国家ビジョンを語らない自民党総裁選について
ご無沙汰お許しください。この間、内外の課題につき、何度もメルマガを書き始めていたのですが、結局のところ、評論家やコメンテーターのようなものではないか、と筆が進まず、発信できませんでした。
10月4日に自民党総裁が決まりますので、評論家との批判は覚悟の上で、今、考えるところをお伝えしたいと思います。
まず、5人の総裁候補の独自の主張、また、討論を聴いていて、思うことは、本当につまらない、面白くない、ということです。全く響いてくるもの、胸に突き刺さってくるものがありません。これは野党に身を置く私だけではなく、仲のいい自民党員の同級生からも同じ感想を聞きました。
それは何故なのか。
まず、各候補は触覚で触れられる目の前のものにしか反応しておらず、中長期の国家ビジョンを全く語らないことにあります。少数与党になったが故に野党の主張にも配慮している、また、昨年秋の衆議院選挙や今夏の参議院選挙において国民民主党や参政党が躍進した、それらの背景にも配慮していることはわかります。
しかし、自民党総裁が必ず総理大臣になるという状況ではなくなったとはいえ、比較第一党として、ほぼ間違いなく総理になる方々です。その一国の総理候補が大局を語らず、野党との連立・連携を意識し過ぎて、触覚に触れる課題や政策しか語らない様子は残念でなりません。何故なら5人の内、少なくとも3人は明確な国家ビジョンや中長期の課題解決の独自案を持っている方々だと思うからです。それを党員票や議員票を獲得するため、野党との連立の余地を残すために語らない、そのような総理候補決定戦に何の意味があるのかと疑問に思います。
第二に、例えば、財政規律をどうするのか、といった具体策について問われると「経済成長すれば、対GDP比の債務残高比率が下がる」というような全く説得力のない説明を繰り返し、国民負担の必要性については逃げて、逃げて、逃げまくっているからです。
細川政権と民主党政権の4年強を除いて、政権与党として、国家運営、経済運営に責任を持ち続けてきたのは自民党です。その自民党政権下での「失われた30年」です。そして現在の物価高、それも輸入インフレ物価高を招いたのはアベノミクスです。この間、いつも私が主張することですが、GDPを米国ドル・ベースで見た場合には、2012年に自民党が政権復帰して以降、一度も民主党政権時代の米国ドル・ベースのGDPを上回ったことがないのです。エネルギーや食料など、生きていくために必要なものを輸入し続けなければならない宿命を持つ我が国は、米国ドル・ベースに換算した場合でも経済成長することが必要不可欠です。何故なら、日本経済が好景気に沸くのは、交易条件が良好な時であり、逆に国民生活が苦しくなる時は、交易条件が悪化している時だからです。交易条件が良好な時に米国ドル・ベースのGDPが上向くのが常だからです。
この「失われた30年」、それに続く「輸入物価高騰ゆえの生活苦」が続いている現状において、その間の国家運営、経済運営を背負ってきたにも拘わらず実現できなかった自民党が、どの口で「経済成長」をお家芸のように主張できるのか、私には全く理解できません。実績が全ての政権与党において、過去30年、少なくとも米国ドル・ベースではほとんど経済成長できていないからです。
尚、日本円ベースでのGDPと米国ドル・ベースでのGDPの意味合いを分かり易く説明する例えとして、私は次のように説明しています。
とある高校の成績で全校で100番(全県下では400番)だった生徒が、全校で20番になって喜んでいたが、その高校全体のレベルが下がっていたために、全県では600番になっていた。全校の成績順位が日本円のGDP、全県下の成績順位が米国ドル・ベースのGDPです。
米国ドルでしか購入できない石油、天然ガス、小麦などを購入し続けなければならない我が国は、対外的購買力を維持・強化し続けること、その意味では、ある程度の円高であることが(一部の輸出企業ではなく)日本で暮らす生活者の利益、つまり国益なのです。
更には、参院選での参政党の大躍進を意識しての外国人排斥とも受け取れるような外国人対策を打ち出していることも看過できません。人手不足、人口減少社会にどう向き合うのか(厳格な入国管理を行う等、外国人に日本の法を遵守してもらうなどの対策はよしとしても)、語るべきです。経済成長を主張するなら、外国人や移民の受け入れなしに、どう人手不足を解消して成長経済を実現するのか語ってもらいたいと思います。夜中のコンビニ営業や建設現場の仕事が外国人なしでやれるのか、語るべきです。
また、政治は常に前向きであり、元気のいい、もっと皮肉を込めて言えば「威勢のいい」主張が歓迎されてしまいます。しかし、団塊の世代のひと学年人数が240万人いた時代に比して、昨年生まれた赤ちゃんは80万人を下回っています。
威勢のいい主張は「経済成長」「経済成長」と繰り返しますが、急激な人口減少社会において、国全体の数字を大きくすることを今後も目指していくのか、それとも、国全体のマクロの数字は漸減していくことは仕方ないとして、現在の若者、こども達、これから生まれてくる将来世代の個々人一人ひとりはより豊かに暮らせる社会を目指していくのか、今後の国家ビジョンやそのため予算の使い方が大きく変わってきます。
まだまだ指摘したことは山ほどありますが、人口減少社会、高齢化社会の進展に伴い、世代間の不公平、不公平感をどう調整、解消していくのかの議論も必要です。この点についての明確なビジョンなくして、年金、医療、社会保険料負担、税負担のあり方を語ることの意味がありません。
以上、自問自答してきた「評論家」「コメンテーター」の域をでていないことを恐れますが、自民党総裁選挙から感じること、考えることをお伝えしました。
上記の疑問を呈する以上、「じゃあ吉良州司よ、お前はどう考えているんだ」との問いが出てくると思いますので、時間をかけてじっくりとお伝えしていきたいと思っています。
吉良州司