予算委員会 議事録

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○吉良委員
有志の会、吉良州司です。
高市総理に初めて質問させていただきます。

冒頭、地元大分市佐賀関の大火災害に当たって、多くの方々からお見舞いの言葉をいただきました。この場をおかりして御礼を申し上げます。また、一昨日は青森県沖を震源とする大きな地震がありました。やはり被災者にお見舞いを申し上げます。どちらについても最大限の政府の支援をお願い申し上げる次第です。

今日の質問のメインテーマ、その第一は、株価は五万円を超えるなど企業業績は極めて好調なのに、生活者は物価高で悲鳴を上げている、このギャップは一体どこから来ているのか。そして第二は、現在の日本の経済構造を考えると、補正予算案の物価高対策は一時的な対症療法であり、根本治療ではない、甚だ不十分ではないか。この二つの問題意識を中心に、国民の皆さんにもデータを示して御理解いただきながら、高市総理に質問したいと思います。

早速ですが、企業業績の好調と生活者の物価高による生活苦、このギャップが一体どこから来ているのか、その認識について総理の見解をお伺いします。極めて簡潔な答弁をお願いします。

○高市内閣総理大臣
これまでの企業の動向を見ますと、リーマン・ショックやコロナ禍による落ち込みはありながらも経常利益や配当は伸びた一方で、賃金が伸びておりません。これは、やはり長年のデフレの中で企業部門がコストカットを行ってきた結果、収益の増加に比して賃金や将来の成長のために必要な投資が抑制されてきたことにあると考えております。

ですから、企業が過度に現預金を保有するのではなくて、設備や人への投資などに効果的に活用するということが重要だと考えております。

○吉良委員
今の総理の答弁の御認識については、私も全く共有するところであります。

ただ、私自身は、もう少しマクロ経済を考えた上で、このギャップがどこから来ているのかということについて、少し国民の皆さんにもデータを示しながら、駆け足で私の見解をまず披露したいと思います。

まず、日本経済の根本構造を見ていただきたいと思います。パネル一です。

これは、名目GDPを日本円と米国ドルベースで表したグラフです。そして、円・ドル相場と原油価格の推移も同時に表しています。

我が国は、国民生活と事業活動に必要なエネルギー資源や食料などを輸入せざるを得ないという宿命の中、過度な円安は対外購買力を低下させ、それが輸入物価の高騰を招き、国民生活を物価高で苦しめることに直結しています。

それゆえ、日本経済の実力は、対外購買力を考慮した米国ドルベースで評価すべきです。残念ながら、米国ドルベースのGDPは低迷し続けています。このグラフでいえば、赤の折れ線グラフです。二〇二四年は何と四兆ドルと、民主党政権時代の六・二兆ドルよりも二兆ドルも減少しています。海外の国々が日本の経済を評価するとき、日本のGDPは六百兆円を超えたといっても通用しません。米国ドルベースのGDPを見て、どうしてこんなにも日本経済は低迷しているんだという印象を持っています。

為替相場と交易条件は密接に関係しており、原油価格など世界の物価が高いときに円安だと、交易条件が悪化し、国民生活は大変苦しくなってしまう、これが日本の経済構造です。

その影響がもろに表れているのが現在です。二〇二四年の原油価格平均はバレル七十ドル台半ば、現在は六十ドル前後で推移していますけれども、これに一ドル百五十円強という円安が続いているので、国民は物価高に苦しんでいるということです。

パネル二を御覧いただきたいと思います。

このグラフで確認したいのは、先ほど言いました五万円を超える株価、この株価はGDPとは連動していません。お金がどれくらい市場に流されているかを表すマネタリーベースには連動して上

昇していますけれども、国の豊かさ、国民の豊かさを示すGDPは、株価ではなく個人消費に連動しています。だからこそ、個人消費を上向かせる賃上げが重要なんです。

ただ、ここ数年、日銀の方針転換もあり、マネタリーベースは横ばいになってきているのに、株価は大きく上昇しています。この一番こちら側を見てもらえれば分かります。

これはなぜなのか。ここからが一番重要な議論になります。パネル三を御覧ください。

このグラフは、日本の名目GDP、GNI、第一次所得収支の推移を表したグラフです。GNIとは、ここにいらっしゃる皆さんは承知のことですけれども、国民総所得のことで、日本人、日本企業が日本を含む世界中で稼ぎ出した所得の総和です。第一次所得収支は、海外投資から得られる配当金や金利収益です。

