吉良からのメッセージ

2019年3月9日

北方領土問題の本質と対応 その11 現実的解決策

北方領土問題シリーズ第11弾です。

前回は福島第1原子力発電所視察のメルマガでしたが、前々回は、北方領土問題について、これまでの歴史的経緯やロシア側の譲れない条件などを考慮しながら、現実的な解決策に迫っていくため、次のような「現実的な基本的認識」をみなさんと共有させてもらいました。(前々回のメルマガ内容は、こちらをご参照願います。

1.4島の主権主張は正論だが、1島の返還もなく、平和条約も締結できない
2.北方領土の一部の主権放棄は尖閣諸島問題や竹島問題にマイナスの影響を及ぼす
3.北方4島が日本領土であり続けた場合、過疎化が進んでいた可能性が高い
4.実利面は元島民・子孫の自由な墓参と里帰り、制約のない漁業と経済活動が重要
5.安倍政権は「共同経済開発」「ロシアへの8項目協力プラン」、「ビザなし交流の拡充」など、平和条約締結に向けた布石を打ってきている
6.ロシアは経済力、国力が低下した時には「譲歩の可能性」を匂わせるが、現実交渉の中で、現実的な「譲歩」をしたことは一度もない
7.4島全ての日本主権の確認が満点。次善は、歯舞・色丹の日本主権確認と国後・択捉の交渉継続。しかし、現実的にはかなり厳しい。
8.ロシアは1万6千人が住む国後・択捉・色丹の主権を認める可能性は低い
9.元島民の多くが「4島は現実的に無理であり、2島で決着して平和条約」を望む

今回は、いよいよ現実的な解決策を提示したいと思います。

現在、わが国が持つ選択肢は次のふたつです。
(1)4島の主権を主張し続ける(その場合、1島も戻らないし、平和条約もない)
(2)実利を取ることを前提に一部の主権を放棄し、平和条約を締結する。

1.妥協せず4島主権を主張し続ける選択肢

日本の固有の領土としての「4島主権」は正論です。それゆえ、一切の妥協をせず、4島主権を主張し続けることは、「国家の矜持」と「国家の尊厳」の観点からも重要な選択肢です。現在、日ロ間は国交もあり、人的交流、経済交流、文化交流も盛ですから、平和条約がなくても現在の状況から大きく後退することはないとみています。その意味において、北方領土の帰属問題が全く進展しなくとも、一切の妥協をせず、4島主権を主張し続けることは極めて重要な選択肢だと思っています。

2.一部の主権は放棄するが、実利を取り、平和条約を締結する選択肢(今、解決する場合の現実的選択肢)

この1年を含め、近い将来、北方領土の帰属問題を解決して平和条約を締結できるのは、プーチン・安倍両首脳時代しかない、と思っています。今のタイミングを逃せば、この先、数十年は問題解決できないと思われます。北方領土の帰属問題の現実的解決策を探るということは、何らかの妥協をすることを意味します。
その場合、「4島は日本の固有の領土」、「現在は、ロシアが不法占拠している状態」「4島の日本主権の確認と即時または将来的返還」という、これまでの日本政府の一貫した方針・立場を大転換しなければなりません。しかし、外交交渉は、相手があることであり、相手の譲れない線を見極めつつ、国益を最大化するために最善を尽くすのが外交交渉です。
 
以下では、一部の主権は放棄するが、実利を取り、平和条約を締結する、現実的選択肢の具体的提案です。

3.現実的な解決策(箇条書きにて提案)

(1)「第二次世界大戦の結果」としての、国後・択捉島のロシア主権を認める。

(2)「北海道の一部」としての、また「日ソ共同宣言」で「引き渡す」とされた、歯舞・色丹の日本主権の確認。但し、国境警備隊員しかいない歯舞群島は即時返還できる可能性がある一方、 色丹島については現在3000人のロシア住民がいるため、日本の主権が確認されたとしても、香港のように、(たとえば99年間など、当分の間のロシア施政権を認める

(3)領海と排他的経済水域については、両国が確認した各々の主権に添った権利を認め合う

(4)但し、漁業権領域については、4島が共同統治されているイメージで、4島周辺海域における漁場としての相互乗り入れを可能とする。

(5)元島民とその子孫の国後・択捉島への訪問は永久ビザを発行し、事実上自由訪問を可能とする

(6)国後・択捉島における共同経済活動の促進。日本企業も事実上自由な経済活動ができるよう、「共同統治」と見做した経済法体系の整備。

(7)「シベリア抑留者」に対するロシア政府からの謝罪。

<補足> ロシアはソ連時代の権利義務を引継いでいますが、全く同じ国ではないので、「ソ連時代の対応を謝罪する」ということを追求したいところです。しかし、可能性はゼロではありませんが、ロシア国内情勢を考えると、そのハードルはかなり高いと思われます。それが厳しい場合、例えば、プーチン大統領と安倍晋三総理がともに、抑留地で亡くなった日本人墓地で花を手向けるなどの対応は考えられるのではないかと思います。

以上、ロシア側が受け入れる可能性のある現実的解決策を提示させてもらいました。この案の場合、国後・択捉の主権を放棄するという内容が含まれるため、厳しい批判が出てくることは十分承知しています。しかし、この案は飽くまで、妥協してでも平和条約締結に走る場合の、ロシア側が受け入れる可能性のある条件であることをご理解戴きたいと思います。

次回は、第二次世界大戦時、日本の同盟国であったドイツの戦後対応を参考としてお伝えします。

吉良州司