トランプ大統領によるベネズエラ・マドゥーロ大統領拉致事案 ~吉良州司は米国から見た南米の地政学的重要性、特にコロンビア、ベネズエラの重要性につき2016年外務委員会で指摘していた

みなさん
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。新年早々のこの時期は、毎日早朝から夜まで、新年行事が立て込んでおり、この3連休でようやく一服したところです。

この間の1月3日、米国陸軍特殊部隊・デルタフォースがベネズエラの首都カラカスに侵攻し、同国マドゥーロ大統領を拘束、拉致する事案が発生し、世界中を震撼させました。

この件に対する吉良州司の見解は順次お伝えしていきますが、今から10年前の2016年10月26日の外務委員会において、「地政学的外交戦略について」とのテーマで質問を行い、その中で、米国から見た南米の地政学的重要性、特にコロンビア、ベネズエラの重要性について指摘していました。

本メッセージは、本論前の前段として、米国にとってのコロンビア、ベネズエラの重要性に触れた部分の議事録を掲載させて戴きます。
この質問の前半の部分は、『TPPは米国、日本、太平洋沿岸諸国など「海洋国家、海の帝国(Sea Power)」の枠組みであり、一方、中国が進める一帯一路構想とその推進役的な役割を担う「上海協力機構」は、ロシア、インド、中央アジア諸国などが加盟する「陸の帝国(Land Power)と位置付けることができる。我が国は地政学的戦略外交手段としてTPPを有効活用すべきである」という提案をしたことに続き、『日米同盟が日本外交の基軸であるが、日米同盟というと、とかく太平洋を挟んだ発想になりがちだが、米国から世界を見ると、南米諸国、特に地政学的に南米の重心に当たり、世界最大の原油埋蔵量を誇るベナズエラの隣に位置するコロンビアが重要である。米同盟強化を考えるなら、日本がコロンビアをAPECやTPPに招き入れる役割を果たし、我が国が米国と協力してコロンビアの安定と発展に貢献することも日米同盟強化につながるのではないか』との指摘をした質問です。(質問全体の要約版はこちらをご覧ください)


