主張・政策論

2017年5月11日

2017年5月10日 衆議院外務委員会

○三ッ矢委員長
休憩前に引き続き会議を開きます。質疑を続行いたします。吉良州司君。

○吉良委員
民進党の吉良州司でございます。お決まりの冒頭発言でありますけれども、私の見解、質疑はあくまでも吉良州司個人の責任においてやらせてもらうものでありまして、民進党の正式見解を代弁するものではないということをお断りした上で、質問をさせていただきます。
きょうは、本当は北朝鮮の問題だとかフランス大統領選挙だとか韓国の大統領選挙など聞きたいのですが、やはり日印原子力協定というのは極めて重要でもあり、協定だけの質疑をやらせていただきます。まず、インドと原子力協定を締結する意義について、簡潔にお願いします。

○岸田国務大臣
インドと原子力協定を結ぶ意義ですが、まず、インドは、十二億を超える人口を持つ、世界第二位の大きな人口を持つ国であり、アジア第三位の経済規模と年七%を超える高成長率を有し、さらにアジアとアフリカをつなぐインド洋に面し、我が国のシーレーンの中央にも位置する、自由で開かれたインド太平洋戦略の鍵となる国であります。我が国にとって戦略的に最も重要なパートナーの一つであるインドとの関係強化、これは二国間のみならずインド太平洋地域の将来にとって極めて重要である、まずインドそのものについてはそうした認識を持っています。
その上で、今回、原子力協定を結ぶことによって、インドを国際的な不拡散体制に実質的に参加させる、こうしたことにつながると考えています。具体的には、まず、本協定は、インドが表明した核実験モラトリアムの継続等を前提としています。加えて、本協定を締結することによって、インドは我が国との間で核物質等の平和的目的に限った利用あるいは不拡散の義務、こうしたものを負うことになります。これにより、インドが原子力の平和的利用について責任ある行動をとることが確保されると考えます。以上です。

○吉良委員
ありがとうございます。極めて簡潔な、しかも網羅的な答弁に感謝します。
先ほど大臣がおっしゃった、地政学的な意味とか戦略的な意味とか、また経済的な意味については私の方からも指摘をさせていただきますが。午前中の議論で、再度確認したこと、自分で確認したことは、各質問者の指摘は全く間違っていない、と同時に、大臣の、また政府委員の答弁も間違っていないことです。今回の日印原子力協定は最終的には政治判断、価値判断だと思います。反対する側も、理由を含めて間違っていません。それでもやらざるを得ない背景にある戦略的な意味合いも間違っていないと思っています。
先ほどNPT上の話もしていただきました。実質的にNPTの枠組みに組み入れることができるという考え方も正しいし、一方で、日印協定を結ぶことは実質的にNPTの例外を固定化してしまうという考え方も間違っていないと思います。
さらに申し上げるならば、なぜ、核実験をやったときに終了するということを盛り込まないんだという指摘も間違っていない。同時に、盛り込んでいなくても、十四条で、日本側がやめると言ったらやめるという規定を盛り込んだので、核実験をやったらやめますよという権利をこの協定の中できちっと確保した、これも間違っていないと思います。
では、なぜこういう議論が起こるのか。私は、力関係だと思っています。
あえて言うならば、日本が少々、インドの言い分を聞き過ぎたとしても、それでもインドと戦略的な関係を築いていきたいからなんだと思います。
例えて言うならば、たばこを吸う女性がいたら恐縮ですが、本当は喫煙をする女性は好きじゃないという男性がいて、それでも、たばこを吸う女性が好きになって、結婚したくてしようがない。こうなったときに、たばこをやめるんだったら結婚するとまで言えればいいけれども、こっちの方が結婚したいので、いやあ、たばこは健康に悪いから少し本数を減らした方がいいんじゃないとか、結婚したら少しずつやめてもらえないかなとかとなる。
そういうことで、少し妥協した内容ながら、最終的に核実験をやれば、こちらは協力を終了しますよという権利を確保しようとしたんだと思います。
先ほど緒方委員の方から、陰の主役はパキスタンだという話がありました。私は、陰の主役は、パキスタンのみならず、実は、中国、そして米国だと思っています。インドは今、モラトリアム宣言をしていて、日本と協定を結ぶときには、自分はモラトリアムを守るぞという思いを強く持っていることは間違いないと思います。そのことも交渉の中で確認をしてきたと思います。
ただ一方で、インドからしてみたら、かつて、イン・パキ戦争があり、中印戦争があり、そういう中で、安全保障上、生き死にがかかったときに、そのときの選択肢まで全部奪われることは勘弁してくれとの思いの中で、今回の協定ができ上がっているんだろうと思っています。
インドにとって、生き死にがかかったパキスタンとの関係、中国との関係、この二国との関係についてお聞きしたいと思います。
というのは、将来的にインドが生き死にがかかる状況が起こらないとも限らない。その意味で、現在のインドとパキスタンとの関係、そして、パキスタンが内外に抱える問題、パキスタン自身が何らかの形で周辺諸国に脅威をもたらす可能性がある課題があれば、その辺について答弁いただきたいと思います。

