山口補選と今後の動きについて

みなさんこんにちは。
大型連休の序盤、いかがお過ごしでしょうか。

さて、昨日行なわれた山口2区の補欠選挙では、民主党公認の平岡秀夫氏が116,348票を獲得、自民党候補に2万1944票(得票率では10.4%)の大差をつけて見事当選しました。ガソリン税や後期高齢者医療制度など、与党の大きな失政が相次いだことなどが民主党候補の勝因と考えられますが、ここでは、今回のことがしばらく政界に影響を与えることになりそうですので、今後の動きなどについて少しご説明したいと思います。

最初の大きな節目は、明後日です。揮発油税等(いわゆるガソリン税)の暫定税率について、参議院での審議が行なわれ、その答えを出すべき期限(※1)が4月28日、つまり今日でした。参議院での議決はなされませんでしたので、総理をはじめ政府与党首脳がこれまで言ってきたとおり、衆議院であさって30日には3分の2をもって再可決(※2)がなされることでしょう(あさってまでに急転直下の政治決断による翻意の時間と可能性は残されていますが)。衆議院で再度議決がなされるこの法案は、所得税法等の一部を改正する法律案(いわゆる租税特別措置法改正法案)といって、その内容は、いろいろな法律の内容を少しずつ変更するものです。今回の焦点となっている揮発油税について関連する部分は、第88条第十項で、租税特別措置法第89条を変更するものです。租税特別措置法第89条では、そもそも揮発油税第9条に規定されている税額を1キロリットル当り2万4300円から、1キロリットル当り4万8600円と、ちょうど倍に引き上げています。この租税特別措置法によって増やされた税額部分がいわゆる「暫定部分」なのですが、この「暫定」措置は、これまで数次にわたる延長によって34年間維持され続けてきました。前回の延長は平成5年で、今年まで15年間延長がなされましたが、今回は、平成30年までさらに10年間維持しようというのです(所得税法等の一部を改正する法律案第88条第十項)。

また、もう一つ、大きな節目があります。5月11日までに参議院で議決がなされないか否決された場合に、衆議院で再可決が可能となる道路整備費財源特例法改正案です。この法案は、道路特定財源の根拠となる法律です。この法案によって、ガソリン税は道路建設以外には使えないという「特定財源」の性質を先程の暫定税率の議論と併せて10年間延長しようとするものです。この法律の中では、「もし」財源が道路予算に使っても余った場合には、一般財源に回しましょうという安倍政権のときに出来た規定も盛り込まれていますが、国交省が検討している「道路中期計画」という道路整備計画では、65兆円以上(数字の根拠や詳細は明らかにされていません)が道路予算として今後10年に必要だという試算をしています。政府与党合意でこの総額は59兆円に減額されましたが、やはりこれも積算の根拠も減額した6兆円の根拠も不明です。また、59兆円だとしても、平成20年度の道路特定財源の税収見込み額5兆3千億円の10倍をはるかに超えた額であり、「一般財源に回す余裕はありません」と、お金をこれから使う国交省では言っているわけです。余ったら一般財源にまわすというのは、一見すると大変良い政治決断のようにも見えますが、官僚の手にかかれば、それをまったく無にすることなど他愛もないこと。あってないような規定にされてしまいました。そもそも、小泉総理も、そのあとを継いだ安倍総理も道路特定財源の一般財源化(※3)を画策してきましたが、自民党道路族の強硬な抵抗に遭い、挫折してきた経緯があります。しかし、昨今の報道によれば、少なくとも小泉総理チルドレンなど一部の自民党若手には、道路特定財源の一般財源化をすべきだという声もまだ根強くあるようです。地方に財源をばら撒くのに暫定税率を廃止されて、税収が減ってしまっては困るけれども、道路以外にも使える一般財源にするだけならば飲めない話ではないといったところでしょうか。

政府与党は、34年前のオイルショックのときに税収を確保するための暫定措置として導入された後、ずっと維持されてきた暫定税率、さらには、集めたお金を道路建設以外に使えないという「縛り」を更に10年延長しようとしています。民主党が既得権益の維持や腐敗の温床になるとして求めている暫定税率の即時廃止及び本則部分(揮発油税法9条による本来の税額)の一般財源化(一般財源化した財源は地方に回し、地方の判断により必要な施策に自由に使えるようにする)とは、大きな隔たりがあることはよくお分かりいただけることでしょう。現在与野党の間では、揮発油税の扱いについて、福田総理大臣が国民に直接語りかけた「来年平成21年度から暫定税率を含んだ揮発油税全ての一般財源化」の提案などを含めてどうすべきか議論をする協議機関(与野党の幹事長や政策担当者がメンバー)を設けて議論を進めています。しかし、そんな議論を進めるずっと以前から、政府与党は、4月30日には暫定税率の維持を、そして5月12日には特定財源の維持を衆議院での再可決によってすると宣言をしてきました。つまり、今後10年のことはすぐに再可決して決めてしまえばよいと考えていながら、全く反対の意見を持つ野党に、与党は表面上「協議」を呼びかけていたことになります。協議の前提がこれでは協議など無意味だという民主党などの野党を、与党は「協議を呼びかけても応じてこない」と批判していますが、この与党の姿勢は、単なる世間向けのパフォーマンスに過ぎないといっても言い過ぎではないでしょう。

今回の選挙の結果は、前述のようにガソリン税のことだけでなく、後期高齢者医療制度のことなども大きく影響しているものとは思いますが、この民主党候補圧勝の結果は、少なからずこれからの福田政権や与党の判断に影響を、そして特に一般財源化を支持する一部の自民党若手議員の判断に影響を与えることになるでしょう。今回の補選結果で、4月30日の暫定税率維持のための再可決で3分の2が確保できたとしても、福田政権が5月12日の特定財源維持のための再可決で3分の2を確保するには、大変な説得が必要になったと考えられます。その為には少なくとも福田提案を確実に実行するための何らかの「担保」が必要になることでしょう。一方の民主党は、今回の勝利を受けて、30日の再可決後の提出は見送ったものの、12日の再可決後など最も効果的なタイミングで福田総理への問責決議案を参議院に提出する検討を行なっています。また、後期高齢者医療制度や、お家芸ともいえる年金問題についても、より一層激しく攻勢を強めてゆくことになるでしょう。民主党が提出する問責案の参院可決に加え、万が一衆議院での2度の再可決で取りこぼし(再可決失敗)があった場合には、福田総理は、大きな決断を迫られることになりかねません。解散か、総辞職か、それとも全く別の手を考えることになるのか、しばらくは緊迫した、綱渡りの政治情勢が続くことになりそうです。

皆さんぜひ、今後とも注目して政治の世界をご覧ください。その時々の情勢について、ここでも随時分かりやすく皆さんにお伝えしていきたいと思います。

※1 日本国憲法第59条第3項の規定で、衆議院で可決された法律案を、参議院が受け取った後、国会の休会中を除き60日以内に議決しない場合は、否決したものとみなされます(みなし否決)。つまり、この60日以内に、参議院は審議を行い、院としての答えを出さなければなりません。
※2 日本国憲法第59条第2項の規定で、参議院で衆議院と異なった議決がなされたとき(※1のみなし否決も含む)、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再度可決した場合には、法律は成立します。
※3 道路建設にしかお金を使えない道路特定財源を、一般財源として一般会計に繰り入れ、教育、医療などなんにでも使える財源にすること。

(次週5月5日は、休日のため更新をお休みさせていただきます。)