小沢代表の辞任騒動
| (編集部より)2007年11月に自民党の総裁である福田首相と野党である民主党の小沢代表との間で、大連立構想が話し合われました。福田総裁からの連立要請を小沢代表が受諾したという形になっていますが、その後小沢代表が党の役員会に諮ったところ反対意見が大勢を占め拒否することとなりました。 小沢代表は混乱の責任を取り代表の辞意を表明したが慰留され、2009年5月、西松建設疑惑関連で公設秘書が逮捕され辞任するまでは、民主党代表を務めました。 本メルマガでは、大連立騒動に関する独自の分析を行っています。また、民主党議員の経験不足への警鐘が繰り返し述べられています。 |
みなさん こんにちは!
吉良州司です。
2003年11月9日に初当選してから先週金曜日(11月9日)で4年が経過しました。2003年4月の大分県知事選挙以来、衆議院の初陣選挙、逆風厳しかった郵政解散選挙、日常活動をご支援してくださった(くださる)全ての方々に対して心から御礼申し上げます。
さて、現在進行形の臨時国会は、まさに波乱の連続、「一寸先は闇」を地でいく政治情勢となっています。安倍前首相の突然の退陣、福田政権の発足、大連立政権構想の浮上、小沢一郎民主党代表の辞任騒動など、全てが「衆参のねじれ」を主因とする政治劇です。
この度の小沢代表辞任騒動に対して、多くの方々からお叱り・ご意見を頂戴いたしました。まずは、民主党支持者はじめ、国民の皆様にお詫び申し上げます。今回の一連の騒動は、本来内輪で議論し、収めるべき話であったと思います。言い訳のようになりますが、我々議員も、突然の辞意表明に驚き、驚いている間に続投報道が流れ、期別懇談会や両院議員懇談会の続投会見の場で初めて、経緯説明を受けた次第です。今後はこのような事態がないよう、もっと、党内コミュニケーションを図っていくよう、我々も努力していきたいと考えております。
小沢一郎代表が大連立に前向きになったことに関しては、民主党支持者の多くをはじめ国民世論全体が否定的なようです。確かに政権交代を声高に叫びながら、その相手方と手を組む大連立は国民に対する裏切りだとの見方もあろうかと思います。しかし、私自身は民主党支持者、国民世論の気持ちは十分理解しながらも、国益や確実な政権交代実現という観点から少し、違った考え方、見方をしていますので、以下、今回の大連立構想に関わる私の見解をみなさんにお伝えしたいと思います。
先日、菅代表代行と鳩山幹事長が聞き役となる期別懇談会において、私が主張した問題意識、見方、考え方は以下の通りです。
1.今回、小沢代表が批判を受けているのは次の3点。(1)大連立の話をその場で断らなかったこと、(2)大連立に前のめりになったこと、(3)辞任表明会見において、「民主党は政権担当能力がない、総選挙で勝つことは厳しい」と自身が代表を務める民主党に否定的な本音を語ってしまったこと。この内、(1)については、党内民主主義的手続きをとっており問題なし。寧ろ、独断で決定した方が問題だったのではないか。
2.(2)、(3)については、政権交代を実現するためには真摯に受け止めるべきだ。
3.何故なら、次の総選挙で万が一負けるようなことがあれば、二大政党政治も政権交代も遠のいてしまう。どんなことがあっても、どんなことをしても勝たなければならない。その為に、民主党は連立や政策協議を通して、現在の連立・共闘の枠組みを変え、与党の基盤を脅かすくらいのしたたかさ、狡猾さを持つべきだ。
4.また、連立や政策協議により、参議院選挙で国民に約束したことを、特に生活に密着した政策を法案として通し、具体的に目に見える形で実行することができる。これにより、政権担当能力を国民に示せる。今のままでは、参議院選挙の公約も空約束となり、何も実現はできない。「政治は生活である」と訴えたわけだから、生活に直結する政策を実現する責務が民主党にもある。