○梨田政府参考人
パキスタンとインドの関係について申し上げますと、昨年来、両国の国境地帯でテロ事件が発生しております。その結果、両国の対話あるいは関係のさらなる構築というものが滞っている状況にございます。これはおのずと地域の不安定性に悪影響を及ぼしていることは言うまでもなく、我が国としては、両国が対話を通じて再び事態の改善に向けた状況を生み出すことを期待しております。具体的には、さきのゴールデンウイークに岸外務副大臣がパキスタンを訪れ、対話によるインドとの関係改善を促している、こういった働きかけを行っているところでございます。

○吉良委員
もう少し突っ込みたいところもありますが、全体の議論をしていきたいので、続いて、インドと中国の関係についてお聞きをします。
もともと、なぜインドが核を保有するようになったか。この背景には、インドから見ての中国の脅威があり、中印戦争があったからと、私は了解しています。そして、パキスタンはイン・パキ戦争が三回起こっている中で、インドの核保有に対して対抗措置をとるために核保有をしていると思っています。その意味でも、インドと中国の関係がどうなのかは極めて重要だと思います。現在のインドと中国の関係について、説明いただければと思います。

○岸田国務大臣
インドと中国の関係についてお尋ねいただきましたが、まず、インドと中国、これはともにアジアの大国であります。そして、お互いにとって重要性を有していると考えます。両国間においては、両首脳の相互往来、相互訪問を初め、要人往来、こうしたものが頻繁に行われていますし、中国はインドにとって最大の貿易相手国である、こういった関係にもあります。そして、一方ですが、詳細を見ていきますと、その貿易関係、中国からインドへの輸出、これは圧倒的に多いという実情があります。インドは大幅な対中貿易赤字を抱えている、こうした状況にあります。それに加えて、両国はカシミール地方などにおいて国境問題を抱えています。かかる中で、中国がインド洋あるいはパキスタンなどにおいてプレゼンスを拡大しているという動きに対しては、インドが強い関心を有していると承知をしております。こうした中で、中国とインドの関係の今後について答える立場にはありませんが、アジアの大国である両国が地域の平和と安定のために建設的な役割を担っていくことを我が国としては期待したいと考えています。両国の関係について、我が国として触れるとしたら以上であると考えます。

○吉良委員
確かに、アジアの二大人口大国であり、そして現在の成長一番と、これから成長が一番になるであろうインド、この両国の発展は、我が国にとっての国益でもありましょうし、今おっしゃった、中国とインドという大国同士が良好な関係を保つということも、一般論としてはいいんだろうと思います。あえて聞きます。これは質問通告していませんが中国とインドは良好な関係の方が日本の国益なのか、ある程度緊張関係にある方が日本の国益なのか、答えづらいとは思いますがお聞きしたいと思います。

○岸田国務大臣
中印の関係が我が国の国益に直接どう影響するのかということについては、これは簡単には申し上げられない話ではないかと思いますが、地域の平和と安定が我が国にとっても国益であるというふうに考えたならば、地域の平和と安定のためには、中印関係が安定していることは、これは好ましいことではないか、このように考えます。委員の質問の背景にはもっと深いものがあるのかもしれませんが、基本的には、日本の立場から、日本の国益ということで申し上げるのならば、その程度のことしか公の場では申し上げられないのではないかと考えます。

