政策論

(1)社会保障と税の一体改革の必要性

(キラキラ広報2012年号より)

昨年末、野田総理の不退転の決意を背景に、民主党内で「税と社会保障の一体改革」の骨子案が喧々諤々の議論の末まとまりました。巻頭挨拶でもお伝えしましたが「国会議員定数削減なくして増税なし」を前提に、2014年4月に8%へ、2015年10月までに10%へ消費税を引上げることが決定されました。
税負担増となる国民は勿論、負担をお願いして票を減らす国会議員も、誰だって「増税」などしたくはないのが本音でしょう。それなのに何故、今消費増税が必要なのか、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。
まず、結論的に言えば、消費増税なくして我が国はもうこれ以上「もたない」ところまで来てしまっているという危機感からです。これ以上、現状を放置していれば社会保障も維持できず、若者や将来世代には全く夢も希望もない社会になってしまう。今の大人の責任で何とかしなければならないという切実感から消費増税なのです。
残念ながら、高度成長期でこそ通用した利益配分政治を、日本社会が成熟化して低成長経済になってからも止めることができなかった自民党政治のために、経済成長できないまま、借金だけ確実に積み上がり、莫大な累積債務をかかえた国になってしまいました。このままでは、年金・医療・介護など持続可能な社会保障も維持できず、将来の飯のタネになる技術分野への投資や若者・子供たちへの人的投資もできなくなってしまいます。持続可能な社会保障や将来に向けた投資のためにも一刻も早く財政健全化を実現しなければならないのです。

我が国の経済成長力

図のAをご覧ください。この図は1993年から2007年までの主要各国のGDPの推移を表した棒グラフです。これを見てお分かり戴ける通り、この15年間我が国はほとんど成長していません。図は米ドル換算の数字ですが、日本円ベースでみても1993年481兆円、2000年502兆円、2007年515兆円、2010年479兆円とほとんど増加していません。一方、中国は5倍、インド4倍、豪州3倍をはじめ、米国、フランス、イタリアなどは2倍とGDPを増やしている、すなわち経済成長を続けてきたのです。この結果、GDPで中国に追いつかれるのは2020年台だと言われていたのに、早くも昨年追い越され、我が国は今や世界第2位ではなく第3位の経済規模の国になってしまいました。また、1993年当時ルクセンブルク、スイスに次ぐ世界第3位だった「一人当たりGDP」は2010年には第17位になっています。

税収と歳出の大きな差

図のBをご覧ください。この図の折れ線グラフは、一般会計の歳出と税収の推移を表したものです。これを見てお分かり戴ける通り、平成に入ってから歳出と歳入の差が次第に大きくなり、まるでワニの口のようになっています。それだけ歳出に比べ税収が少ないことを意味します。図の棒グラフは、その税収不足を補ってきた国債発行額の推移を表しています。注目して戴きたいのは、平成6年(1994年)からは建設国債だけでは足りず特例公債(赤字国債)が大量発行されていることです。つまり資産に見合う建設国債発行ではなく、その年度で経費として消えてしまう(資産として残らない)赤字国債が税収不足を補う主流財源になっています。このように建設・赤字国債が毎年毎年発行された結果、今では図Cのように667兆円(平成23年度の税収予想額41兆円の16年分)という膨大な債務が積み上がっています。何故、このように税収と歳出に大きな差が出てくるのか、その理由は、前述したように経済成長できていないこと、そのため税収が上がらないこと、そして、大きな歳出拡大要因があるからです。

急速な少子高齢化と社会保障費の増大

その大きな歳出要因が急速な高齢化にともなう社会保障費の増大です。図のDをご覧ください。我が国の人口構成が急速に少子高齢化していることが一目瞭然です。昭和25年(1950年)には全人口の4・9%だった65歳以上人口は今では22・7%(2009年)と4人にひとりの割合になっています。この先現状の出生率や平均余命が続けば65歳以上人口が2045年には3863万人と3人にひとりとなってしまいます。


