、イラク戦争後の2004年頃から、BRICSなど新興国の経済発展とそれにともなうエネルギー需要増大の影響で石油価格の上昇がはじまり、リーマン・ショック前後の乱高下を経た現在はバレル105ドルくらい(基幹的な幅をもたせても80~110ドル)で推移しています。これは、第1次石油ショック後の11.65ドルの10倍相当の価格であり、しかもこれが現在に至るまで長期間継続しているのです。

その結果2013年の化石燃料輸入額はなんと27.4兆円で、15年前の5.6兆円から実に21.8兆円も増えています。そしてこのお金は天下のまわりものとして国内を循環するのではなく、純粋に海外に流出しているのです。

この数字がいかに大きいかを説明します。2013年の我が国の国内総生産(GDP)は478.4兆円、経済成長の目標としてきたのは名目成長率3%です。

ということは、478.4兆円 X 0.03 = 14.4兆円 GDPが増加すれば、経済成長3%を達成することができるわけですが、この目標GDP増加額より(15年前に比べ)7.4兆円も大きなお金が化石燃料輸入金額の純粋増加分として海外流出しているのです。

そして、この化石燃料輸入額の増加が我が国全体の輸入額増大(2010年60兆円、2011年68兆円、2012年70兆円、2013年81兆円。2013年の輸入総額81兆円の約3分の1、GDPの約6%が化石燃料輸入金額27.4兆円)を通して貿易赤字を定着させ、今や経常収支まで赤字を定着させつつある最大の原因になっています。

国の内外を問わず、世界を相手にしている企業は、国際競争上、製品やサービス価格の値上げができない中でのエネルギー費用(原材料費用)の増大が重荷になります。それでも 利益を出すために固定費、特に人件費を削減してきたのです。一方、国内顧客を相手にする企業は(藻谷浩介さんの著書「デフレの正体」ではないですが)人口減少、生産年齢人口の減少、国民の所得の減少や伸び悩みにより、業績低迷を余儀なくされてきたのです。これが日本経済低迷の真の原因です。

アベノミクスは、それまでの政権では金融緩和が足りず、円安誘導しなかったから、また公共事業が抑えられていたからデフレが継続しているのだ、と言わんばかりの主張で、これを克服するための旧来型政策と資産バブルへの誘導政策を動員しています。確かに、これらの政策により、旧来型経済システムの受益者と一部の資産家は元気を取り戻すことは間違いありませんが、グローバル化、少子化・高齢化・人口減少、エネルギーコストの増大という真の原因に向き合わない限り、長期的、持続的な経済再生はありえないと思います。

(後編に続く)