○吉良委員
ありがとうございます。公の場としてはおっしゃるとおりだと思います
し、確かに地域の平和と安定にとっていいことだと思います。これは外務省とか政府の立場では絶対言えないことですが、実は私は適度な緊張関係にあってもらいたいと思っています。
何故、中国が南シナ海、東シナ海など、ここまで海洋進出してくる背景は、経済の発展があり、技術の発展があり、十分な防衛費を投入できるという要素もありますが、歴史上、ソ連の時代、中ソ紛争があり、中ソ間の長大な国境線があって、そこの緊張関係が非常に高かったがために、中国としては、陸軍を中心にあの長大な国境線に防衛線を張らざるを得なかった。とても海洋に出ていく余裕がなかったという要素があったと思います。
そういう意味で、私が聞いたのは、日本の国益という意味では、中国が内陸部にある国境に対してある程度関心を持ち続けなければならないという状況は日本にとっての国益だと思っています。
それに加えて、中国はパキスタンと協力関係にあり、イランに近いバルティスタン地域のグワダル港は中国が八割のお金を出して浚渫(しゅんせつ)し港を整備していて、常に中国の海軍が使えるようになる可能性もある。よく言われる中国の「真珠の首飾り戦略」は、パキスタン、スリランカ、ミャンマーと、インドを取り囲むように中国が自由に寄港できる港を整備する戦略を中国が持っている。
それがゆえに、地政学的に、パキがあり、インドがあり、スリランカがあり、バングラ、そしてミャンマーがある、このインド洋地域が中国の影響下に置かれたならば、我が国の、ペルシャ湾からインド洋、マラッカ海峡におけるシーレーン防衛というのが非常に緊張感を増してくると思っています。
だからこそ、インドを日本側に引き込んでおきたい、これがあるがために、協定自体は必ずしも十分なものではないと私は断定しますが、それでもこの協定を結ぼうとしているのではないでしょうか。

○岸田国務大臣
まず、我が国にとりまして、インドは、経済成長という活力の観点から見ても、それから自由で開かれたインド・太平洋戦略という我が国の取り組みの観点から見ても、これは大変鍵になる重要な国であると認識をしております。このインドとの関係は重視していかなければならない、これは当然のことであると思っております。ただ、今御議論いただいているインドとの原子力協定、これは、まず基本として、インドの原子力の平和利用における責任ある行動を確保するためのものであります。さらに言うと、NPTに参加していないこのインドという国を国際的な不拡散体制に実質的に参加させるために意義ある協定でもあると認識をしています。あくまでも、今御議論いただいているのは、こうした原子力の平和的な利用におけるインドの責任ある行動を確保するための協定であるということは強調しておきたいと思います。

○吉良委員
大臣のおっしゃる責任ある行動をとらせたいということと、繰り返しこの議論の中でなされていますNPTに実質的に組み入れる、これは間違っていないと思うんですが、でも、今おっしゃった二点について言うならば、世界で一番力の強い米国と米印原子力協定が結ばれている段階でインドとしては責任ある行動をとらなきゃいけないし、アメリカも、NPTに実質的に組み込もうと思ってやったんじゃないですか。国力としては劣る日本がやる以前に米国がやっているわけですから、今言った二点については、既に目的を遂げているんじゃないでしょうか。

○岸田国務大臣
そもそも、米印原子力協定それから日印原子力協定ともに、基本は二〇〇八年のNSG決定、要は、インドの核実験のモラトリアム、そしてIAEA保障措置の適用、こうした厳格な条件のもとでの例外扱い、これが基本になっています。そして、米国も、日本も、ともに厳しい協定をつくることによって、国際的な不拡散体制に実質的に参加させるという結果を考えています。米国のみならず我が国もこうした取り組みに参加することは、インドに、NPT体制あるいは不拡散体制の重要性を認識させる上で大変重要な取り組みではないかと考えています。米印のみならず日印におきましてもこうした取り組みをやる意義は大きいと考えております。