5.菅代表代行や鳩山幹事長など、一部の人達は政権運営の仕方を知っているだろうが、大半の民主党議員はそれを知らない。自動車運転でいえば、今の民主党は学科試験に通っただけで一度も仮免許による路上にも出たことがない政党と言える。連立や政策協議の中での活動を仮免許による路上運転と位置づけ、この間に実力をつけて、政権を取った時には自力で運転できるようになる。
6.世間では、「連立か、(選挙による)政権交代か?」を二者択一として捉えているが、このふたつは時系列が違うだけで、両立しうる。現時点の大連立は、政権交代を諦めることを意味しない。連立・政策協議を通して、政権担当能力を証明しながら、連立・共闘の枠組みの改編圧力を加えつつ与党基盤を脅かし、この間に民主党としては総選挙に向けての兵を養う。そして次期総選挙では堂々と選挙により政権交代を果たす。
この期別懇談会において新たな事実として知りえたことは、2回目の党首会談に臨む際、重要な政治判断が必要な事柄については、党の役員会に諮るということを、小沢代表と役員の間で、確認していたそうです。それだけに、「何故、その場で大連立を断らなかったのか?」という批判は、根拠なしと言わざるをえません。また、辞任表明会見において、「民主党は力量不足、総選挙で勝つことは厳しい」と語ってしまったことについても、「敵を知り、己を知らば百戦危うからず」という格言があるように、政権交代を実現するためには、自分達の現在の実力を冷静にみつめる必要があり、党として、また、所属議員として、真摯に受け止めるべきだと思います。
また、期別懇談会では発言をしておりませんが、上記に加え、次のような問題意識、考え方も持っています。
まず、参議院選挙の大勝利の直後は、傷だらけになった安倍晋三内閣を更に揺さぶる目的で、徹底抗戦方針を打ち出した。テロ特措法についても、原理原則論とも併せ、早くから「反対」の方向性を示して、安倍晋三内閣を瀕死の状態に陥れ、早期の解散総選挙に追い込もうとした。民主党としては、総選挙の準備は万全ではないものの、瀕死状態の安倍晋三内閣相手なら、勢い、風に乗って勝てると踏んでいた。しかし、突如、安倍晋三前首相が政権を放り出し、代わって福田康夫内閣が誕生した。福田康夫政権は野党、特に民主党との対話、協調路線を模索しているし、それなりに高い内閣支持率を維持している。早期の解散総選挙を目指してきたが、安倍晋三内閣相手のようにはいかない。瀕死状態どころか、かなりの支持を得ている政権が相手となれば、まったく同じスタートラインに立たざるを得ない。この状況に至り、小沢代表は、民主党としての戦略・先述の大転換を狙ったのではないか、と思っています。
また、総選挙で勝てる、勝てないという問題以前に、ねじれにより国会がほとんど機能しなくなってしまった現実に直面して、「国民への責任」という、一番大事な観点からも、当初の戦略・戦術を再考しなければならないと思い始めたのではないかと思っています。
私は常々主張していることですが、参議院選挙と衆議院選挙では、国民の投票行動が大きく異なると思っています。また、議席配分において、都市部と農村部の比重が大きく異なることも強調したいと思います。因みに、東京都だけで衆議院は選挙区25、東京比例17の合計42名の議席枠があります。一方、参議院は3年毎に5議席ずつでしかありません。
「おたかさんの消費税反対」に象徴されるように、真の政権交代とはならない参議院選挙では、これまでも、「反対」を叫び、また、与党の非を徹底追及することにより、国民は、与党の横暴や不正に対する怒りの声を参議院選挙にぶつけ、与党にお灸を据えてきました。それ故、小沢代表も参議院選挙では野党共闘や(「地方切捨て」という地方の反発に応える形での)農村部対策を重視した戦略・戦術を展開しました。今回の参議院選挙では自民党の自滅とも相俟って、この戦略・戦術は見事に成功しました。
しかし、小沢代表も自ら指摘、戒めているように、参議院選挙の勝利に浮かれていて勝てるほど総選挙は甘くはありません。民主党として、冷静にならなければなりません。国民は必ずしも、民主党や民主党の掲げる政策を信任したのではないかもしれないと「勝って兜の緒を締める」べきです。