ちょっとこの数字について言うと、このパネルを作成した後、一昨日、GDPの算出基準の変更があってGDPが二十六兆円上振れしていますけれども、これは同時にGNIも二十六兆円上振れしますので、第一次所得収支の額は変わらず、このグラフをそのまま使用します。

これを見ると、日本企業が日本以外で稼ぎ出す所得が、二〇二四年は四十兆円強となっています。日本経済が目指す経済成長率を三%とすると、GDP六百兆円の三%、十八兆円、これが増えれば成長率三%ということになるわけですけれども、その二倍以上の四十兆円という金額を海外で稼ぎ出しているんです。

では、どうしてここまで海外の所得が増えているのか。それを端的に表しているのが次のパネル四です。

このパネルは、二〇〇〇年を一〇〇とした場合、二〇二四年までの二十四年間、海外直接投資が九五七とほぼ十倍に増えています。一方、国内への設備投資は一二二、微増にとどまっています。

では、稼いだ所得の内訳はどうなっているのか、それを表しているのがパネル五です。

これは、下の方にある青色部分は直接投資から得られる配当金、ピンク色は海外証券投資から得られる金利収益です。証券投資の額は変化がないのに対して、直接投資からの収益は大幅に増えています。これらの収益の合計が四十兆円になっているわけです。

このドルベースの海外収益は、円安によって円換算では大きく膨らんでいます。パネル六を御覧ください。

先ほど見たように、海外直接投資自体が増えていますので、ドルベースの収益も拡大しています。しかし、円安により、円換算では大きく水膨れしているということが確認できます。

ここで注意が必要なのは、この収益は本社連結決算上の帳簿上の利益であって、キャッシュフローはほぼ三分の二、海外で再投資され、日本国内に還流していません。円安により海外への大量支払いで出ていってしまったお金は日本には戻ってこず、一方、海外投資で得られたお金も、海外に再投資されることで日本に舞い戻ってこない。ですから、日本経済がよくなるはずがないんです。

二昔前までは、企業の隆盛は企業城下町を潤し、それはトリクルダウンとして全国を潤すという時代がありました。しかし、今は、海外で大きく得られる収益が日本列島で暮らす生活者の生活向上に直結しない、そういう時代になってきてしまっています。

断っておきますけれども、私は企業批判をしているわけではありません。企業としては、生き残るため、必ず利益を出すため、世界のどこにでも進出していって利益を最大化する、それは当然のことであり、経営判断としては極めて合理的だと思っています。問題は、アベノミクスの継続で円安を放置し続け、国内の生活者を犠牲にしながら海外で大きな利益を上げる企業を、政府が国を挙げて支援しようとしていることです。

物価高、特に輸入物価高騰で苦しむ生活者から、海外で大きく稼ぐ企業に所得移転されている、これが日本の現状です。つまり、先ほどのパネル三でいうと、政府は、国民の豊かさ、国の豊かさを表すGDPではなく、企業が海外で稼ぐGNIの拡大を支援しているということになります。これが、私の言う、方向が違うということです。この海外で稼ぐ利益の恩恵は、国内で暮らす生活者に行き届いていないのです。

その最たる例がトランプ関税対応です。トランプ関税交渉前から、今見てきたように、これだけの海外直接投資が行われていたのに、なぜ政府が自ら音頭を取って海外投資を更に促す必要があるのか。それも五千五百億ドル、八十兆円強の海外直接投資を政府が先頭に立って進める理由が、私には全く分かりません。

日本の経済構造を考えたとき、政府は、生活者を犠牲にしてまで、海外で稼ぐ企業を優先する業界優先の経済政策ではなく、あくまで生活者を優先した生活者優先の経済政策へと大転換すべきです。

そのために今まずやることは、円安の抑制、そのための金利の正常化、利上げです。金利引上げによって、二千兆円を超えると言われている国内個人金融資産に、金利収益という形で新たな可処分所得を提供することができます。また、金利引上げこそ、強い経済を実現できると思っています。

総理は、強い経済をつくると主張されています、意気込んでおられますが、低金利政策を続けたまま強い経済を実現されると本当にお思いでしょうか。私の経験を少し話した上で、高市総理の見解をお聞きしたいと思います。

