日本経済停滞の真犯人(後編)
日本経済停滞の真犯人(後編)
――国富を海外流出させない現実直視のエネルギー政策が重要――
みなさん、こんにちは。吉良州司です。
前回では、日本経済停滞の最大の原因が化石燃料の輸入金額の大幅な増加にあるとお伝えしました。
大分をはじめ地方では車がないと生活できない方々が大勢いらっしゃいますが、この間のガソリン価格の高騰は、それでなくとも厳しい家計を直撃したのではないでしょうか。
化石燃料輸入金額増大の原因は次のように整理できます。
その第1は、世界的な需要増大による石油価格の上昇です。これは日本だけではどうすることもできない問題ですが、BRICS諸国をはじめとする新興国、途上国の経済発展と生活水準向上により需要が増大しています。
第2は、投機資金の流入です。投機資金の具体的金額を把握することは難しいのですが、かなり大きな金額が流れ込んでいると専門家から聞いています。
第3は、福島原発事故以降の原発停止によるLNGを中心とする発電用原料の輸入量増加です。2010年に3.5兆円だったLNG輸入金額は2013年には7.1兆円へと3.6兆円も増加しています。
第4は、第3の原因の要素にも含まれますが、円安による支払円貨額の増加です。
一方、世界のエネルギー事情を公平且つ客観的にご理解戴くために、化石燃料価格が上昇一辺倒ではなく、最近の石油価格は80~110ドルの間を行き来しており、スポットで取引される天然ガスの価格は横ばいが続く傾向にあります。その理由についても説明します。
その第1は、現在進行中のシェール革命(米国ではじまった地中の頁岩層シェール層から抽出できるようになったシェール・ガスとシェール・オイルの産出が世界のエネルギー市場にもたらす革命的な影響)が、特に世界の天然ガス価格に低下圧力をかけていることです。
* このシェール革命は世界のエネルギー市場を変化させ、世界の政治経済に大きな影響を与えつつあります。その詳細をこのメルマガで書く紙数的余裕はありませんが、本記事の下部に掲載したスライドに、かなり詳しい図やグラフや説明文章を掲載していますので、是非参考にしてください。
話が少し横道に逸れます。今、ウクライナ問題が世界の注目を集めていますが、このシェール革命により最も大きな影響を受けている国がロシアです。天然ガス価格の低下圧力により、ロシアの天然ガスは以前のような量と価格で欧州に売れなくなりました。それ故、ロシアはあらたな大口需要先として我が国や中国に熱い視線を送ってきていたのです。
第2は、新興国・途上国経済の成長減速です。中国の成長率の鈍化、そして米国の金融緩和縮小による新興国や途上国からの資金引き揚げに伴う、経済成長の減速による影響です。
これらの理由により化石燃料価格は上昇一辺倒ではなくなっていますが、価格が高止まりしていることは確かですから、日本の国益という観点から化石燃料輸入額を減らすための現実的な対策が必要です。換言すれば、国富の海外流失を抑えつつ、将来に亘って化石燃料の消費を減らすことができる投資を行うことが国益です。
この国益実現のため、あらゆる具体策を総動員する必要がありますが、以下では、その内の3点に絞ってお伝えしたいと思います。
1) 徹底的な省エネ対策
国民ひとり一人が、企業の1社1社が、その気になれば実行できることです。
我が国の最終エネルギー消費は、二度の石油危機後や近年の不況時を除き、ほぼ一貫して増加しており、1973年から2011年までに、GDPは約2.4倍に増加した一方で、国を挙げての省エネ努力により最終エネルギー消費量は、1.3倍に抑えられています。 ただし、その内訳は、産業部門が約0.9倍の頑張りを見せてきた一方、民生部門は約2.5倍、運輸部門は約1.9倍と大幅に増加しています。つまり、民生部門、運輸部門に更なる省エネの余地があることを意味しています。