○吉良委員
大臣の答弁自体は理解しますけれども、私の認識で再度言いますと、責任ある行動をとらせることと、NPTに実質的に組み入れようという意図については、世界で一番力のある米国とインドの原子力協定で十分だと思っています。それにもかかわらず、日本がなぜこれを結ばなければいけないのか。
私が思うところの理由は二つあります。一点目は、米印原子力協定です。今はいろいろ問題になっていますが、米国のウェスチングハウスがインドの原子力計画に基づいて原子力発電所の受注を請け負う。ただ、米国は、日本からの機器の供給がなければ、米国企業だけで完結する機器と技術を持っていない。ですから、米国のウェスチングハウスがインドに原子力発電所をつくろうとすれば、今いろいろ問題になっていますが、東芝から機器を買わざるを得ない、室蘭にある日本製鋼所から圧力容器を買わざるを得ない。
ですから、米印原子力協定に基づいて米国企業がインドから原子力発電所建設の契約をしたとしても、日本からの機器供給がなければ完成できないというのが米国の現実です。そういう意味では、原子力発電所の建設は、日米が連携をしなければ、発電所の完成にまで至らないのです。
そこで、米印原子力協定に基づいて米国企業が原子力発電所建設を請け負わんとすれば日本の協力が必要になる、そのときに日印原子力協定も必要になるということなのではないでしょうか。

○梨田政府参考人
本協定は、今御指摘のあったような日米間の協力というものを念頭に置いたものではございません。あくまでも、インドの原子力平和利用というものについて法的な拘束をかける、不拡散体制に実質的に取り込むということを目的にしておりますので、特定のプロジェクトあるいは協力というものを念頭に置いて今回提起するものではございません。

○吉良委員
外務省としてはそのように答弁せざるを得ないということは十分にわかっています。しかし、私の理解は先ほど来申し上げたとおりです。
お手元に資料をお配りしています。一ページ目です。
これは、原子力発電所をつくれるメーカーの再編過程と現状です。現在は、フランスのアレバ、アレバと技術的な提携関係にある三菱重工。一方、ウェスチングハウスを東芝が買収しましたが、今は東芝も苦境にあり、ウェスチングハウスも苦境にあります。そして、日立とGEというグループがある。これに加えて、韓国の斗山重工業。中国の原子力企業二社、そして、ロシアのロスアトムという企業があります。
私がさっき二点あると言った二点目です。
仮に、日印原子力協定が結ばれないとなると、米印原子力協定に基づいて米国が幾ら原発を受注しようとしても、米国単独ではつくることができない、日本の協力がどうしても必要なんです。
フランスのアレバは、フィンランドでの原発建設の大幅な遅れとコストの増加があって財政的に苦境にある。それがゆえに、フランス政府も、政府機関であるアレバも、日本に対しての協力を要請してきているのが現実です。
インドに対して日本が原子力発電所の建設に協力をしないということになれば、米国もできない、フランスもできないとなります。韓国も資金供与の面で体力的に問題があります。原子力発電所の莫大なコストは、インドがある程度自前で負担したとしても、ある程度輸出する側の金融がないとできません。ということになると、インドの現在計画中の原子力発電所は全てロシアと中国の建設になってしまうというおそれがあるわけです。
もう東西冷戦は終わりましたので、西側、東側というくくりではなくなったことは承知していますが、やはり潜在的に、旧西側はロシアと中国については警戒をしながら世界戦略を練るべきだというのが私自身の考え方です。
その意味で、日印原子力協定を結ばなければいけないのは、西側がやらなければ中国とロシアに席巻されてしまう恐れがあるからです。そういう中にあって、インドの日本の技術に対する期待、日本側から見れば、世界一の人口大国になるインド、その経済成長を我が国にも取り込みたい、そしてインド洋の安全保障もある、それらを総合して、我が国は、インドの期待に応えながら、世界じゅうの原発がロシアと中国で席巻されてしまうということを防ぐという非常に大きな戦略的意義があるのではないでしょうか。