私の経験の第一。商社勤めのニューヨーク駐在員時代、北中南米全域の採算責任者が集う場で、ある部門の部長が、ベネズエラで一五%リターンがあるというプロジェクトを提案しました。正確な数字はちょっと忘れていますので、その趣旨について御理解いただきたいと思いますが、そのときの米国会社社長兼米州総支配人は次のように言いました。ベネズエラだろう、一五%リターンのプロジェクトを推進するのに何の意味があるんだ、ベネズエラの金利を見てみろ、二〇%ぐらいあるだろう、それなら銀行に預けておけばいいだろうと。二〇%を大きく上回るリターンの案件を追求しろという話でした。

また、私が東京本社の課長時代のことですが、営業部が何かの案件で投資しようとするときに、会社の財務部門から投資金利を借りることになっていました。その投資金利は、たとえ市中金利が三%であっても、三%とかで貸してもらえません。リスクを伴う投資案件だからこそ、高い金利にも耐え得る優良案件に投資すべきという会社方針の下、会社が定めた投資金利四・五%で財務部門から借りていました。四・五%の投資金利を大きく上回る高いリターンのプロジェクト、案件を追求し、実現するしかなかったんです。

〇・五%の政策金利ということは、一%のリターンのプロジェクトが成り立つという経済なんです。一%のリターンの事業が、プロジェクトが成

り立つ経済が強くなると思われますか。生産性向上、賃上げ、これらは高い収益を追求してこそ実現できる課題です。そのことが強い企業をつくり、強い経済をつくっていくと私は思っています。

その意味で、低金利の下で強い経済を実現できると高市総理はお考えでしょうか。そして、先ほど私が申し上げた、企業の高い収益に比べて、生活者が物価高で苦しんでいる、このギャップに対する私の分析、考え方に対する見解とも併せて総理の答弁を求めたいと思います。

○高市内閣総理大臣
まず、企業の高い収益力に対して生活者が苦しんでいるという点については、冒頭に私も申し上げたとおりでございます。

コーポレートガバナンス改革、これをしっかりと進めていくということで、できる限り、現預金で持っているとか、特定の株主、株主優遇というものが行き過ぎるんじゃなくて、むしろ、研究開発、設備投資、そして何よりも大切な人への投資、従業員への投資、こういった方向に持っていきたいと思っております。

為替に関しまして、これは、金融政策の具体的な手法ですとか、金利ですとかそういうことに関しましては、ちょっと、私の口からこの場で発言するということはお許しいただきたいんですね。

日銀には、やはり政府と密接に連携を図って、経済、物価、金融情勢も踏まえながら、コストプッシュではなくて、賃金上昇も伴った二%の物価安定目標の持続的、安定的な実現に向けて適切な金融政策運営を行うということを期待しております。

その上でですけれども、私が目指しているのは、やはり立地競争力を強くする、日本国内の立地競争力を強くするということ。そして、もう一つは、為替変動にも強い経済構造を何としてもつくっていきたいという思いがございます。

今回の補正の中で頭出しをあえてさせていただいた危機管理投資、リスク管理投資というのはそういうことなんですね。例えば、経済安全保障という分野をかなり打ち出しましたけれども、外から購入する資源、これは確かに今、円安で高いですよね。それでも、できる限りエネルギーに関しては日本で自給していける、それから食料、食料の安全保障、これも何とか確立したい、自給率を上げていきたい。

だから、為替変動にも強い経済構造をつくる、その打ち出しとして、頭出しとして今回の補正にも盛り込ませていただいた各種政策がございます。これは、私がずっと申し上げてきたリスク管理投資なんです。

だから、一概に、例えば円安がすごく悪いとか、円高がすごく悪い、これはどっちもありです、一般論としては、もう十分御承知だと思いますが。行き過ぎた円高のときには、やはり日本は大変だったじゃないですか。例えば、ドル七十五円台のときがありましたよね。あのときは、やはり国内の企業が外に出ていく、空洞化というものがありましたよね。今はそうじゃない、反対に、日本国内で物を作って輸出した方が売れる、こういう時代ですよ。だけれども、反対に、輸入するものは高い。だからこそ、できる限り自給率を上げていきたい、これが私の方向性でございます。

