吉良からのメッセージ

2024年3月1日

2月26日予算委員会の議事録 アベノミクスの評価・検証

去る2月26日月曜日にNHKの中継が入る予算委員会での質問に立ちました。前回(2月7日NHK中継なし)の予算委員会質疑で積み残していたアベノミクスの評価・検証についての質問でしたが、視聴者からは「吉良さんの国民のみなさんに対するプレゼンテーションだったね」と言われるような、アベノミクスの評価検証に関するデータに基づく説明を行いました。
お陰様で好評を得て、全国から激励のメールや電話を戴きました。その中に、説明内容とパネルで示した資料を吉良州司ホームページに是非掲載してほしいとの要望を戴きましたので、少し長くはなりますが、全議事録とパネル資料を本メルマガに掲載致します。

<2024年2月26日予算委員会 吉良州司質問の議事録。小見出しは吉良州司が加筆>
○小野寺委員長 次に、吉良州司君。
○吉良委員 有志の会、吉良州司です。

はじめに

今日は、前回積み残したアベノミクスの検証について質問します。いつものように、まずは持論展開した後に、総理の見解を求めさせていただきます。
前回、アベノミクスの評価について質問した際、岸田総理は、「デフレでない状況をつくり、GDPを拡大し、企業収益を拡大し、そして雇用を増進した」と答弁されました。

まず、そんな高い評価の経済政策であったならば、人口が三分の二しかないドイツに何でGDPを追い越されて四位に転落するのか、全く説明がつきません。そのことを指摘した上で、総理答弁四点全てに反論します。

「デフレでない状況をつくった」との答弁に反論

一点目。デフレでない状況をつくったと言われましたが、そもそも、デフレは、バブル崩壊後、失われた三十年と言われる長期経済低迷の中で生じてきたことです。その原因となったバブルの生起も、崩壊も、崩壊後の対処も、全て自民党政権下のことです。デフレにしたこと自体、自民党政権の責任であるということを棚に上げないでいただきたい。百歩譲って、デフレ脱却ができているとしても、それは、円安により輸入物価高騰など、国民生活を犠牲にしながらのデフレ脱却という形になっているということです。
そもそも、原因と結果を逆にしたデフレ脱却という目標設定自体が間違っています。政策は、国民の生活を豊かにする手段です。しかし、デフレ脱却を目標にしてしまうと、安倍、黒田コンビの異次元金融緩和のように、円安による輸入物価高騰など、国民生活を犠牲にしてでも物価上昇を優先するという本末転倒に陥ってしまいます。

「GDPを拡大した」との答弁に「ドルベースGDP」を提示して反論

二点目です。GDPを拡大したと言われました。
資料1<吉良州司HPURL 日本経済の実態>を御覧ください。

これは、日本経済の主要なマクロ経済指標を盛り込んだ、日本経済のちゃんこ鍋のようなグラフです。国全体の豊かさを示すものが名目GDP、そのGDPの六割を占め、国民生活の豊かさを示すものが個人消費と言えると思います。名目GDPは、ここでは、日本円とドルベース、両方を表示しています。そして、お金がどれだけ市場に供給されているかを棒グラフで示しているのがマネタリーベースです。

確かに、日本円の名目GDPは少しずつ拡大しています。しかし、ドルベースの名目GDPは大きく減少しています。現在に至るまで、民主党政権時代のGDPを一度も上回ったことはありません。株価は、マネタリーベースとは連動していますが、個人消費及びGDPには連動していません。生活の豊かさを示す個人消費は、株価ではなく、賃金が上がらないと増加しません。また、将来不安がなくならないと増大しません。

総理、円ベースのGDPとドルベースのGDPの関係をある県の高校生の成績に例えてみます。A高校での成績が百番、全県での成績が五百番だった生徒が、A高校で百番から三十番になったと喜んでいたところ、A高校のレベルが下がったために、全県では五百番から八百番に下がっていた。これと同じことなんです。

円安の影響で、世界における日本円の価値、購買力が大きく落ち込んでいます。その結果、ガソリン代、電気代、ガス代、食料品など輸入物資の高騰により、可処分所得が減り、国民生活が苦しくなっています。それゆえ、ドルベースのGDPが落ち込む中で、円ベースのGDPが拡大したことを成果として強調しないでいただきたいと思います。