全てを網羅する余裕はありませんが、身近なところでは、断熱窓、断熱壁の導入、改修等により住宅・建築物の断熱性能を向上させることです。この分野の先進国であるドイツに習い、「省エネ断熱改修市場」を創り、全国津々浦々で省エネを推進するとともに、現在のアベノミクスの恩恵を被っていない地方経済を活性化する効果もあります。というのも、ドイツの省エネ断熱改修市場はすでに6兆円を超えており、40万人近くの雇用を生む一大産業となっているからです。
2)安全性が確認された原子力発電所の再稼働
原発再稼働は社会的に大きな抵抗があることは承知しています。将来的には原子力に依存しない社会を目指していくことに反対する人はいないと思います。しかし、あくまで国民生活の観点に立って、原子力に替わる現実的なエネルギー源を確保できた段階で代替していくという順序が大事だと思っています。
前回(前篇)のメルマガにおいて、第1次石油ショックのことを書きましたが、政情不安定な中東に我が国のエネルギー源の大半を依存している状況から抜け出し、石油中心から、石炭、天然ガス、水力、原子力とエネルギー源を多様化し、且つ、供給元も分散することによって、リスクを回避しながら安定確保を目指してきたのが、我が国のエネルギー政策でした。資源を産出しない島国であるという我が国が置かれた状況は現在も変わることはありません。
「原子力を稼働させなくても、この夏は乗り切れた。だからもう原子力は必要ない」という方々がいますが、イスラエルとイランの紛争によりペルシャ湾のホルムズ海峡が閉鎖される危機は決して極小ではありません。国家としては、起こりうるかもしれない危機に備えることが重要です。現在も石油の85%、LNGの20%がホルムズ海峡を通って輸入されている現実を直視しなければなりません。危機が発生すれば、量的確保も厳しくなりますし、価格が急上昇して莫大な国富が流出します。
その意味では、米国のシェール・ガス、豪州、カナダの天然ガスという政情が安定している国々からの供給を増やすことは重要な国家戦略となります。これに加え、ロシアのサハリン、東シベリアからの石油、天然ガスを安く安定的に確保する手も打たなければなりません。
3) 熱併給発電や再生可能エネルギーの普及促進
発電と発電時に発生する熱を動力や暖房などに利用できる熱併給発電(コジェネレーション)や家庭用のエネファームの普及により産業分野、民生分野両分野においてエネルギー効率を飛躍的に改善することができます。
また、地球にやさしく、国富を国外流出させない最良のエネルギー源は水力、風力、太陽光、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーです。既に固定価格買い取り制度の導入により全国に普及しはじめています。しかし、出力の安定性(それゆえバックアップ電源を必要とする)問題、低エネルギー効率(太陽光は12%、風力は22%)、国民の電気料金負担が重くなることなど課題は多く、再生可能エネルギーへの過度の期待は禁物です。
上述したことは、国富の海外流失を抑えつつ、将来に亘って化石燃料の消費を減らすための投資のほんの一例ですが、今、大事なのは、目先だけの景気浮揚策や資産バブルによる数字上の経済浮揚策ではなく、日本が抱えるリスクを冷徹に見据えながら、将来に亘る、将来世代のために必要なインフラ投資を行うことだと思います。
今のご時勢、アベノミクス批判をすることや将来的なリスクをあげつらうことは、「負け犬の遠吠え」的な誹りを受けかねないので、これまで極力控えてきました。それゆえ、この2回のメルマガでも、日本経済停滞の最大の原因が化石燃料の輸入金額の大幅な増加にあり、その先にある経常収支の赤字、その先にある金利上昇、財政危機、国債や円の暴落の可能性については触れるだけにとどめ、詳細な解説や批判は控えました。
しかし、データは正直です。このメルマガとホームページのデータに是非目を通して戴きたいと思って書きました。読者のみなさんには、世界を俯瞰し、国際社会・国際経済の中で、我が国が置かれている状況について、客観的且つ冷静に把握して戴きたく存じます。そして、その状況の中で、我が国が生き抜いていくためには、どうすればよいのか、一緒に考えていきたいと思います。
長い文章を最後まで読んで戴き、誠にありがとうございました。
吉良州司