○岸田国務大臣
まず、基本的には、この協定は、インドに原子力の平和利用における責任ある行動をとることを確保するものであります。特定のプロジェクトあるいはビジネスを想定したものではありません。ただ、こうしたビジネス、プロジェクトも、この原子力協定がなければ全く議論の俎上にも上らないわけであります。この協定を結んだ後、ビジネス、プロジェクトについては、別の観点から、別の立場から議論があるのかもしれませんが、いずれにせよ、今御議論いただいているのは、インドを平和的な原子力利用における責任ある行動に導く、このための協定であります。さらに言うと、もし今のようなビジネスがあるとしたならば、もしインドが原子力の平和利用において責任ある行動をとらなかったならば、失うものはまことに大きいということになるのではないかとも考えます。
いずれにせよ、今ここで御議論いただいているのは、インドを原子力の平和利用において責任ある行動に導いていく、こうした責任ある行動を確保するための協定であるということを強調しておきたいと思います。

○吉良委員
大臣として、外務省として、今言った答弁がベストであろうと思いますので、その点についてはこれ以上触れません。ただ、私自身が、今言ったような地政学的、戦略的な意味合いがある、だから政府がやろうとしているんだという認識を持っていることは、あえて再度強調しておきたいと思います。今度は、ビジネスを見ていきたいと思います。この原子力協定締結に基づいて、日本企業が原子力関連機器、技術について輸出契約等々を結ぼうとするときに、日本企業が想定しておかなければいけないリスクというのはどういうものがあるでしょうか。

○平井政府参考人
お答え申し上げます。インドに原発輸出等々をするに当たってのリスクについての御質問でございます。まずは、一般のビジネス全般に共通するリスクがあるのはもちろんですが、それに加えて、インドの原発商談の場合、インドの核実験の実施に伴う不測の事態が発生した場合には、この協定に基づく協力が停止されるので、日本企業とインド企業が結んだ契約の履行が困難になるということを考えねばいけないとと思います。
そうした万が一の場合のリスクを含めて、事業者としては、代金の支払い時期をいかなる時点に置くのか、協力の停止による責任分担をいかに明
記するのかといったような、あらかじめ契約に盛り込むべき条件というのを考慮しながら、インドにおける事業実施の是非を判断していくものだと考えております。

○吉良委員
ありがとうございます。一般論ではありますけれども、簡潔に答えていただいたと思います。
資料の三枚目を是非ごらんください。
これは、私がニューヨークの駐在員だったときに手掛けていたパキスタンの発電プロジェクトのプロジェクト・スキーム図です。
ちょっと複雑ですが、真ん中に書いたのは事業会社。その下にあるB&Wはトランプ大統領を誕生させた州だと言われているオハイオ州に本拠を置くエンジニアリングカンパニーです。このB&Wの下に、東芝のタービンジェネレーターというものを輸出する。我々は一〇%ながら出資をする。
そして、機器が米国からも多く出ていきますので、米国の輸出入銀行の輸出金融をこのプロジェクトに供与してもらうことになっていました。
ところが、このプロジェクトは、計画どおりに資本を投下し、ファイナンスを集め、建設も始めたのですが、大変な問題が起こります。
それは、一九九八年、インドの核実験、それに対抗して、パキスタンが核実験を行いました。これによって米国政府が怒って、政府の支援をやめるということになりました。米国輸出入銀行は政府機関でありますから、米国輸銀の融資をやめるとなったわけです。
我々も、米国のB&Wと一緒にワシントンの米国輸出入銀行に行きまして、これじゃプロジェクトの採算が合わないので見直してくれと申し入れました。当時米国政府が下した判断は、輸出入銀行が直接融資することはしないが保証はつけるから、保証のもとで民間銀行が融資をしてくれとのことでした。金利が上がりますから採算は悪化します。それでもしようがないので、輸出入銀行の保証の下での民間銀行融資ということで進めていました。しかし、その当時のムシャラフ参謀総長がクーデターを起こして、政権を奪取しました。個人的には、ムシャラフ大統領というのは非常に立派な方だと思っていますが、米国政府はクーデターによる政権奪取は許さないということで、結局その輸出入銀行の保証も取りやめることになりました。もう逃げようがないので、裸の民間銀行による融資だけで、採算は極度に悪化しましたが、プロジェクトは遂行しました。残念ながら、その金利アップの補償は誰もしてくれません。損失補填はどこもしてくれません。
先ほど経産省の高木副大臣が、民間企業が個別に判断していくことであると言っていました。今の平井さんも、当事者である民間企業が契約の中できちっとリスクに対するリスクヘッジ策を盛り込んでおくべきだという話がございました。けれども、私は、今回の原子力協定締結に基づく民間企業の参加というのは、ある意味、国策に民間企業が協力するという形態だと思っています。
大臣と外務省の説明は私の説明とは違っていましたが、日本国家としての大局的な利益がある、だからこそやるんだと私は思っていますので、民間企業が負うリスクを、それは民間企業、あなたの責任ですよ、としていいのかという疑問があるんです。核実験を行う可能性はゼロじゃないんです。核実験を行ったならば、契約当事者は何の瑕疵がないにもかかわらず協力は終わりですということで、契約を事実上停止しなければいけない。これに伴うリスクを全部民間企業に負わせていいんでしょうか。

