ウクライナへのロシア侵攻から3年 停戦条件について考える その2
前回のメッセージではロシアによるウクライナ侵攻から11日後に執筆した「停戦条件」を盛り込んだ回顧メルマガを中心に、トランプvsプーチン会談で話し合われるであろう停戦合意を見守って戴きたいとお伝えしました。
ロシアによるウクライナ侵攻から明日で丸々3年に発信する本メッセージにおいて、ロシアによるキエフ侵攻・制圧が失敗した後、ロシアの関心が南部諸州の占領に移ってくるだろうから、占領される前に停戦すべきと主張する(侵攻から31日後の)回顧メルマガを読んで戴き、前回と同様にトランプvsプーチン会談の行方を見守って戴ければと思います。
2022年3月25日<ウクライナ問題を考える その9 今一度停戦合意の必要性>(ロシアによる侵攻から31日後)
ウクライナの戦況は膠着状態が続いています。ロシア軍の計画・運用の甘さ、兵士の士気のなさ、一方、ウクライナ軍の士気の高さ、NATOのインテリジェンス情報提供協力により、ロシア軍の将官の殺害やピンポイントで的確、効果的にロシア軍の補給ロジステイックスを攻撃しているなど、ウクライナ軍が巻き返しに成功していることに世界中が拍手喝采を送っています。
日本の報道やその報道に登場する解説者が「ロシア専門家」ならまだしも、「軍事専門家」が数多く登場して戦況や兵器の解説を行い、視聴者をして戦争ゲームをしているような錯覚を起こさせる報道番組に堕していることは残念でなりません。
最近でこそ、「停戦合意」に必要な条件は何か、どうすればその環境を整えることができるのかといった議論が為されてきましたが、日本の世論も早く「ロシアけしからん」論から「どうやって一刻も早い停戦を実現するのか、その際、日本は何をすべきなのか、何ができるのか」の議論とその実行方法論が中心になってほしいと思います。
一刻も早い停戦合意が必要なのは、言うまでもなく、ロシア軍が劣勢となり、ウクライナ軍が優勢攻勢になればなるほどロシアによる生物・化学兵器や核兵器使用の可能性が高まるからです。また、今は世界中がプーチンを徹底的に叩きのめしたいと激高していますが、それでも停戦合意のためには、不条理ではあっても、ロシア、プーチンの顔も立つような落としどころに落とさなければならないと思うからです。
ウクライナ・シリーズその4とその8において、私が考える停戦合意の具体的内容について既にお伝えしていますが、それ以降の新たな変化があります。
それは、ロシア侵攻が計画通り進まず、キエフの制圧が厳しくなりつつある中、ロシアの主眼は、マリウポリはじめ黒海沿岸域における「ロシアークリミア回廊」の制圧と実効支配に移ってきていると思われることです。
この回廊の実効支配の意図は、(ロシア領とクリミアは既に橋をかけることで直接繋がっていますが)戦車など重量車両や車体の長い特殊車両などは通れませんので、陸路で繋ぎたいこと、また、マリウポリは黒海内の内海であるアゾフ海の重要港湾都市、黒海北西岸のオデッサはソ連時代からの最も重要な国際港湾都市であり、ロシア帝国以来の南下政策、不凍港獲得政策として、これらの国際商業港をわがものにしたい(クリミア併合によりセヴァストポリ軍港は既にロシアの実効支配化にある)と目論んでいると思われます。
それゆえ、ロシアークリミア回廊が実行支配される前の停戦合意が必要です。しかし、同時に、ロシアとウクライナ両国で世界の小麦輸出の3割を占め、その輸出はオデッサ港発が中心であることを考えると、黒海沿岸の国際港湾の管理・利用に関する新たな合意形成も必要だと思っています。
<中略>
プーチンの顔を立てるなどの主張は誰も納得するとは思いません。しかし、ウクライナの地政学的位置づけからして、ロシアの顔も立てる解決策でなく、ロシアを叩きのめす解決の場合には、怨念が怨念を呼び、ロシアーウクライナ間国境は未来永劫緊張が続き、冷戦時代のように心安らぐ平穏な日々が訪れることはありません。