データはうそをつきません。株価上昇が必ずしも国民の豊かさと言える個人消費の増加には結びついていないこと、また、米ドルベースのGDPは、アベノミクス下での日本経済が低迷し続けていたことを如実に示しています。うそはつきません。

「企業収益が拡大した」との答弁に対する分析と反論

三点目、企業収益が拡大したことについて、資料2枚目<吉良州司HPURL GNIとGDPと第一次所得収支>を御覧ください。

このグラフは、日本国内で生み出した付加価値の総額であるGDPと、日本人、日本企業が世界のあらゆる場所で稼ぎ出した所得であるGNIの推移を表したグラフです。同時に、グローバル化している企業活動や企業収益の一端を表している図でもあります。GNIとGDPの差は、海外からの配当や金利収益である第一次所得収支とほぼ一致しているからです。

日本は今や投資立国となっており、この配当や金利収益は、2022年で34兆円もあります。そして、円安により今や貿易赤字国になってしまった日本の経常収支黒字化に大きく貢献しています。

企業収益は、海外投融資をしている企業を中心に拡大していることは確かです。その背景には、今言ったように、海外で稼ぎ出したドル建ての配当、金利収益が、円安により、連結決算上大きく膨らんでいるということがあるのです。

総理が言われた企業収益の拡大自体は間違っていません。しかし、私の問題意識は、生活者優先という視点から、この企業収益拡大の恩恵が広く国民に分配されないこと、また、円安により輸入物価高騰に苦しむ一般国民から企業への所得移転の要素をはらんでいるということです。

企業は、生き残りを懸け、また利益を最大化するために、世界のどこでも事業展開します。企業として当然のことです。
しかし、政府としては、あくまで国民生活を豊かにすることが目的です。企業収益が拡大したとしても、それが所得移転という形で国民生活の犠牲の上の収益拡大であっては本末転倒です。

なお、現在進行中の株高について、資料の3枚目<吉良州司HPURL 外国人投資家の買越額と売買比率>を御覧ください。

株高は、現在、売買比率の6割を占める外国人投資家が押し上げているものです。その主な原因はやはり円安です。外国人投資家が、円安により、日本は割安と判断しているからです。日本の優良株が1ドル80円時代からすると半額セール、120円時代からも三割安ですから、買わない手はありません。
現在の株高は、円安以外にも、企業業績の拡大が、今言いましたように、確かにあります。また、中国経済の減速でその分がこちらに回ってきているという要因もありますが、残念ながら、株価の上昇も、必ずしもその恩恵が広く国民に分配されるものではありません。

「雇用を増進した」との答弁に反論

四点目、雇用を増進したということについてです。
安倍元総理も、アベノミクスの成果として、47都道府県全てで有効求人倍率が1倍を超えたということを強調していました。しかし、有効求人倍率の向上は、団塊世代の大量退職と少子化継続による人手不足が原因であり、アベノミクスの成果とは到底言えません。
そもそも、人口減少と少子化の行き着く先として人手不足時代が来ることは、何十年も前から分かっていたことです。それなのに自民党政権は、この最重要国家課題に対して何ら有効な手だてを講じてきませんでした。その無策の結果として、現在、深刻な人手不足問題を抱えているわけで、それゆえ、有効求人倍率の上昇とか、生産性の低い低賃金分野での雇用拡大、それをアベノミクスの成果として強調することは、天に唾するようなものだと言えます。

今、賃上げ機運が高まっています。これは歓迎すべきことです。しかし、この機運は、岸田総理が「賃上げ」「賃上げ」とハッパをかけているからではありません。無策の結果として、人手不足に苦しむ中、生き残りを懸けて、いい人材を確保しようとする企業の本能がなせる業です。

