吉良州司の質疑録

2018年4月19日

2018年4月19日衆議院代表質問 「インフラ事業参入促進法(略称)に対する代表質問」

希望の党、吉良州司です。
ただいま議題となりました法律案について、希望の党、無所属クラブを代表して質問します。

インフラ海外展開は元々民主党政権の目玉政策であり、成長戦略の重要な柱であるという観点は100%共有します。当該法案もその延長にあるわけで、より実効あらしめるため、マクロ的、ミクロ的、両方の観点から、また、議員になる前に勤めていた商社のニューヨーク店において、「Infrastructure Project Department」の部長「General Manager」として、インフラ案件に深く関わった経験から、当該法案とインフラ海外展開全体について、質問と提案を致します。

2017年6月9日に閣議決定された、いわゆる「骨太の方針2017」において次のような記述があります。「インフラシステム輸出戦略を推進し、アジア地域を含む、世界全体の成長のためのインフラ整備を図る」と。この大局的視点を共有します。
何故なら、世界経済と日本経済の関係は、世界がよければ、日本もよくなり、世界が低迷すると日本も低迷する、極めて強い連動関係があるからです。このことはデータが証明しています。世界経済の実質GDP成長率と、日本経済のそれとをグラフにしますと、ほぼ同じ形をしている、つまり極めて強く連動しているのです。日本経済をよくするためには、世界経済の成長に日本自身が貢献すること、そして、世界全体が成長するためのインフラ整備に貢献することが重要です。その意味でも「インフラ海外展開」は成長戦略のもっとも重要な柱だと思います。
広く「インフラ海外展開」といわれる分野の中で、電力など一部の分野では輸出に加えて、事業投資も積極的に行われています。しかし、当該法案が対象とする、鉄道、水資源、都市開発、下水道、空港、道路、港湾などの分野では、現時点では、我が国民間企業が事業投資に対して積極的ではありません。
当該法案がインフラ海外展開に一定程度資することには異論をはさみません。しかし、内容的には鉄道・運輸機構の出資機能を除けば、調査、設計、情報提供、助言など、インフラ海外展開の入り口を覘いているだけで、ドアをノックすらもしていない、極めて消極的な中身となっています。これでは、2020年に30兆円の受注を目指すという高い目標を掲げているインフラ海外展開を実現する具体策としては甚だ不十分だと断じざるをえません。

何故、これまで民間企業による事業投資、事業参画が進んでこなかったのか、その理由について、また、今後積極化していくための具体的方策について、石井国交大臣に伺います。

恐らく、その答えのひとつは、各機構の人材の問題、海外における経験・ノウハウの問題だと思います。この点につき、たとえば水資源プロジェクトの今後の本格的な海外展開を考える時、水資源機構の海外部門に、我が国の商社、メーカー、地方自治体で経験を積んだ人材を招き入れることや、フランス・ヴェオリア社やスエズ社など、水メジャーといわれる会社のトップクラスの人材を引き抜いて、最前線で活躍してもらうなどの対策が必要と考えますが、石井国交大臣の所見を伺います。

次に、インフラ海外展開全体の課題についてです。
電力など事業投資型案件を後押しする際の課題は、出資、融資などのリスクマネーをどう捻出するか、また、民間企業が投融資しやすくなるように、民間では取れないリスクを官がどうカバーするかなどの具体策です。その意味において、一昨年、JBIC法が改正され、リスクマネー供給を拡充する特別業務が追加されたこと、外国通貨の借入と現地通貨建て融資が可能になったことを高く評価しています。

今、ベトナムなど途上国政府の悩みは、経済発展のために構想するインフラ案件は山のようにあるけれども、政府の対外債務が積み上がってしまい、外貨準備の問題等から、一定限度以上の政府の政府返済保証や外貨兌換保証が出せないことです。この課題を官民共同で克服していかなければなりません。

そこで、リスクマネー調達についての具体的提案です。米国の証券市場SECにおいて「ルール144a」という特別な制度があります。
SECの社債発行に伴う情報開示義務は非常にハードルが高いのですが、途上国におけるプロジェクトの資金調達にも開放するため、社債の買い手を、ある一定の資産を持ったQualified Institutional Buyerと呼ばれる、プロの機関投資家に限る形で、情報開示基準のハードルを下げている制度です。
途上国におけるプロジェクト資金調達の機会を提供すると同時に、少々リスクはあっても高い利回りを欲する投資家にもその機会を与える仕組みです。プロジェクト遂行会社SPCが社債を発行して、プロの適格機関投資家にそれを買ってもらうことで、一日にして多額のプロジェクト資金を手にできる手法です。私自身、ニューヨーク勤務時代に、メキシコの3.3億ドルの電力案件につき、スイスのABBという総合重電メーカーと一緒に事業会社を設立し、このルールを使って社債を発行し、出資額1億ドル以外の必要資金2.3億ドルを一日で調達した経験があります。勿論、格付け会社であるムーディーズやS&Pのニューヨーク本社に出向いてプレゼンを行い、投資適格の格付けを取得した上でのことでした。