○吉良委員
今日は、特に地政学的な視点を盛り込んだ外交方針、外交戦略について、質問をさせてもらいたいと思います。
<中略>
○吉良委員 <中略>
 次に、もう少し戦略的な観点から、話を今度は南米に移していきたいと思います。
 大臣、ニューヨークからアルゼンチン・ブエノスアイレスに飛行機で行くときのちょうど中間点はどこか御存じですか。
○岸田国務大臣 済みません。突然の御質問なので、急に思い当たりません。
○吉良委員 世界地図が頭に浮かんでくる人でも、大概の人はキューバだとかドミニカだとか、人によってはマイアミだとか、そういう解答をする人が多いんです。答えはコロンビアのボゴタなんです。それだけ南米大陸は長いのですが、地政学的に米州のど真ん中のへそに位置するのがコロンビアです。
 もう一つ、米国が現地採用の大使館員ではなく、本国からの外交官を一番多く送り出している国はどこか御存じでしょうか。
○岸田国務大臣 幾つか三百名規模の外交官を送り出している国があるということでありますが、コロンビアもその一つだというメモが今回ってまいりました。
○吉良委員 今度ノーベル平和賞をもらったサントス大統領が初めて当選されて大統領になったときに、私は特派大使として大統領就任式に出させてもらいました。その当時の日本の駐箚大使から聞いた話では、今私が質問した最大の国はコロンビアでした。米国にとってコロンビアがいかに重要な国であるかということがわかると思います。
 あと、もう一点、世界で一番原油の確認埋蔵量の多い国はどこか御存じですか。
○岸田国務大臣 ベネズエラでございます。
○吉良委員 その通りです。資料の三ページ目に、世界の国別原油・天然ガスの生産量・確認埋蔵量を添付させてもらっていますが、埋蔵量世界一はサウジアラビアだと思っている人が多いのではないでしょうか。しかし、答えはベネズエラです。そのベネズエラの隣にあるのがコロンビアです。
 今回のノーベル平和賞がコロンビアのサントス大統領に贈られたということについての大臣の感想、評価を簡潔にお伺いしたいと思います。
○岸田国務大臣 コロンビアにおいては、半世紀にわたり、国内において紛争が続いてきました。その中にありまして、サントス大統領がこの和平に向けて大変な御努力をされてこられたことについて、心から敬意を表します。その評価がノーベル平和賞であったと認識をいたします。
○吉良委員 では、今、日本がコロンビアとの関係で重視していること、そして、日本外交としてコロンビアに対してどう向き合おうとしているのかについて、お伺いします。
○小田原大臣政務官 コロンビアは、豊富な天然資源や南米第二位の人口を有する潜在力の高い国であります。経済的にも、欧米との関係強化等、開放経済を推進しています。また、コロンビア革命軍との和平プロセスが進んでおり、国際的な注目も高まっております。
 御指摘のとおり、アメリカはこうしたコロンビアとの関係を重視しまして、2012年にはコロンビアとのFTAも発効しています。ことし2月にコロンビアのためのグローバル地雷除去イニシアチブを主導するなど、さまざまな協力を実施していると認識しております。我が国も、同イニシアチブに参加し、米国と連携をしてコロンビア支援を実施しているところです。
 我が国としては、コロンビアの和平プロセスを引き続き支援するとともに、同国のさらなる経済発展に資する形で、今後も地雷除去支援、日・コロンビアEPA交渉の推進などを通じて、二国関係を強化してまいる所存であります。
○吉良委員 その自由貿易、自由経済を重視するコロンビアが加盟をしている太平洋同盟という枠組みがあります。この太平洋同盟と日本とのかかわりがどうなのか、簡潔にお答えいただければと思います。
○小田原大臣政務官 太平洋同盟は中南米の主要な太平洋沿岸諸国により構成をされております。太平洋同盟のGDPは、中南米全体の38%、貿易額の約50%です。我が国と太平洋同盟諸国との貿易額は、我が国の対中南米全体の貿易額の7割。
 2012年6月に、加盟国間の物、サービス、資本及び人の自由な移動を目標とした枠組み協定が署名をされ2015年7月に発効、貿易品目92%の即時関税撤廃などを内容とする協定附属書も2016年5月1日に発効しています。
○吉良委員 その太平洋同盟の中で、メキシコ、ペルー、チリ、これらの国々は、APEC加盟国でもあり、かつTPP加盟国です。コロンビアだけが今入っていないという状況ですが、これは何か理由があるんでしょうか。
○高瀬政府参考人 今委員御指摘のとおり、コロンビアはTPPにもAPECにも入っておりません。特段私どもも詳しい事情は存じ上げませんが、TPPにつきましては、APEC参加国の中から交渉が始まっていると承知しています。
○吉良委員 私も明確な理由を実は知りません。ただ、米国が本国の外交官を一番多く送り込んでいるということにもあらわれていると思うんです。
 この意味合いは、地政学的に米州の重心であるということ。それから、隣には反米色を明確にしたベネズエラのチャベス政権があった。そして、南には反米政権のボリビアがいる。隣のエクアドルのコレア政権は、今言った国々ほど激しくはないですが、親ベネズエラ・反米という状況。そして、キューバも最近でこそ雪解けがはじまりましたが、反米国家でした。その状況に加え、これまで反政府勢力FARCとの内戦がずっと続いていたコロンビアまでもが反米化すると、非常に大きな米州内リスクを抱えてしまう。また、ゲリラ組織の資金源にもなっていた麻薬がメキシコ、アメリカに流入していた。これらが、米国が一番多く本国外交官を送り出していた理由ではないかと思っています。
 そういう意味で、今回、和平合意がなされたこと、そして、ベネズエラについても後継政権ではありますけれどもチャベスそのものの政権ではなくなったこと、もろもろ、コロンビアをAPECとTPPに迎え入れてもいい状況になりつつあると思っています。
 南米第二の人口を誇り、太平洋にも大西洋にも面していて、鉱物資源にも恵まれ、そして貿易・投資という自由経済を志向するコロンビアがここに入っていないことには違和感を感じます。
 日本が中心になってコロンビアをAPECとTPPに迎え入れるように日本外交として努力していただきたいと思いますが、如何ですか。
○小田原大臣政務官 我が国としては、太平洋同盟の重要な一員であるコロンビアとの経済関係を重視しており、現在、日・コロンビアEPAの早期締結に向けて精力的に交渉に取り組んでいます。他方、TPPは、21世紀型の高いレベルの貿易・投資ルールを構築するものであり、今後の経済連携のスタンダードとして、アジア太平洋地域に参加国・地域が広がっていくことを想定しています。コロンビアがTPPの高い水準を満たしつつ参加することになれば、アジア太平洋地域の安定と繁栄に大きく寄与すると考えています。
 APECへの新規参加については、現参加メンバーのコンセンサスが必要であるものの、我が国としては、APECへの参加を通じて地域の貿易・投資の自由化、円滑化に貢献しようとするコロンビアの意思を歓迎しているところです。
○吉良委員 もう時間が来ましたので、最後、言いっ放しで終わりたいと思います。私自身、日米同盟の強化、日米関係の強化というのは非常に重要だと思っています。ただ、ともすれば、日米関係というと、太平洋を挟んで、日米、米中、米韓など、どうしても太平洋だけのことを考えがちです。しかし、アメリカが、一番多くの外交官を送り込んでいるのがコロンビア。それだけ関心が高い。中国的に言うならば、核心的利益の国がコロンビアです。
 その意味では、日米関係を強化するためにも、我が国としてコロンビアに対して深くコミットする。また、さっき言った我が国の将来的なエネルギー安全保障の観点からも、最大の原油埋蔵量を誇るベネズエラの隣に位置するコロンビアにコミットすべきだと思います。もちろんベネズエラ原油の質はちょっと重いのですぐには利用できないんですが、中東地域がいろいろな意味で不安定な中で、やはり南米にもエネルギー安全保障上の拠点をきちっと位置づけること、そして米国と一緒になってコロンビアのプロジェクトを推進すること自体が、間接的ながら、日米同盟・日米関係の強化につながると思います。そういう意味でコロンビアを重視していただきたいということを申し上げまして、私の質問を終わります。ありがとうございました。


会社の留学制度を利用して希望通りブラジルに留学し、5年半のニューヨーク駐在時代には100回を超える南米出張を繰り返していた私の経験から言えることは、米国は中南米のお陰で(中南米からの移民が米国市民となって活躍し、経済を支える消費者となっている)先進国の中で唯一生産年齢人口が増加しながら成長し続ける国になれています。米国から見た世界の中では、中南米の存在が本当に大きいのです。
今回のマドゥーロ大統領拘束・拉致という米国の行動が正当化されるとは到底思いませんが、日本から見る中南米と米国から見る中南米は全くその存在感が異なるという点だけ指摘をして、本メッセージはペンを置きます。

吉良州司