それ故、ロシアークリミア回廊を軍事的制圧により既成事実化される前に、
1)ウクライナの中立化(NATOへの非加盟)、
2)非武装は盛り込まず
3)クリミアの帰属は国民投票または住民投票による(ロシア帰属を望む投票が多ければロシア帰属を認める。ウクライナ側は憲法に基づいて、全国の国民投票を主張すると思われ、ロシアがそれを飲むならそれがベスト。ロシアがクリミア住民の住民投票に固執する場合は、住民投票で構わないと思う。国民投票、住民投票のいずれもロシアが拒否した場合は、ロシア帰属を認めざるをえないと考える。)
4)ウクライナーロシア間の(相互不可侵を盛り込んだ)平和条約の締結、
5)国連(安全保障理事国)によるウクライナの安全保障、
6)ドネツク州、ルガンスク州(または2州内の親ロシア派勢力の支配地域)の自治権供与、
7)黒海沿岸の国際港湾をロシアも使えるようにする仕組みづくり、
8)ロシア軍の即時撤退、
9)経済制裁の段階的解除
などを主要条件とする停戦合意を成立させ、これ以上犠牲者を出させず、平穏な暮らしを取り戻してもらいたいと思います。吉良州司
<以上が2022年3月25日発信の「ウクライナ問題を考える その9 今一度停戦合意の必要性」の内容>
上記メルマガは侵攻から31日目の発信です。この間ウクライナ問題シリーズ9本のメルマガを出しています。主張し続けてきたのは、私の商社時代や外務省政務三役としての経験上、「交渉する際には、相手には相手の立場、正義があり、それらを一定程度尊重しなければ、交渉は成立しない」という経験則、および、多様性尊重に基づく自分の信念です。それらを読者のみなさんにもご理解戴きたいという思いで、長文且つ多頻度のメルマガを発信し続けてきました。
下記は、鬼のように発信し続けてきた、ウクライナ問題をテーマとしたメルマガの日付とタイトルです。これらの中で、ロシア、ウクライナ、ソ連、東スラブ民族の歴史や、地政学的視点、戦争が世界に及ぼすエネルギーや食料価格の高騰問題、我が国の苦い歴史的教訓、新次元の東西冷戦がはじまっているという認識などなど、膨大な量の吉良州司論を発信してきました。全ては、一刻も早い停戦を願うが故の主張です。
合計12回に亘る「ウクライナ問題を考える」シリーズ
その1 予算委員会・分科会にて質問に立つ
その2 強権国家の主張には正当性はないのか
その3 経済制裁で苦しむのは誰か
その4 停戦合意の条件
その5 ウクライナ訪問で感じたこと
その6 米国とNATOの他人事対応
その7 エネルギー安全保障とお家事情
その8 核抑止力の非対称性
その9 今一度停戦合意の必要性
その10 小麦価格の高騰は世界の貧困層を苦難に陥れる
その11 ウクライナ戦争後の世界 ~新次元の東西冷戦を回避する知恵
その12 ウクライナ問題を一度立ち止まって考える
2023年2月25日<ロシアによるウクライナ侵攻から1年に思う>
2023年6月8日<ウクライナのダム破壊に思う 一刻も早い停戦を>
2023年11月6日<ウクライナ戦争停戦の必要性 ~世界の平和と安定が日本の国益であり、物価高対策にも資する~>
2023年11月10日<ウクライナ戦争の停戦に向けて 「ロシアークリミア回廊を占拠された苦い教訓」「ハマス・イスラエル戦争に対する見解」>
2023年11月14日<「民族とは何ぞや」 ウクライナ戦争の停戦に向けて>
2023年11月20日<「ウクライナ戦争を含む旧ソ連内の紛争はソ連崩壊時の大混乱の修正過程」 ウクライナ戦争の停戦に向けて>
表面的な正義を振りかざして、ウクライナの人々をこれ以上犠牲にしてはならないという強い信念を読者のみなさんと共有させて戴きたいと思います。
吉良州司