安全保障法制に対する吉良州司の考え方
安保法制に対する吉良州司の考え方をお伝えします。
1、絶対に戦争をしてはならない、戦争に巻き込まれてもならない
まず、安全保障に関する私の根源的な考えは「絶対に戦争をしてはならない。戦争に巻き込まれてはならない」「自衛隊を海外で(自国防衛以外の目的で)武力行使や軍事的後方支援をさせてはならない」、一方、「我が国を侵略するような国や勢力が出てきた場合には、自衛隊を中心として日本全体が『針ねずみ』のようになって、日本列島で暮らす人々の命と国土を守り抜く」ということです。安保法制に対する考え方は政党や個人によって大きく異なりますが、登山に例えれば、登山道は異なっていても「平和主義を貫き、専守防衛を旨として、絶対に戦争をしてはならない。戦争に巻き込まれてはならない」という「目指す頂上」は一緒だと信じています。
この根源的な考え方を前提に、『「近くは現実的に」「遠くは抑制的に」「人道支援は積極的に」』という民主党時代に打ち出した「安全保障に関する三つの基本方針」が、吉良州司の基本的考え方です。
我が国周辺の現実的脅威に対しては現実的な対抗手段を講じるべき、という観点から「近く」部分についての現行安保法制は容認、海外での軍事的後方支援に道を開く「遠く」部分についての現行安保法制には断固反対、国際貢献のための人道支援は積極的であるべきという観点からの現行安保法制には賛成の立場です。
以下、各論についての基本的考え方をお伝えします。
2.安全保障環境変化への対応
各論の前提となる、我が国を取巻く安全保障環境変化への対応の必要性、日米同盟強化により抑止力を高めることの必要性、安全保障上協力すべき友好国との連携を強化することの必要性、国際平和協力活動の任務拡大と武器使用基準見直しの必要性、などについては、吉良州司が実務責任者として深く関わった平成22年防衛大綱に民主党政権として盛り込んだ内容を、現政府が踏襲しているため、この前提に対する基本認識は、当然、一致しています。
3.近くは現実的に
北朝鮮が開発、挑発をし続ける核・ミサイルと我が国、韓国、米国に対する敵視はまさに「現実的脅威」です。スカッドER、ノドン、テポドンなどのミサイルは我が国を射程に収めており、いつでも我が国を攻撃できる能力を既に持っています。この先、ミサイルに搭載可能な核の小型化、弾頭化が現実のものとなれば、わが国として容認できない、格段に高いレベルの脅威、死活的脅威となります。
一方、中国の伸び続ける軍事費とそれに伴う軍事力の増強・近代化、更には東シナ海、南シナ海、尖閣諸島で見られる「力による現状変更、既存秩序への挑戦」は我が国にとっての「潜在的脅威」です。
我が国が攻撃を受ける脅威、侵略される脅威とは、それを目論む相手があり、その相手が我が国を攻撃・侵略する「能力」と「意志」を持つ場合に現実的なものとなります。ひと昔前の北朝鮮は「意志」はあるが「能力」を持ち合わせていませんでした。しかし、今はミサイル発射実験や核実験を繰り返しつつ、その能力を高めています。現時点では意志も能力も持ち合わせる「現実的脅威」となっているのです。
中国も今世紀に入ってから、その「能力」を格段に向上させています。歴史に学ぶならば、新興勢力が飛ぶ鳥をも落とす勢いで力を増大させ、既存の秩序維持者(覇権国といえる)や力が拮抗していた近隣国の国力を、軍事力を含めて凌駕したと思った時、または凌駕したと錯覚した時に、覇権国や近隣国に挑戦する、すなわち戦争に突入してしまいます。
「我が国を取巻く安全保障環境の変化」とはまさにこれらのことであり、その現実的対応が求められているのです。軍事的なバランスを大きく変化させないこと、相手が軍事的に凌駕したと思わせない、錯覚させないことが最重要な戦争回避手段となります。その意味で「近くは現実的に」の最有力手段が日米同盟の強化とそれに伴う抑止力の強化だと思っています。勿論、自主防衛力の充実も最重要手段のひとつですが、その国が持つ総合力が抑止力ですから、我が国の国力を冷徹に見た場合には、日米同盟の強化による抑止力の強化(米国が持つ抑止力の最大限の活用)がもっとも有効かつ現実的な手段となります。
この観点から私は、「近く」についての安保法制には容認の立場です。
この場合、「集団的自衛権」についてどう考えるのか、私の考え方は次のようなものです。地球の裏側までなど「遠く」については絶対に許されませんが、「近く」つまり我が国を他国の攻撃、侵略から守るためには、「限定的集団的自衛権」の行使は許されると考えます。
日米安保条約に基づいて、我が国を守るために活動している米軍が攻撃を受けた際に「我が国への攻撃とみなして反撃」することは(たとえ、国際法上は「集団的自衛権」とみなされるとしても)「我が国を守るための」日米共同対処時の対応としてあくまで「個別的自衛権」の範囲内であると考えるからです。
