日米二国間協議について思う。その2
前回に続く日米二国間協議についての第2弾です。
前回のブログでは、世界経済を歴史的に俯瞰した上で、今なお、基本的にはブレトン・ウッズ体制下にあること、しかし、通貨金融秩序の安定と自由貿易を目的とする同体制が今、トランプ大統領が掲げる「米国第一主義」と「自由貿易の否定」により大きな危機にあることをお伝えしました。
今、わが国は極めて難しい判断を迫られています。それは、気まぐれトランプ大統領の米国を相手に、どのくらいの時間軸における国益を考えるべきか、という時間軸の視点、また、世界経済がよければ日本経済もよくなるし、逆もしかりという関連性がある中で、日本のみならず世界全体がよくなる状況をつくることができるのか、という空間軸の視点と、両方からの視点が必要だからです。
日本のリーダーシップでTPP11というマルチの経済連携協定合意を取り付け、経済的、戦略的に望ましい船出をしようとしている今、最善は米国をTPPに復帰させること、最悪は米国との二国間の貿易協定を締結せざるをえなくなることです。米国との二国間貿易協定よりも、TPPのような多国間経済連携協定の方が、わが国にとっては、次のふたつの理由で、断然有利になるからです。
ひとつは、「二国間貿易協定」でありながら、交渉上どうしても安全保障問題が見え隠れする恐れがあります。「経済」と「日米同盟」を完全に切り離すことが難しくなるリスクです。実際に、米国の貿易赤字を削減するために、高額な防衛装備品を買うことをコミットせざるをえなくなることは目に見えています。
もうひとつは、多国間の枠組みが我が国に有利だということです。多国間の枠組みは「じゃんけん」みたいなものです。農業分野も米国は日本よりも圧倒的に強いですが、米国も穀物、肉、乳製品などは豪州に適わず、米国のカリフォルニア・ワインはチリ・ワインの競争力に適いません。多国間だと米国も弱みを持つ分野と国があるので、どこかで妥協して折り合う必要があるからです。
今回の国連総会を利用した日米首脳会談では、米国から農産物を輸入する際、その関税率はTPPよりも高いものにすること、TAG(物品貿易協定)の交渉中は対米自動車輸出の関税引き上げはしないという約束を取り付けたことは(問題を先送りし時間を稼ぐことができたので)、短期的な国益の観点から評価できます。しかし、結局は、二国間貿易交渉の場に引きずりこまれてしまったという長期的国益の観点からは最悪の結果です。
勿論、批判することは楽です。しかし、今回の合意はやむをえないと思う自分が一方にいます。それは何故か。
それはトランプ政権がいつまで続くのか、トランプ大統領のやりたい放題の言動が世界のリーダー米国の行動としていつまで続くのか、誰も予測ができないからです。
先日、トランプ政権の誕生から現在に至るまで、トランプ政権の一部始終をワシントンの日本大使館で見てきた外交官から話を聞く機会がありました。彼によると、今もし大統領選挙があったならば、間違いなくトランプが勝利するだろうとのことでした。理由は、まず、民主党側に有力候補がいないことです。それに加え、トランプは、一部の人たちの支持を得るために公約には掲げても、中東情勢、世界情勢を考えると実際には実行されないし、実行してはいけないとわかっていて、歴代大統領も公約に掲げながら一度も実行されてこなかった、「イスラエルの米国大使館をエルサレムに移転する」という公約を実現したのです。大統領選挙時に掲げた公約、それが米国・メキシコ間の国境に壁をつくる、イスラム教徒は入国させない、などのバカげた公約であっても、ひとつひとつ忠実に実行しているという誠実さ(?)は、これまでの大統領にはないことであり、白人貧困層のみならず、共和党支持者を中心に多くの米国民に支持されているから、とのことでした。
このような情勢を考えると、「中間選挙までの辛抱だ」、とか、「トランプ政権との付き合いもあと2年だ、いやその前に弾劾裁判で大統領を辞めざるをえないだろう」、というような、一時的な強風に耐えればことが済む、といった状況にはない可能性があるのです。最悪のことを想定して、つまり、トランプ政権があと6年続くことも想定して、国益を考え、戦略を練る必要があるのです。
このことは、今、世界を揺るがしている米中貿易戦争にも言えることです。この問題も「中間選挙目当ての一時的な人気取り政策」ではなく、長期に亘る「米中による覇権争奪戦争」「新冷戦」の様相を呈してくる可能性があるのです。
またまた、長くなってしまったので、近い内に続編を発信させてください。
吉良州司