「原子力賠償スキーム 与野党議員に聞く 吉良州司氏」の記事をご紹介致します。

東京電力福島第一原子力発電所事故に関連する政府の賠償支援枠組み(原賠スキーム)を巡り、与野党の議論が活発化してきた。民主党の吉良州司衆議院議員は、党内議論の中心になった「原発事故影響対策プロジェクトチーム」(PT)メンバーの一人。現行の政府案について「100%責任を負わせるべきではないところに過重に責任を負わせている」と指摘。「原子力政策の決定にかかわった国が最終的な責任を負うことを表明すべきだ」と強調する。

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-5月13日に決まった政府の賠償スキームに対する評価は。

「政府のスキームは原賠法三条のただし書きを適用しない前提で成り立っている。評価以前の認識として、私自身は千年に一度という今回の地震津波を異常に巨大な天災地編とし、ただし書きを適用すべきと考えている。政府も可能性を完全に排除したわけではないが、適用しない立場を取っている。仮に適用した場合、現行法は賠償の責任主体をどこにも書いておらず、被災者の損害賠償や生活再建に支障が生じることが理由だが、それは法律自体の不備であり、欠点を補う新たな立法措置で対応するのが筋だ」
「むろん但し書き適用の有無にかかわらず東電が賠償責任を負わないでよいとは思わない。しかし国は原子力政策や安全基準を定め、事業者を指導できる立場にいた。その意味で国民の多くは今回の事故を国と東電の連帯責任ととらえている。そうであれば被災した方々への仮払いはまず国が行い、東電には事故の収束と電力供給に専念してもらう。事故がある程度収束した段階で賠償の全額あるいは一部を東電に負担させ、超える部分を含む最終責任は国が負うよう措置すべきだ。」

-やる気そがれる-

-国の責任を明確化する場合、国民負担との兼ね合いが問題になる。

「国民負担の極小化を図るのは当然の務めだ。まずは東電に上限付きの賠償責任を負わせ、経営陣刷新を含む一定の経営努力を求める。さらにエネルギー対策特別会計などに余剰があれば活用し、その上で税金、または電気代による負担をお願いすることになる。ただ負担が生じること自体は避けられない。議論を避けようとするあまり、100%責任を負わせるべきではないところに過重に責任を負わせ、法の不備が原因にも関わらず、いけにえのように扱うことに大きな疑問を感じる」
「そもそも現在の政府スキームは、東電を『生かさず殺さず』の会社にする発想だが、そんなやり方で社員のやる気、インセンティブを保てるわけがない。良い人は去り、やる気のある人は入社しない。民間企業の社員は『我が社』のために頑張ることで業績が上がり、それが待遇改善に跳ね返る。だからこそやる気が生まれる。活かさず殺さず、供給責任だけ果たせというのは、民間の経験が無い人の発想といわざるを得ない」

-事後的な懲罰-

-PTでは東電以外の原子力事業者による拠出金の位置づけも論点になった。

「今回の事故に何の罪も無い電力会社の収益、キャッシュフローを強引に徴収する点で、一種の事後的な懲罰だ。将来の事故に対する備えという発想はある程度理解できるが、その場合は東電の賠償と切り離して考えないといけない。そもそも東電を含む原子力発電事業者が、社会的に何も言えないようなタイミングで、拙速に物事を決めるのは避けねばならない。発送電分離や総括原価といったエネルギー政策の根幹にかかわる課題も、電気事業に主体的にかかわってきた人、今後もかかわる人が主張できる段階で、冷静に議論すべきだ」

(聞き手=長岡誠)
「電気新聞 23年6月1日付」