JBIC法改正後、JBICは社債引受けができるようになりました。勿論一番いいのは、米国をはじめとする世界中の投資家がリスクを取って社債を買ってくれることです。
しかし、日本の国益として、どうしてもこのマーケットに食い込み、このプロジェクトを実現したいと思うときには、JBICがルール144a上の適格機関投資家として社債を引受けることにより、呼び水効果も含めた資金調達ができるようになります。
また、日本企業が投資する電力案件など、現地通貨での収入しかないプロジェクトにおいて、JBICが実質的に「外貨供給保証」をすることにより、プロジェクトの実現可能性を高める提案をしたいと思います。

具体的には、プロジェクトの収入として得られる現地通貨を担保として、JBICが相手国政府への外貨供与を保証するのです。この保証を裏付けとして、相手国政府がプロジェクトに対して「外貨兌換保証」を出せるようになれば、社債発行時に、投資適格の格付けを得られる可能性が大きくなります。JBICが実質的に外貨供与保証をすることにより、社債購入者に事業リスクを取ってもらい、結果的には、日本企業がインフラ輸出や事業参画の機会を増やすことができるようになります。
勿論、為替リスクが生じる問題があります。しかし、エクスポージャーと言われるリスクに晒される金額は、外貨供給保証額全額ではなく、為替リスク部分だけとなりますので、そこを相手国政府に保証させるなどの解決策も考えられるのではなかと思います。

社債での資金調達は、通常の融資とは異なり、必ずしも定期的に元本返済をする必要がありません。定期的には金利だけを支払い、元本は10年後などの償還時に一括返済するという設計も可能です。現時点での財務体質は弱いが、中長期的な成長が期待される国において、そして、成長に伴って収益の向上が見込まれるプロジェクトには最適の資金調達手段です。
また、社債ですから、流通市場、セカンダリー・マーケットもあります。プロジェクトが順調に回りだせば、社債を売却して現金化することにより、新たなプロジェクトへの投融資に回すことも可能です。
そこで、JBICがSECのルール144aに基づいて社債を引受けることについて、また、現地通貨での収入しかない途上国のプロジェクトにおいて、JBICが実質的に外貨保証を供与することについて、財務大臣の所見を伺います。
最後に、本質疑の中でも申し上げました通り、インフラ海外展開は我が国成長戦略の重要な柱です。そして、日本企業はこれまでも国際競争が厳しさを増す中で必死に取り組んできました。政府もそれを後押ししていることを高く評価します。
何故なら、化石燃料をはじめ、資源を持たないわが国が、今後も現在の生活水準を維持向上させていくためには、海外の人が買いたいと思う「ものやサービス」を、誰かが供給して外貨を稼ぎ、その外貨で必要な資源、物資、食料を買わなければならない「経済的宿命」があるからです。

この宿命を考える時、インフラ海外展開をはじめ、輸出関連企業を後押しすることは、わが国が将来に亘り生き抜いていくためにどうしても必要なことです。
しかし、その後押しは、過度な円高の是正については一定の評価をするものの、効果の割には弊害が大きい超金融緩和政策を継続することではありません。
個人的見解ながら、TPPなど質の高い面的・広域的・経済連携の推進など、企業が世界中で自由に活動できる環境を整えること、そして、激しい国際競争の中でのイーコール・フッティングの環境を整えることこそが、輸出関連企業への真に有効な支援だと思います。

GDPに占める個人消費の割合が60%、70%を超える先進国においては、生活者の暮らしがよくなり、個人消費が増えない限り、真に強い経済にはなりません。
企業の内部留保の積み上がりや、現在の株価水準など、一見好調にみえる経済の姿は、実は、輸入物資の値上がり等による、一般生活者の可処分所得の減少分が、企業へと移転した「所得移転」の結果です。

とっくに途上国を卒業して先進国となっている我が国の、そして成熟社会になった我が国の政治は、生活者、将来世代を最優先する政治でなければなりません。
生活者、将来世代を最優先する政治の実現のため、再度政権交代を成し遂げたいという強い思いを表明して質問を終わります。

ありがとうございました。

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