○小林政府参考人
お答え申し上げます。インド向け原発輸出に対する日本企業のリスクに対する何らかの政府の措置という御質問だと思いますけれども、日本企業がインド向けに原子力資機材等を提供する場合には、日本貿易株式会社NEXIの貿易保険制度を活用しまして、輸出代金の回収リスク等を軽減することが現行制度でも可能となっております。仮にインドが核実験を行った場合には、外為法による輸出許可の取り消し等によって輸出ができなくなることなどによりまして我が国企業が輸出代金を受け取れなくなるリスクが想定されますけれども、制度上、輸出契約後のこのような損失につきましては、貿易保険によるカバーは可能となってございます。また、融資の場合には、今は輸出代金ですけれども、仮に融資があった場合、融資の場合には、償還不能となった場合の損失を補填する貸付保険、投資の場合には、海外子会社が戦争、テロ等によって事業継続できない場合の損失を補填する海外投資保険によるカバーが可能でございまして、このような措置によりまして、民間企業のリスクを一部このような形で貿易保険でカバーしているところでございます。

○吉良委員
事実上、国策に民間がついていくことになるプロジェクトです。今答弁のあったNEXIの保険というのは通常の保険です。
例えば、通常こういう支払い条件というのは、最初に一五%なら一五%の前金があって、それから船積み後からは出来高払いとなります。ただ、実際は、受注した側は、一五%の前金はもらいますけれども、発電所が納期どおりにできるように一五%の前金分でおさまらない発注を事実上かけなきゃいけないんです。発注をかけたらリスクが生じるんです。仮に将来的にその輸出代金の保険が入ってきたとしても、一時的に立てかえている資金の金利については、NEXIの保険ではカバーされません。
自分自身の経験で例示したパキスタンのプロジェクトでは。契約当事者としては何の落ち度もないのに、米国の国家戦略として金利がばか高くなったんです。そのときの金利上昇分は保険でカバーされないんです。
そこで最後に、資料の二ページ目を見ていただきたいと思います。これは貿易保険から出された資料です。ここに書いてあることは、インド政府は保障しないけれども、州政府の保証、それをサブソブリン保障といいますが、サブソブリンのリスクをカバーしてもらえないかという民間ニーズがあって、貿易保険としてはそれに応えているということを書いているわけです。
下の段に書いてあることは、インドの特殊な事情を考慮し、安倍総理が現地に赴いた際の首脳会談の結果、日印関係をより強化しなければいけないということで、新たにつくったメニューです。その意味で、国策に従い日本企業がそれに協力していくというインドの原発建設ビジネスについて、民間がこうむるであろう損失については、国として特別なメニューを設けてでもカバーしなければいけないのではないかという問題意識を披露しまして、ちょうど時間が来てしまったので、終わります。
ありがとうございました。

バックナンバー