どうすれば物価高を抑制できるのか

では、どうすれば物価高を抑制できるのでしょうか。本質的、中長期的な解決策と当面の解決策として以下の3点があります。
1)自民党的「業界優先政治」を「生活者優先政治」に転換すること(本質的解決策)
2)徹底的に人的投資(子どもへの教育と社会人教育)を行うこと(中長期的解決策)
3)「生活者優先政治」の中に含まれる即効性のある足元解決策(当面の解決策)

よく「批判するなら、アベノミクスの対案を示してみろ」との議論があります。対案といえば、何らかの経済政策、金融政策、財政政策だと思い込んでいること自体が「過去の高度成長期」や「経済成長至上主義」に洗脳された発想です。

「業界優先政治」から「生活者優先政治」への転換
国民生活を向上させるには、自民党的「業界主権政治」から一人ひとりの生活者を優先する「生活者主権政治」に転換するしかありません。
では、転換した場合には、政策がどのように変わるのか。その具体的イメージを持って戴くための具体例として、ガソリン高対策、為替相場政策、金融政策の違いを資料「業界主権政治と生活者主権政治の対比 3例」の中で整理しました。まずは以下にお目通し戴ければ幸いです。

ガソリン高対策
元売りへの補助金 vs トリガー条項凍結解除
生活者にとって、ガソリン高は頭痛の種ですが、ガソリン高対策について、足元の解決策の一例をあげてみます。
自民党政権はガソリン高対策として「元売り会社」への補助金を選択しました。しかし、元売り業界が補助金全額を消費者向け値下げに使ってくれるのか誰にもわかりません。また、元売り業界は毎年自民党に5000万円の政治献金をしています。
「政治とカネ」で問題になったパーティー券を元売り会社とその関連会社は相当な額購入しています。広く国民から集めた税金を原資とした補助金を出すことにより業界に恩を売り、選挙時の支援と日常的献金支援という見返りを求めるのです。その逆もまたしかり。非常に分かりやすい利益と利益で結ばれた関係です。これが業界優先政治の典型です。このように、「国民から業界への所得移転」が続く限り、生活者である一般国民の暮らしがよくなるはずがありません。
一方、生活者優先の政治は、ガソリン代に含まれている、元々暫定的に課税されている1リッター当たり25.1円の税金を廃止して消費者に還元する政策(暫定税率のトリガー条項凍結解除)を採用します。直接、ユーザー一人ひとりに裨益させ、可処分所得を少しでも増やすためです。

ゼロ金利政策 vs 適度な金利水準適正化政策
金利適正化で物価高の抑制と事実上の年金額アップ

業界優先政治は、企業の資金調達コストを安くするため、また、(現在の日本には通用しないにも拘らず)金利を下げれば設備投資が伸びて景気がよくなる、というひと昔前の経済原理を地でゆく低金利・ゼロ金利政策を採用します。
ゼロ金利政策は日本円の価値が下がって円安が進行し、輸入物価高騰という形で国民の暮らし、特に高齢者の生活を直撃します。また、お金に国境がなくなった現在、低金利の日本円を借り入れ、それを米国ドルに転換し、米国ドルで米国はじめ海外の高金利商品に投資・運用する「円キャリー取引」も盛んにおこなわれています。日本の景気をよくするつもりだったのに、日本の景気は回復せず、海外への投資を促進するだけです。日本円を売って米国ドルを買うのが円キャリー取引ですから、更に円安が進んでしまう問題も生じます。このように、低金利、ゼロ金利政策も国民の暮らしを犠牲にして企業や海外で投資・運用する企業を支援するという「国民から企業への所得移転」となっています。一方、生活者優先政治は、金利水準の適正化政策を採用します。その結果として、まずは行き過ぎた円安が是正されますので輸入物価の高騰からくる物価高に歯止めをかけることができます。また、金融資産を保有する「持てる高齢者」の実質的年金アップ効果も期待できます(金融資産をお持ちでない「持たざる高齢者」の生活を守るための具体策も温めていますが、別の機会に報告させて戴きます)。
現在、日本人が保有する金融資産の63.5%を60歳以上の高齢者世帯が保有しており、60代の二人以上世帯の平均貯蓄額は2,203万円(2019年データ)です。
仮に、預入金利が3%(9月6日本稿執筆時点の欧州中央銀行の政策金利が4.25%、米国は5.5%)だとすると、2000万円金融資産をお持ちの世帯には、税引前年間60万円の金利収入が生じます。月々5万円の換算です。つまり、世帯当たりの年金が月々5万円増えるのと同じ効果があるのです。生活者の可処分所得を増やすことを最優先するのが生活者優先の政治です。可処分所得の増加はGDPの6割を占める個人消費の増加につながり、国全体のGDPを押し上げ、景気をよくする効果も期待できます。
一方、金利水準上昇によって現役世代の住宅ローン負担が増えるという問題が生じますが、現役世代は子育て世代でもあるので、この負担軽減策はやはり高い優先順位となります。まずは、伝統的な負担軽減策である住宅ローン減税の拡充が必要不可欠です(その他の軽減策や抜本的解決策については、別の機会に報告させて戴きます)。

今、我が国がやるべきこと ~人的投資が全て~
今、我が国がやるべきことは何か、それは徹底して人への投資を行うことです。対外的には経済連携協定やTPPのように、国際的な投資貿易上の制限を小さくして、企業が世界中どこでも自由に活動できる環境整備を行うこと、一方、国内的には規制緩和と富の再分配により格差拡大を抑制することに加え、何よりも大事なことは、一人ひとりの能力を伸ばすこと、イノベーションを加速させながら生産性を向上させることです。
そのためには、子供・将来世代への徹底した教育投資と子育て世代への国を挙げての支援、社会人の再挑戦のための自己投資支援(教育や職業訓練など)を最優先すべきです。

何度でも挑戦できる社会の実現
少子化が進むわが国において、社会やある程度の経済規模を維持していくためには、また、一人ひとりが幸せ感に満ちた社会にするためには、各人の能力を高めるしかありません。一人ひとりの能力向上なくして社会全体の成長もありえません。
その能力を伸ばすことに大きく立ちはだかる「親の経済力格差等による子供たちの教育格差」など「教育の機会均等」の崩壊は何としても食い止めなければなりません。
誰しもが教育を受ける権利と機会を保障され、頑張れば必ず報われる、何度でもやり直しができる、再挑戦できる社会をつくっていかなければなりません。今は、国民一人ひとりの幸福感を追求する社会を