○吉良委員
共有する部分もあるんですけれども、私の問題意識に対しては、正直、正面から答えてもらっていないと思っています。

為替については、おっしゃるとおり、円安のメリット、円高のメリット、両方ともあることは十分承知しています。そして、為替が金利だけで動くものではないということも十分分かっています。いつも言いますけれども、私はその世界でずっと生きてきた人間ですから。

ただし、先ほど、民主党政権時の円高時代で苦しんだということをおっしゃりたかったんだと思いますけれども、私が言いたいのは、先ほど言いましたように、政府として、企業を最優先するのか、生活者を最優先するのか。当然、どっちも優先したいというのが高市総理の思いだと思います。しかし、私はあえて、国内で暮らす生活者を優先すべきだ、そして、生活者を優先した場合には、円高の方が、今のように輸入物価高騰による物価高に苦しまなくていいと思っています。

パネル一で、あえて民主党時代の原油価格を書いています。それはどういうことか。産業だけを見た場合に、確かに、六重苦と言われるように、苦しかったでしょう。それは、ある意味、海外への直接投資の契機になったかもしれません。しかし、先ほどパネルで見てもらったように、実は民主党政権以前から、海外投資というものはずっと増え続けているんです。要は、需要がより高いところに既に、円安、円高にかかわらず、企業は投資をし続けていたんです。

民主党政権のときに、今言った、産業界は、六重苦だという、いろいろな悲鳴を上げていたかもしれません。でも、生活者が、決して豊かではなかったかもしれないけれども、今のような悲鳴を上げていましたか。これは、原油が百ドルを超えるような大変高い時期、日本の交易条件を悪化させるような時期に、円高だったから国内の生活者は助かったんです。百円ショップを見てください。今、百円ショップに行ってちょっといいなという商品があったら、百円じゃないんですよ、二百円、三百円、四百円、五百円以上しますよ。民主党政権時代はほとんど百円だったじゃないですか。

なので、私が言いたいのは、高市総理に、産業も大事だ、生活者も大事だというより、あえて優先順位をつけて、生活者を優先してほしいということを言っているんです。

なぜならば、今政府が一生懸命支援しようとしている企業、特に輸出企業、海外にアクセスできる企業は、私もどっぷりその世界にいましたから分かるんですが、優秀な社員、鍛えられてトップになった優秀な経営者たちだらけなんです。だから、どんな環境になっても彼らは生きていけるんです。必ず利益を出す、その方策を見つけるんです。その一つが現地投資でもあり、その一つが海外に張り巡らすサプライチェーンです。それを駆使しながら、彼らは必ず生き残っていくんです。必ず利益を上げていくんです。

けれども、生活者は、過度な円安による物価高、逃げようがないんです。なので、あえて、生活者を優先した経済に切り替えてくれということを私は申し上げているんです。研究開発が大事だ、人への投資が大事だ、それはここの全員が一緒ですよ。我々はあえて、生活者を優先してくれということを言っています。

いかがですか、総理。

○高市内閣総理大臣
この度の補正予算でも、生活の安全保障ということ、これは生活者を守るための補正予算でございます、物価高対策も講じておりますし。

そしてまた、委員がおっしゃるように、企業には、輸出する企業もあれば輸入する企業もある、中小企業もある、小規模事業者もありますよ。でも、そこで働いている方々もまた生活者です。それが輸出企業の方であっても生活者です。だから、やはり、生活者を守るということは、ここにいらっしゃる国会議員みんなそうだと思いますけれど

も、最も重視すべきことだと思います。

○吉良委員
私があえて優先順位のことを言っているのは、円安を是正、抑制していけば、その分、物価高が和らぐわけです。そこを、あえて、今言った、一人でも自力で生きていける企業を政府として一生懸命支援するから、そこで悲鳴を上げる、ここを放置したまま、悲鳴を上げているからと、新たな国債を十一兆円も発行して、将来世代にツケを回して、そして、そちらを支援して、どうだ、一生懸命皆さんに寄り添って支援していますと。これは、私にとってみれば、優先順位を明確にしないから、余計な税金そして将来に対するツケをあえて上げながらやっている政策で、私に言わせれば、根本治療とは甚だ異なるということをあえて申し上げて、私の質問を終わります。

ありがとうございました。