吉良からのメッセージ

コロナ禍下の公的資金による資本注入論の是非

今日は、コロナ禍で苦しむ大企業・中堅企業、中小零細企業に対する資本注入の是非について、私の考えをお伝えしたいと思います。

結論から言えば、公的資金による資本注入は限定的であるべきだと思っています。

これは、今厳しい経営を余儀なくされている企業を見捨てても構わないなどと言っているわけではありません。これまでのメルマガでもお伝えしてきた通り、迅速かつ充分な支援を行い、コロナ禍で苦境にある大事な企業を救済すべきだと主張してきました。具体的には、入口段階では余計な要件を設けず、申請のままに無利子無担保の貸付を行い、時間をかけてコロナ禍による減収を証明できれば、返済を減免するという救済案を提案しています。また、業種を問わず、家賃や人件費などの固定費の補償給付も迅速に実施すべきだと訴えてきました。

残念ながら、無利子無担保融資、持続化給付金、雇用調整助成金は既に実施されていますが、入口段階での要件、申請書類、審査が煩雑でスピードが遅いこと、金額も充分ではないことなど課題が山積しており、一刻も早く改善していかなければなりません。

私が、資本注入は限定的であるべきだと主張する理由は、今次コロナ禍により、これまで順調だった経営が思いもかけず不振に陥った企業と、今に限らず構造的に不振にあえぐ企業とを全く一緒に扱うべきではないと思うからです。

短期的には、両者をわけ隔てすることなく、ウイズコロナ時代を生き抜ける企業へと体質改善していく準備期間、及び、劇的な経営環境変化が起こった時の激変緩和期間を公平に提供することが重要です。
しかし、長期的には、足元の危機を乗り越えた先のウイズコロナ時代はやはり市場原理に任せていくべきであり、結果的に生き残る企業と淘汰される企業が出てくることはやむをえないと思います。企業が倒産することもあり得ることを考えると、企業を救済することは、社員の生活を長期に亘って安定させることを保証するものではありません。

日本の個別企業名を挙げるのは差し障りがありますので、米国の例を出します。先日6月15日米国老舗百貨店大手JCペニーが、「米連邦破産法11条」を破産裁判所に申し立て破産しました。私も米国時代に家族と一緒に行っていたデパートなので、驚き、衝撃を受けています。コロナの影響による破産です。しかし、同社はアマゾンなどネット通販の攻勢を受けて客足が減り、既に不振に陥っていたのです。コロナの到来により、破産が早まった、否、経営陣も踏ん切りがついたのではないかと思います。

このように、元々厳しい経営を余儀なくされていた会社に、資本注入して延命治療を施したとしてもそう遠くない時期に死期を迎えます。大事な税金は、資本注入ではなく、一時的には苦労させてしまいますが、社員の失業中の生活保障と次の職を目指した能力開発を支援するために使うべきだと思います。

多くの国民は、成功体験として「終身雇用こそ雇用の安定」という意識が残っています。「雇用」とは「今働いている会社で働き続けられること」と捉えています。しかし、本当にそうなのでしょうか。

2018年10月に厚生労働省が発表した『新規学卒就職者の離職状況(2015年3月卒業者の状況)』によると、大卒新入社員の内、2012卒は32.3%、2013卒31.9%、2014卒32.2%、2015卒31.8%が3年以内に離職しているとのことで、終身雇用はもはや「雇用形態の常態」ではなくなっています。

それゆえ、政治として、守るべきは国民ひとり一人の生活と雇用です。「今働いている会社で働き続けることだけが雇用」ではないのです。必ずしも今働いている会社でなかったとしても、きちんと働けて能力を発揮できる場としての雇用があり、生活していけることが重要なのです。

では会社として資本注入してでも守るべき会社はないのか。否、あります。社会システムの重要なインフラとして機能している、極めて公共性の高い会社です。今次コロナ禍下で言えば、日本航空、全日本空輸、JR各社などです。1990年代後半に社会インフラである金融システムを守るため銀行に資本注入した例と同じです。
ただ、JR各社は血の滲む努力により国鉄から民営化され、今は民間企業として頑張っている会社群です。また、日本航空も一度は破綻して会社更生法の適用となり、大胆かつ苦しい改革後にV字回復して再上場した経験を持つ会社です。経営陣にとっても社員にとっても、国有化されることなく、何とかこの危機を乗り切りたいと思っているのではないでしょうか。それ故、資本注入という形ではなく、既に合意されていますが、政府系金融機関、民間金融機関との融資枠設定により、資金繰りを支援する形での救済が望ましいのだと思います。その自立魂は尊重しつつ、政府として、また社会として、重要な社会インフラ企業を守り抜くという強い意思を示すことが重要だと思います。

自民党政治は、業界、会社の意向を聞き、要請された予算を配分し、要請された法律をつくる、「業界主権政治」ですが、私が目指す政治は「生活者主権政治」です。会社救済が社員(国民)救済と同義だった時代は終わりつつあります。国民一人ひとりの生活者としての雇用と生活を守ることこそ政治の使命だと思います。

吉良州司

(補足) 資本注入には、株の取得、増資引受け、劣後ローンとして貸し付けるなどの方法がありますが、特に劣後ローンの仕組みや意義などに踏み込むと説明や議論が際限なくなりますので、本稿では割愛させて戴きました。

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