吉良からのメッセージ

2019年10月30日

緒方貞子さんのご冥福を祈ります

国連難民高等弁務官を務め、世界の苦難にある人々の命、人権を守る最前線に立ってきた緒方貞子さんが逝去されました。衷心よりご冥福をお祈りします。
私は外務大臣政務官、副大臣時代、緒方さんが国際協力機構JICA理事長の時に数回お会いしていますが、信念の人でした。確固たる、揺るがない信念こそが、先例のない全く新しい局面においても、命を守ることを最優先する決断をされ、多くの命を救いました。

その最たるものが、イラクのフセイン政権下で危機に陥ったクルド人を先例に囚われずに救済した事例です。フセイン政権下で武装蜂起したクルド人は、政権に鎮圧されました。そして、政権からの弾圧・迫害を避けようと国境を接するトルコに避難しようとしましたが、トルコ政府から受入れを拒否されます。国連が救済する「難民」とは、本来は国外に避難する人々であり、国内避難民は対象にしていません。しかし、「命」を守るために、先例や難民の定義に囚われず、イラク国内のクルド人を事実上の「難民」として国連が保護、救済したのです。

救済する難民は国境を超えて避難した人々が前提となっていましたので、同じ国内における難民救済の先例はありませんでした。事なかれ主義は、必ず先例踏襲主義に陥ります。しかし、緒方貞子さんの「命と人権を守る」という強い信念は、国内、国外を問わず、また、先例にとらわれずイラク国内であるにもかかわらず、「難民」として、多くの命を救ったのです。緒方貞子さんの人柄、信念、目的遂行に対する姿勢を心の底から敬愛し、誇りに思います。

さて、最近の中東における最大の関心事は、少し前までは、サウジアラビアの石油施設に対する攻撃、最近では、トルコによるシリアへの軍事行動です。後者は、具体的には、トルコとシリアの国境沿いのシリア側のクルド人への攻撃です。この攻撃についてのトルコ側の正当化説明は、トルコ国内に避難してきた数百万人に及ぶシリア難民をシリアに帰還させるにあたって、数百キロに及ぶ難民帰還居住地域を確保すること、とのことです。そのため、その地域にいる武装クルド人を駆逐するための攻撃だということです。

この攻撃の是非については、ここでは触れませんが、トルコによるクルド人攻撃を目の当たりにし、また、緒方貞子さんがクルド人を救済したその背景に思いを馳せながら、本当にいろいろなことを考えました。それら、考えたこと、感じたことを次回以降にお伝えしたいと思います。

最後に、今一度、日本が誇るべき緒方貞子さんのご冥福をお祈りします。

吉良州司