与党の横暴や絶えない利権・癒着体質に不信任を突きつけたと理解すべきです。真の政権交代がかかる次期総選挙は与党も死に物狂いになります。議席配分も都市部に多いため、参議院選挙において掲げた農村部重視の政策がそのまま全国的に活きるわけではありません。今回の参議院選挙では多くの自民党支持者がお灸を据えるために民主党に投票してくれましたが、本当の政権交代となる総選挙では、いくら「反対」や「現与党が信頼できないこと」を主張しても、それだけで、投票はしてもらえません。民主党がどういう国を創ろうとしているのか、その為に何をするのか(政策)、それは本当に実現性があるのか、また、民主党の力で実現できるのか?が厳しく問われることになります。
このような問題意識、ものの見方、考え方から小沢代表は、政権にあるか(連立)、政権に近いところ(政策協議)で民主党の政策担当能力を示すことに方針転換をしようとしたと思っています。また、参議院選挙で示した農村部重視の政策を、具体的に実現して、農村部からの信任を実績として得る(実績評価の票をもらう)、その上で今度は都市部の国民にも理解を得られる政策を訴えていくことにより、期待票を狙う、という総選挙に向けた方針転換を図ろうとしたのではないかと思っています。
以上は私自身の問題意識やものの考え方であり、小沢代表に確認したわけではありませんが、大事なことは「選挙による政権交代は必ず成し遂げる」ということです。政権交代こそが真の構造改革だからです。それまでの連立や政策協議は道程に過ぎないということです。選挙による真の政権交代を成し遂げるためには、実践訓練しながら兵を養い、来るべき日に備えるという、したたかさ、狡猾さも必要だと思います。
民主党には優秀な人材がたくさんいます。現在の自民党支持者の大半は、実質的に予算配分権限、法律制定権限を持つ「政権党支持者」だと思っています。その政権党を相手に選挙で勝つ、または善戦して比例復活することは容易なことではありません。しかし、民主党の議員は、官僚に頼らず、質問準備の為、政策つくりの為、日々勉強しています。また、清廉さを保ち、研鑽を重ね、毎朝の駅前での街頭演説活動など、地道な日常活動も行っています。一度、政権を任せてもらえれば、多少の試行錯誤はありましょうが、政権を任せるにふさわしい人材の集まりだと国民から信じてもらえると思っています。しかし、議会での論争には長けていても、実社会での経験、政権運営上の経験などはまだまだ十分ではありません。この現実を真摯に受け止め、この足らざるところを補うことに躊躇すべきではないと思います。その為の選択肢として、連立や政策協議があってもいいという意味では、今回の小沢代表の迷いに、私は拍手を送りたいと考えています。言うまでもなく、政党は万年野党で良いはずがありません。スローガンを掲げることが、政治家・政党の目的・役割ではなく、掲げたスローガンを実現することが、本来の目的・役割であるべきなのです。今回のことで、私達政治家、そして民主党は大きなダメージを受けましたが、このことを改めて考えさせられると同時に、今後地道な活動を通じ、失った信頼を取り戻して行きたいと考えております。
最後に、私は鳩山幹事長を迎えた10月20日の民主党大分県連の政権交代研修会において次のように訴えました。「最近の政治は、与党側も野党側も選挙に勝つこと自体が自己目的化しており、国民を見る前に、まず、隣にいる連立政党や友好政党の顔色を伺っている。大事なのは国民であって、国民の為になるなら、将来世代の為になるなら、進んで共闘すればいいが、国民の為にならないと思えば、独自の道を歩む勇気が必要だ」と。
連立や政策協議をすべきか否かは原点に立ち返って、現在、将来の国民の為になるかならないか、その一点だけで判断すればいいと思っています。しかし、今回の騒動をへた今でも、極めて近い将来の政権交代が一番国民のためになるという私の考えは微動だにしてはいません。その政権交代を実現する為に、今後とも力の限り努力を惜しまない覚悟です。
吉良州司