吉良からのメッセージ

トランプ氏の米国大統領選挙勝利に思う その1

世界中の人々が驚きを隠せなかった米国大統領選挙でのトランプ氏勝利。私自身も、隠れトランプ支持者が多いと思われることから「もしかすると、ありうるかも」とは思いつつ、やはりクリントン氏が勝利するだろうと思っていました。

この結果については、専門家をはじめ、多くの人がいろいろなコメントを発していますが、トランプ氏勝利の背景にある米国社会の変容や今後の日米関係について、吉良州司の見方、考え方を(数回シリーズになりますが)お伝えしたいと思います。
第一回目は、移民国家アメリカという視点からの分析です。

まず、トランプ氏が勝利した背景には、都市部の工場労働者など「中低所得白人層」の現状に対する不満、危機感があったのだと思います。そして、これまでは民主党支持者の中核をなしていたこの白人層が、今回「共和党」支持ではないけれども「トランプ」支持に回った結果のトランプ氏勝利だと思います。

このことについては少し説明が必要です。
私は米国史の専門家ではありませんが、米国に5年半駐在していたことと、世界史や各国の歴史が大好きなので、素人ながら、米国の大まかな移民史に興味を持っています。

米国移民史は大雑把に分類すると、信仰の自由を求めた清教徒がメイフラワー号で米国に渡った1620年から1776年の米国独立あたりまでの「植民地時代」を第一期(英国からの家族を伴う移民が大半を占めた)、独立以降100年間あまりの間に米国に渡った「旧移民」時代の第二期(英国、ドイツ、北欧諸国からの家族を伴うプロテスタントが中心の移民とアイルランドからのカトリック教徒が大半)、1880年代以降から米国都市部の工場労働者の需要が高まったことを受けて急増する南欧、東欧からの男性単身者を中心(カトリック、ユダヤ教、ギリシア正教など非プロテスタント)とする「新移民」時代の第3期に分けられます。

そして、共和党の源流をなすのが第一期、第二期の移民者で、その主流は西欧の先進地域から渡米した白人のプロテスタントたちです。本国から家族同伴で米国に渡り、西部劇に出てくるように自力で農地を開拓していった自営農民や都市部の熟練工や経営者になっていきます。
日曜日には家族そろって教会で礼拝する人たちです。それゆえ、現在でも白人の人口比率が高い中西部では共和党が圧倒的な強さを誇っています(地図では真ん中あたりが真っ赤です)。

一方、民主党の源流をなすのは、第3期の新移民たちです。つまり、アイルランド系を含む都市部の低賃金労働者(非プロテスタント)の白人とアフリカ系、ヒスパニック系が民主党支持者の主流です。

人口は、ヒスパニック系の比率がどんどん増えていますので、現状の支持基盤が継続されていけば、共和党候補者が大統領になるのは難しいのではないかと思っていました。しかし、今回の大統領選挙では、これまで民主党に投票してきた都市部の低賃金白人労働者が「エスタブリッシュメント」の代表と見られてしまった民主党のヒラリー・クリントン候補ではなく、自分たちが抱く不満や危機感を「表に出して表現してくれる」トランプ氏を選択したことで、今回の結果に繋がったのだと思います。

選挙戦は醜い中傷合戦だったし、結果が出た今もトランプ氏を大統領として認めないというデモが全米各地で起こっています。米国社会の亀裂の深刻さを思うと、米国が一番よかった時代(1995年~2000年。9.11前で経済も順調で社会に寛容性があった)に駐在していた経験を持つ私としては、驚きとショックを隠せません。

世界のリーダーである米国の社会がここまで分断されているとなると、選挙戦の公約に象徴されるように、どうしても内向き、保護主義的、反グローバリゼーション志向が前面に出てきそうで、不安が頭をよぎります。

今後の日米関係をどうすればいいのか、課題山積ですが、このことについては次回に譲りたいと思います。

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