輸出企業の力を信じているからこそ、自政府は「力で世界と渡り合える輸出企業への支援」ではなく、「国民の生活向上政策に集中すべき」と主張している

なお、私の主張は、円安や、円安により収益を拡大する輸出企業を目の敵にしているというように捉えられるかもしれませんが、そうではありません。私は、22年間勤めた商社時代、プラント輸出、そして海外投融資ビジネスの最前線にいました。それゆえ、我が国が生きていくための必要物資を輸入するため外貨を獲得する輸出企業がどれだけ重要か、身をもって体験してきました。輸出産業あっての日本だと言っても過言ではありません。
しかし、大手輸出企業は、優秀な社員の集合体です。そして、優れた経営者だらけです。それゆえ、円高に直面しても、現地生産や世界中にサプライチェーンを構築するなどして円高に耐える力、反転攻勢する力を備えています。政府の支援なんかなくても、自力で堂々と世界と渡り合える企業です。
それゆえ、政府としては、JBICメニューの充実、自由貿易協定や経済連携、TPPなど多国間経済連携など、日本企業が不利な状況に置かれないよう、また優位性を保てるようなインフラを整備すれば十分事足ります。

私は、輸出企業の力を信じているからこそ、政府がやるべきことは、円安誘導など自力で世界と渡り合える輸出企業への支援ではなく、一般国民の生活向上政策に集中すべきだと申し上げています。

では、どうすれば国民生活は向上させることができるのか。もう時間がないので、本来は、業界主権から生活者主権政治に転換すべきということで詳細を説明したいのでありますが、時間がありませんので、是非、資料4枚目<吉良州司HPURL 業界主権政治と生活者主権政治の対比>、業界主権政治と生活者主権政治の対比を御覧いただきたいと思います。

以上、アベノミクスは、国民生活を向上させるという政治本来の目的に照らして、成果がなかったことを説明させてもらいました。

岸田総理には、吉良州司のアベノミクス検証結果を是非御理解いただき、日本再生のために一刻も早くアベノミクスと決別すること、そして、生活者主権政治に舵を切ることを強く求めます。いかがですか、総理。

○岸田内閣総理大臣 委員の考え方、興味深く聞かせていただきました。
そして、そもそも、質問の中心はアベノミクスの評価でありました。ですから、その前の30年間の日本の経済のありよう、デフレスパイラルが続いたこの30年間については、リーマン・ショックやアジア金融危機や、様々な外生的な要因等を含めて、様々な要因によって引き起こされたものであると認識をしております。そして、その30年間の後に、アベノミクスという政策が実行された。これについてどう評価するか、こういった御質問だったと思います。
そして、このアベノミクスということを考えましたときに、デフレではない状況をつくった、しかしながら、為替等、負の要因も随分あったのではないか、GDPについても、為替との関係について、委員、御発言がありました。ただ、GDP と為替の問題、学校における成績と絡めた例示、これはちょっと私は当たらないのではないかと思いながら聞いておりましたが、いずれにせよ、GDPの評価として、為替の要因というのは大きいと思いますし、その中で、円建てのGDPの意味も我々はしっかりと頭に置いた上で政策を実行していく、こういった観点は重要であると思います。
そして、企業収益が上がった、このことも、委員は、企業収益が上がったことは認めながらも、そこから先がなかったという御指摘でありました。だからこそ、今、成長と分配の好循環、企業収益を消費や賃上げや投資にしっかりと振り向けていかなければならない、こうした政策を訴えている次第であります。
そして、今の賃上げは、要は、政策によるものではなくして、企業が人手不足によってやむを得ずやっているものである、本能に基づくものである、こういった御指摘もありましたが、私は、こういった賃上げというのは、単に民間の競争、市場に任せていたのではなかなか実現できないということで、官民の協力が必要だというこの新しい資本主義を訴えた次第であります。やはり、官民の協力の下に環境をしっかりと整えなければ、企業収益にとどまってしまう、賃金に振り向けられない、こういった問題意識を持って様々な政策を動員した次第でありますし、だからこそ、今、30年ぶりの賃上げ等が動き始めていると認識をしています。
アベノミクスの評価を中心に、30年前についてどう考えるか、そしてその後についてどう考えるか。委員の問題意識、これは重要だと思いますが、一つ一つの評価については、今申し上げたように、緻密に検討した上で、何が効果があったのか、この点についてしっかりと考えていかなければなりませんし、その上で、私自身としては、この新しい資本主義という経済モデル、是非、前に進めることによって、30年ぶりに訪れてきたデフレ完全脱却からのチャンス、これを物にしていきたいと考えております。

○吉良委員 もう時間が終わっています。 岸田総理がアベノミクスからの決別宣言をして、生活者主権政治に舵を切る限りは、多くの野党議員も応援すると思います。終わります。