今度は図のEをご覧ください。これは社会保障給付費の内訳とその財源を示した図です。23年度予算ベースの社会保障給付費108兆円の約50%が年金(54兆円)、30%が医療費(34兆円)、と高齢化にともない増加する費目となっています。この社会保障給付を社会保険料で賄えればいいのですが、実際は23年度予算ベースで約29兆円の国税、約10兆円の地方税と40兆円近い税金が投入されています。図のFをご覧ください。税収と歳出の差のワニの口のように、社会保障給付費と社会保険料収入の差も平成に入ってから次第に大きくなっており、その差がこの税投入によって補われているのです。その「税」の半分は国債発行による借金であり、若者や将来世代が負担しなければならないのです。

図Eの右側の図をご覧ください。平成2年度(1990年)と平成23年度(2011年)の比較において顕著なのは、歳入における税収の落込みとそれに伴う特例公債(赤字国債)の増加、歳出における社会保障費と国債費の大幅な増加です(国債費は国債の元本償還費と利払い費の和)。つまり、経済成長がないことによる税収不足と高齢化にともなう社会保障費の急速な増大が財政の大きな負担となっているのです。

「日本売り」の危機は到来するのか

図のHをご覧ください。この図は主要各国の債務残高のGDPに占める割合を示した図です。前記理由による毎年の財政不均衡が、膨大な国債残高を産み、地方も併せた政府の債務残高は今や1000兆円を超え、我が国GDPの2倍以上(212・7%)に膨れ上がっています。欧州金融危機の発火点となったギリシャや、国債金利が危険水域の7%に迫るイタリアより我が国の債務残高対GDP比は悪いのです。尚、債務残高対GDP比は、政府が持つ金融資産を除いた「純債務」で比較すべきだという指摘がありますが、図Gのように純債務残高の対GDP比も日本は127・8%(2011年)とイタリアの100・6%より高く、先進国中最悪であることに変わりはありません。

では何故我が国は、これまでギリシャやイタリアのように国債金利が跳ね上がり、国債が暴落する「日本売り」にならないのでしょうか。
その理由は2点あると言われています。ひとつは、国債の93・6%は法人を含む日本国民によって買われていて外国人保有が少ないことです。よく言われているように借金1000兆円強は日本の金融資産1500兆円で賄われているから心配ないという点です。もうひとつは、「増税余力が高い」ことです。我が国の消費税に相当する欧米先進国の付加価値税は英仏独など西欧諸国が10%台半ばから後半、北欧諸国が20%台半ばと高率なのに比べ、我が国の消費税率は5%と低く、日本の経済力からみて増税できる余力が高いと見られている点です。
1点目は確かにその通りだと思いますが、同級生が250万人を超える昭和22~24年生まれの団塊の世代(800万人)が定年退職し、2014年から本格的な年金受給者になると、この国内金融資産が急速に減っていく可能性があります。2点目は、理論的な「増税余力」はあったとしても政治と国民がそれを決断できないと見做されれば「増税余力」は単なる絵に描いた餅に過ぎなくなり、ギリシャのように自律できない国と判断されて「売りまくられる可能性」もあるのです。何せ、ギリシャやイタリアより債務残高対GDP比が高いのです。
以上は、財政・金融面からみた日本売りの可能性論議ですが、欧州金融危機の飛び火、中国経済の急速な落込み、核開発疑惑で米国・イスラエルと激しく対立するイラン情勢の有事化(ペルシャ湾での紛争や日本の輸入原油の8割以上が運搬されているホルムズ海峡の封鎖)などは、世界の政治・経済情勢の中で日本売りが誘発される恐れとして注意が必要です。
右記に加え、財政的コスト増、財政の硬直化を招来させないための視点も必要です。
満期が到来する国債の償還のために発行される借換債の発行額は、国債残高の積み上がりに比例して毎年度増大しており、2011年度は100兆円前後になる見込みですが、この金利が1%上がるだけで毎年1兆円利払いが増えることになります。図Cをご覧ください。昭和50年代は金利7%台、平成初期でも4~5%台の時代がありますので、今後金利が上がらない保障はありません。金利が5%上がれば利払い費が5兆円増えることになり、それだけ政策的投資に使えるお金が少なくなってしまいます。市場に日本売りをさせないため、また、金利上昇による財政制約を最小化するためにも一刻も早く財政健全化を果たさなければなりません。