4.遠くは抑制的に
現行安保法制は新3要件((1)我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること、(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと、(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと)が充たされた場合には、「我が国周辺」の枠を超えて、世界のどこでも米軍等(重要影響事態時)や多国籍軍等(国際平和支援法)への「後方支援」ができるようになりました。
しかし、「遠くは抑制的に」という自らの基本理念に照らせば、これは断じて容認できません。事実上、軍事行動を行っている軍隊への兵站を担うことになるからです。
勿論、時に武力を行使してでも解決すべき深刻な国際的事態が生じ、国際社会の重要な一員として参加要請を受け、且つ、我が国として協力しなければならないと判断する局面があることは充分承知しています。しかし、その場合でも人道支援に限定した特別措置法で対応すべきだと思います。そして、特別措置法の足らざるところ、たとえば審議に時間がかかり過ぎることには、主要政党間で時間短縮の合意形成を行い、事態に対応する訓練に時間がかかることには、予見しうる事態に備えた訓練を日頃から行えるよう自衛隊法と国家安全保障会議設置法を改正しておくことで、対応できると思っています。
先の大戦への深い反省も踏まえ、自衛隊が海外において武力行使や軍事的後方支援を行うことは断じて容認しません。自衛隊の海外派遣はあくまで海賊対処や人道的支援に限定すべきだと考えます。
5.人道支援は積極的に
国際協調主義に基づく国際貢献を行う際、「自己防衛能力」と「自己完結能力」を持つ自衛隊は我が国の国際貢献に必要不可欠な存在です。治安状況がよくない地域での活動に従事しなければならない事態に備え、国際平和協力活動の任務と武器使用基準の見直しは必要だと思う観点も含め、この点についての現行安保法制は容認の立場です。
自衛隊が他国軍隊に守ってもらわなければならない現状を改めること、共に活動する他国軍隊や現地で活動するNPO従事者や国連職員、一般市民が攻撃を受けて助けを求めてきた際に、救助や安全確保ができるようにすることなど、は必要だと判断しています。
一方、このようなことを実行しなくて済むよう、そして何よりも自衛隊員が誰一人死傷することなく、また他者を死傷させることもなく、あくまで人道支援に徹した活動が行える事案を厳選して派遣すべきだと思います。
6.安保法制に反対した理由
現行安保法制の骨子は次のような内容です。
(1) 日本を取巻く安全保障上の大きな環境変化(北朝鮮の脅威、中国の軍事的台頭による尖閣や東シナ海等における潜在的脅威の増大、軍事的科学技術の進歩等)に対応し、自主防衛力整備はもちろんのこと、日米同盟強化によって抑止力を高めることにより、未然に紛争や戦争リスクを回避するため、また、世界の平和と安全を守ることに一層貢献できるようにするため、安全保障関連国内法を整備する。日米同盟強化のため、集団的自衛権の限定的行使(存立危機事態)を認める。
(2) そのまま放置すれば、我が国に対する武力攻撃に至るおそれがある場合など、我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態(重要影響事態)において、世界のどこでも、米軍や安全保障上の重要友好国(たとえば豪州)への後方支援ができるようにする。
(3) 国際平和協力活動(PKO)における業務内容の拡大(安全確保、駆けつけ警護)と武器使用権限の見直し(正当防衛のための自己保存型武器使用から任務遂行型武器使用権限へ)
(4) 「国際平和支援法」(新法)の制定。この新法制定により「国際平和共同対処事態」(1.国際社会の平和・安全を脅かす、2.その脅威を除去するため、国際社会が国連憲章の目的に従い対処する活動を行い、3.我が国が国際社会の一員として、これに主体的かつ積極的に寄与する必要がある、事態)において、諸外国の軍隊等に対する協力支援活動(実質的な「後方支援活動」)ができるようにすること。
(5) 上記の(1)~(3)に必要な10本の法改正を「平和安全法制整備法」という1本の法律として、また、上記(4)の「国際平和支援法」だけは独立した1本の法案として提出し成立させました。
以上が現行安保法制の骨子ですが、前回と本メルマガを読んで戴くと明らかなように、私は(1)と(3)には賛成、(2)と(4)には反対の立場です。しかし、政府は、全体としては10本の法改正を1本の法律案として、まとめて提出してきました。よって、部分的には賛成であっても、容認できない部分が含まれているために「安保法制」には反対したのです。
吉良州司