5つの安全保障

5つの安全保障の考え方

安全保障といえば、国の領土や政治的独立に対する軍事的脅威に対して軍事力を用いて対抗する 「伝統的安全保障」(国防)が想起されるが、今次コロナ禍のような感染症や、気候変動・テロリズム・ 海賊行為・貧困・金融危機などの非軍事的な脅威に、政治・経済・社会的側面から対処することによって、国の平和と安定を確保する「非伝統的安全保障」の必要性が提起されている(外務省ではもう少し広範な概念・目的を持つ「人間の安全保障」を提唱している)。この「非伝統的安全保障」の中でも、今、我が国に必要な、「命と健康の安全保障」「エネルギー安全保障」「食料安全保障」「防災安全保障」と位置付けられる備えが必要。

1.国防(伝統的安全保障)

(1)日米同盟の維持・強化と自主防衛の追求
 1) 北朝鮮の脅威、中国軍事力の増強・近代化の懸念、朝鮮半島や台湾海峡情勢など旧冷戦情勢を色濃く残す東アジアの安定と我が国の平和のためには日米同盟は必要不可欠。
 2) 一方、米国トランプ政権への過度な追随は国家百年の大計を誤ることを冷徹に認識し、日米同盟は維持しながら、真の独立、自主防衛、自主外交の道を探るべき。

(2)同盟国の同盟国との連携(特に対中戦略において協調すべき)
 1) 民主党政権での武器輸出3原則の解禁により、同盟国の同盟国との間で、武器の共同開発、共同生産ができる環境となった。最小予算で最大の装備と抑止力の増強を図る
 2) 豪州、英国、インドと協力し、インド太平洋地域における対中抑止力を増大する

(3)宇宙、サイバー空間の戦力増強
  この分野への人、装備の充実と技術の増強を図る(技術は民間開放により民間の技術力を増強)
(4)人口減少、少子化時代の自衛官の確保(自衛隊退官後に役立つ技術や資格の習得支援必要)

2.命と健康の安全保障
 
(1) 新型コロナ禍下であらためて知る「命と健康」の大切さ
今回のパンデミックを経験し、改めて「命と健康」を守ることこそ、国の最大の使命であることを実感。
(2) 命と健康の安全保障という新概念
 1) 感染症対策や災害時などの緊急時にも迅速に対応できる医療体制の整備
 2) 各自治体への権限・財源付与により独自の対応ができる制度づくり
 3) 命に直結する医療器具、医療関連物資は、戦略的に国内調達できる制度づくり

3.エネルギー安全保障

(1)現実的なエネルギー政策の必要性
隔絶された島国で、化石燃料も鉱物資源も量的確保・採算面から産出できない我が国において、国民生活と事業活動に必要な資源及び電力の量的安定確保は何よりも重要。生命線となる資源の  輸入途絶リスク軽減のための現実的な対応(外交努力、技術開発、新システムの構築等)が急務

(2) 電力の安定供給
今次、新型コロナ感染症パンデミックにより、南米チリの銅鉱山で見られたように、生産・搬出元の従業員が感染症により現場に出られず、結果として産出・搬出不能となるなど、今後、必要物資の輸入途絶が現実にありうることを経験。
将来的には原子力に頼らない社会を目指し、再生可能エネルギーの更なる普及推進が必要だが、雨や風が吹かないなど再エネ不稼働時には、火力発電が代わって電力供給している現実(注)を踏まえ、将来の理想的エネルギー社会に移行するまでの暫定期間は、以下の対策が必要・急務。

 1) 火力発電に必要な化石燃料の輸入途絶が起こった際の更なるバックアップ電源として、厳格審査を経て安全性が確認された原子力発電の再稼働と火力発電までが稼働できない際の最後の砦としての原子力の発電容量確保が必要。
 2) 地球環境への配慮は国際社会全体の優先課題であることは間違いないが、不安定な中東に偏る石油と異なり、地政学的に先進国に多く埋蔵・産出される石炭をCO2排出量を最大限抑える技術を活かした上での最新鋭石炭火力発電に有効活用することもエネルギー安全保障上は必要。多くの国内石炭埋蔵量があり、石油・天然ガスパイプラインで互いにつながる欧州諸国とは異なり、日本は化石燃料を埋蔵しない隔絶した島国であるという地理的、地政学的現実を踏まえる必要がある。
 3) 将来の原子力に頼らない再生可能エネルギーを中心とした理想的なエネルギー社会に移行するまでの暫定期間に、
 ① 低価格蓄電設備の開発・普及(電力会社、家庭の両方で)、
 ② AI技術を活用したスマートグリッド、その集合体であるスマートシティ構築、
 ③ 水素エネルギー技術の開発・普及を促進し、再生可能エネルギーを利用して水素をつくり貯蔵する畜エネルギー・システムの構築
 ④ (人体に影響を与える核物質を放出しない技術である)核融合エネルギーの開発、
 ⑤ そして、社会全体での節電技術と節電マインドの徹底、
 により、理想の電力システムに移行させる。

<注>
雨や風の吹かない天気時には太陽光発電や風力発電が稼働せず、必要な電力は再生可能エネルギー不稼働時のバックアップ電源機能も持つ火力発電から供給される現実。しかし、パンデミックの影響や中東戦禍の場合など、火力発電の燃料である化石燃料が輸入できなくなった場合には、お互いが電力系統やパイプラインで繋がりあっている欧州諸国とは異なり、日本の電力供給は完全にストップしてしまう。このリスク対策が必要不可欠。

 

4.食料安全保障
 
(1) 平時における食糧安保の担い手は民間。政府は安価でかつ安定的に、多様で安全な食料供給が確保されるよう民間のサプライチェーンの円滑化を支援(輸入円滑化の諸措置、海上輸送防衛、物流インフラの整備など)
(2) 国内農業の競争力強化(販路開拓、輸出振興、農地の効率的利用促進、農業技術向上)
(3) 構造的リスクへの対応(外国人労働者の法的位置づけ、鳥インフルエンザ・口蹄疫対策)
(4) 有事に備えた法整備(スイス、ドイツを参考に食料安全保障を有事法制の中に位置づけ)
(5) 実践的な備蓄制度の確立(備蓄は一種の「保険」。スイスの義務備蓄制度や家庭内備蓄、地域備蓄の検討必要)
(6) 有事に必要とされる最低限の農地、生産者とその動員・活用方法、コストの明確化 
(7) 有事における流通システムや配給手段の確保についての事前の備え、計画策定

5.防災安全保障

 (1) 命が第一の防災対策
1) 最近は「50年に一度の豪雨」が毎年日本列島を襲う。
2) 堤防、護岸整備を含む治水事業中心の防災対策から「命第一の防災」への発想転換必要
3) 山間の急流の川の流域は、民家のすぐ前は川、すぐ裏手は山といった環境が多く、豪雨時の水害と土砂災害のリスクと隣り合わせの環境で生活してる。単なる復旧でいいのか?
4) 被災後の復旧事業は、単に「旧に戻す」発想から住居地や村落移転も含めた「命第一」の復旧・復興が必要
5) 津波対策も「万里の長城」を築くのではなく「命を守る」ことを第一に考えた避難路および、高い場所の避難所、または避難用高層構造物の建設を優先する

(2)学校や自衛隊の協力を得て、「自分を守る」、「他者を救う」ための国民的な防災知識、訓練の徹底