財政健全化の方策

前述の通り財政不均衡の原因ははっきりしていますので、財政健全化の方向性はあきらかです。大きくふたつの方策があります。まずは、収入を増やすこと、および無駄な歳出、優先順位の低い歳出を削減することです。収入を増やすには、ふたつの対策があります。ひとつは増税すること、それも景気変動の影響が少ない税を増やすこと。これが消費税です。もうひとつの対策は経済成長の実現です。経済成長すれば対GDP比の債務残高が小さくなると同時に、個人所得税収、法人税収が上がり、また、消費も活発になるので消費税収も上がります。経済成長実現のためには新成長戦略の実行が不可欠で、昨年の被災地復興を目的とした第3次補正予算でも、円高対策や中小企業対策が盛り込まれており、TPPなど経済連携推進と併せて、成長実現のためにはあらゆる手を打ちます。
また、無駄の削減につき私は主体的に昨年11月の提言型政策仕分けに携わりましたが、昨年末の「税と社会保障一体改革」骨子の中にも行政改革の徹底が盛り込まれました。
政権交代の原点である税金無駄遣いの根絶に引き続き取組んでまいりますが、まずは国家公務員給与引下げ法案の早期成立に全力を尽くすことになります。

消費増税が及ぼす影響への対策

消費税引き上げによる懸念の代表格である逆進性対策について説明します。

低所得者層への配慮の必要性
「逆進性」とは、「消費税は所得の多寡に関わらず、全ての人に課税するので、収入に占める生活必需品などの割合が高い低額所得者層ほど影響が大きくなる」問題です。
党内議論の中では、逆進性を少しでも緩和するために、食料品など生活必需品は消費税を上げずに5%に据え置く「複数税率」「軽減税率」を適用すべきだという主張が多くの議員から出されました。欧米先進国でも採用されている制度です。しかし、結論は「複数税率は採用せず、給付つき税額控除や他の経済政策で対応する」ことになりました。軽減税率は説得力のある制度ですが、ひとくちに食料品と言っても、どの食料品が5%適用にふさわしいか議論が紛糾し、その決定に際して必要以上の裁量がはたらく可能性があります。たとえば、「普通の牛肉は庶民の食べ物として5%だが、ステーキ肉は贅沢品として10%課税とする」といった議論です。たとえば、カナダの例では、ドーナツを5個買うと外食とみなされ消費税が6%かかりますが、6個以上買うとその場では食べられない家庭用の食料品とみなされ消費税はかかりません。ドイツではハンバーガーをお店の中で食べると外食とみなされ、消費税19%かかりますが、持ち帰りにすると食料品とみなされ消費税は7%ですみます。このように、手続きの煩雑さや政治的恣意性を残すことによる混乱の事前排除の観点から採用しないことにしたのです。

給付つき税額控除
その代り、逆進性対策として「給付つき税額控除」を採用することが有力となりました。「給付つき税額控除」とは格差是正のための低所得者優遇政策のひとつで、所得税を減税しても低所得のため元々納税額が少なく減税の恩恵があまり受けられない人に対して給付金を支給する制度です。消費税増税の関連でわかりやすくいえば、低所得者が収めたであろう消費税の全部または一部を現金で還付する制度です。
2014年以降消費増税を実施するに当たってはこのような低所得者対策を講じます。また、最終的な案にはなっていませんが、庶民にとっての「夢のマイホーム」の取得にブレーキをかけないためにも新規住宅取得に対しては、税の一部還付や経済政策的な支援処置などを講じることが検討されています。

高齢者のみなさん 力を貸してください

私は大分県知事選挙に名乗りをあげた際、「自分は現在選挙権を持たない子供たちや将来世代の代弁者になる」と訴え続けました。今もその思いは全く変わりません。吉良州司の1丁目1番地が「将来世代への責任を果たすこと」です。

失われた20年
残念ながら、戦後復興と高度成長の功労者である自民党政権は、将来的な人口構成の変化(高齢化)や成熟社会化にともなう経済の低成長化を充分予見できたはずなのに、正面から対応しませんでした。消費増税から逃げてきたのです。図Bのワニの口が示すように、自民党が一時期下野した細川政権の後からは、国家の行く末よりも政権維持自体が自己目的化してしまっていたとしか思えません。まさに「失われた20年」になっているのです。それは本稿で示した数字・実績が如実に物語っています。その結果がこれまで説明してきたような危機的な国家財政であり、借金の山であり、若者や将来世代が希望を失いかねない社会です。今こそ、全ての国民が将来世代への責任に目覚め、行動を起こすべき時です。

民主党政権の歴史的使命
歴史の皮肉は、衆参真正ねじれ状況の中で、自民党が果たし得なかった歴史的、国家的課題に、政権運営経験の浅い民主党政権が挑戦しなければならないことです。まだ経験不足の民主党政権が国家100年の大本を築くには、国民のみなさんからのご支援が必要です。

高齢者は大恩人
今の高齢者は、高度成長にも乗り、無事に職場を勤め上げて、ちゃんと退職金ももらえた世代だと羨みの対象ともなりますが、戦前、戦中、戦後と大変な苦労をされた方々です。また、この方々は「高度成長に乗った」のではなく、この方々の血のにじむような努力、頑張りによって「高度成長を自ら実現した」方々でもあります。その結果として、今の豊かな日本を築き上げてくれた大恩人の方々です。また、この方々は、「心」を大事にする世代でもあり、自分達は辛抱しても、子や孫に豊かな生活をさせたいと思う世代です。自分達も子や孫のために相応の負担をすること自体は、理解して戴ける方々です。

今一度祖国の復興に力を貸してください
私はこれまで苦労に苦労を重ねて、焼け野原となった戦後日本を見事に復興させ、現在の豊かな日本を築いてくれた高齢者を心から尊敬し、感謝しています。苦労の連続だった高齢者のみなさんには、これ以上ご苦労をおかけせず、安心の老後を送って戴く社会にすることが我々現役世代の本来の務めです。それが恩返しというものです。しかし、目の中に入れても痛くないかわいい孫の世代のために、今一度力を貸してほしいのです。今は景色こそ戦後の焼け野原ではありませんが、社会の内実は焼け野原同然です。昨年の震災からの復興を含め、今一度祖国の復興・再生を果たさなければならないからです。
そのためにまずは、消費増税に対するご理解とご支援を戴きたいのです。そして社会保障費の節約(たとえば、法律で定めた年金給付調整を受け入れて戴くこと。高齢世代だけでなく全世代が対象ですが、医療費中の薬費節減のためジェネリック医薬品の利用を増やすことなど)にご協力戴きたいのです。そして、焼け野原のわが国を見事に復興させた、その不屈の精神を伝授戴きたいのです。
本稿の最後に、大分県知事選挙時に高齢者のみなさんに呼びかけた言葉を再度投げかけさせて戴きます。

戦中、戦後を生きぬいた高齢者の方々に感謝の念を!
そして、その高齢者が健在の内に真の改革を成し遂げたい!

終戦直後、芋や大根の葉を食べながら気力だけを栄養として生き抜いてきた世代、家族には二度とひもじい思いをさせないとの一念から昼も夜もなく必死に働いて、働いて、働き続けた世代、焼け跡だらけの廃墟から驚異的な経済発展を成し遂げた世代、自分達は勉強したくても出来なかったが故に自分達は食わず休まずとも子供に高等教育を受けさせ、その子供に将来の夢を託した世代、古きよき価値観を決して失うことなく、常識ある、いや学歴に関係なく高い見識を持った市民であり続けた世代、愛すべき自分の父母の世代が、今、年老い、現役を退き、そしてこの世から去っていこうとしています。
いつも涙なくして見ることの出来ないNHK番組「プロジェクトX」は、この世代が我々に残してくれたものが、如何に大きく貴重なものであるかをいつも語りかけてくれます。これらの世代は農家、商家、サラリーマン、町工場、企業家、公務員かを問わず、その従事した職業を天職と考え、それぞれの持ち場で一所懸命働き、ひとりひとりみんなが日本復興の立役者でした。昨今の日本の世の乱れを目の当たりにする時、古きよき時代の価値観の体現者が今ほど必要な時はないでしょう。それだけに、この世代を失うことが今の日本にとって、どれだけ大きな痛手であるか計り知れません。この世代が去り行く前の今こそ、日本の、そして故郷の古きよき伝統、文化、価値観を見直し、若い世代に伝えていかなければならないと思います。同時に、あの廃墟の中から不屈の精神で日本を復興させてくれた、その勇気と知恵と経験を今こそ現役世代に伝授戴き、その力を借りながら、今必要な改革を、たとえそれが痛みを伴う改革であっても、断行したいと思います。 吉良州司

 

 

バックナンバー