2018年5月16日 衆議院内閣委員会 TPP議事録
○山際委員長 次に、吉良州司君。
○吉良委員
国民民主党の吉良州司です。
質問に先立ちまずお断りします。今日はTPPの議論ですが、国民民主党としてまだ賛否の結論が出ていません。今日、私自身が質問する内容、提案する内容は、ひとえに議員個人としての吉良州司の責任で行うものであり、党を代表してのものではないということをまず断りします。
また、今日の質問は、TPPを通して日本の国益をより大きくしたいという思いで、かなり大胆な提案といいますか議論の題材にしたいと思っておりますので、その辺もまた御理解をいただきたいと思います。
この内閣委員会において、3月28日にも質問に立たせていただき、茂木大臣に対してTPPの意義についてお尋ねしました。その際、一言で言えば、大臣の方から「21世紀型の極めて高いレベルの地域包括的な枠組みができることは大変大きな意義がある」と答弁いただきました。そして、私は米国が離脱する中で、日本が中心となってこの短期間にTPP11をまとめたことも大変高く評価しています。どう転ぶかわからないトランプ大統領のおかげだと思いますが、日本外交が、米国への配慮は常に必要ですが、時には米国とたもとを分かってでも日本の国益を追求していく、リーダーシップを発揮していく、という姿勢を出せたことは大変いいことだと思っています。その意味でも、茂木大臣、河野外務大臣始め内閣府の皆さん、また外務省の経済局を中心とした皆さんの御苦労に対して、ねぎらいと感謝を申し上げます。<この後、TPPの意義について吉良より説明。また、日本の産業構造と米国の産業構造の違いをデータで示した上で、米国を再びTPPに迎え入れるには、米国産業構造の分析、理解を深めた上で、TPPが米国の国益に合致することを説明する必要があることを力説。詳細は割愛>
○吉良委員
ありがとうございます。これから、きょう一番重要なポイントになってきますが、どういうことかといいますと、米国を復帰させるために、日本がやはり、TPP11をまとめたように、中心になってリーダーシップを発揮しなければいけないと思っています。その際に、あれだけ皆さん苦しい思いをして、まずはTPP12をまとめ上げていた。その後、米国が離脱することになった。それで、もう一回、米国を復帰させる。この際、再交渉になるような、既に合意した11カ国がまた大幅な再交渉を余儀なくされるような事態は避けなければいけない。でないと、TPP12の再合意というのは成らないと思っています。
そういう中で、じゃ、どうやったら米国をもう一回引き込むことができるのか。私は、日本がキーだと思っているんです。その意味で、日米FTAはやらない、そして、11カ国全体にわたる再交渉の余地というものを極めて小さくしながらやっていくためには、日本が何らかの形で、米国を引き入れるための、また、それを11カ国が支援するような道を日本が提示しなければいけないのかなとも思っています。そして、それは日本の国益にかなうやり方でなければならないと思っています。そういう意味で、かなり大胆な議論を今からさせていただきたいと思っています。
TPPの賛成論と反対論、ざっくり言ってしまうと、TPPの賛成派は、大概が全体最適を求める派です。そして、反対する人たちは、多くの人が部分最適。これは、どっちがいい、どっちが悪いと言っているのではありませんが、反対派は農業のここが傷む、こういう産業のここが傷む可能性がある、だからだめだという傾向が強い。一方、部分的に傷むところはあるかもしれないけれども、それは何とか手当てをしていきながら、日本全体の国益が増進できるのであれば思い切って一歩踏み出そうというのが全体最適を主張する人たちです。私は、全体最適に立つ立場です。その際に、ここにいる全委員がそうだと思いますし、TPP賛成論である私もそうですが、この日本の中で、誰一人として、農業がどうなってもいいとか、農業従事者の生活がどうなってもいいと思う人はいない。誰もが日本の農業を守りたい、農業に携わる人を守りたいと思っている。そういう中にあって、やはり国益を増進しなければいけない。まずは、この基本的考え方を理解してもらった上で、議論を進めていきたいと思っています。というのも、私は関税も含めた農業分野のさらなる開放を提案しようと思っているからです。
資料三を見てください。大岡越前守の三方一両損というのは有名な話ですが、これは私流に三方一両得と命名している考え方です。左上の紫のところに、TPPにおいて、農産物関税の撤廃、完全自由化と一番極端なことを書いています。一方で、米、麦、大豆、肉、酪農などの主要産品につき、農家に対して直接支払いを行うとしています。三方とは何か、消費者であり、農業従事者、まあ農業であり、そして輸出産業を中心とする産業です。仮の話ですが、農産物の関税がなくなった場合には、外国産の輸入農産物が日本の市場に入ってくることになります。輸入農産物を中心に市場価格が大幅に下がってくる可能性がある。これは、消費者にとって、選択肢はふえるし安くなるので、大きなメリットになることは間違いないです。一方、何らかの形で生産コストと市場価格の差を、WTO上の違反にならない範囲で、農家に直接支払いで埋めることができれば、仮に外国産の物が市場に1000円で出ている、日本で同じ物を市場に出そうとするとコストが3000円かかる、しかし2000円は直接支払いで補てんされるということになると、日本の農家も千円で市場に出せるようになる。そうすると、消費者は、外国産の関税をなくしたおかげで、外国産はもちろん、日本の安心、安全で質のいい、おいしい農産物も安く買うことができるようになる。日本の場合は、有名ブランド農産物をつくっているような農家は、仮に市場価格が1000であっても、自分は少々高く市場に出しても買ってもらえる、品質にそれだけの自信があるということであれば、2000円で出せるわけですよね。そうすると、2000円の補助をもらって採算が成立つ上に、市場に出す強気の価格と市場の基礎価格との差の1000円が丸々利益になります。右下の産業については、当然ながら、相手国の工業製品、化学製品等の関税が下がるか、なくなりますので、輸出増、売上利益増となり、結果的に、法人税を通した国の税収増となります。全てを賄えるかどうかわかりませんが、私は、この産業の利益増、税収増によって、農家の生産コストと市場価格の差を埋める財源として使うべきだと思っています。こうすることによって、消費者もハッピー、農業者もハッピー、そして産業もハッピーになる。これは、さっきの全体最適と部分最適でいいますと、釈迦に説法にはなりますけれども、部分最適の人は、TPPに入ればここが痛む、この人たちが困るから入っちゃならんということになります。そうすると、今の国益が100とすれば、100のままになります。私は、今、説明したような考え方でもってやれば国益が100から110になります、その110のふえた10のうちの税収が4なりがあればそこから農業に対する手当てをする、そのことによって国益が増大し全体最適が追求できる、そして部分最適で痛むかもしれないところにきちっと手当てができる、このように考えています。この考え方に対しての茂木大臣の所見をお伺いします。
○茂木国務大臣
委員の方から、わかりやすい形で資料を提示いただきました。恐らく実際は、先ほど、TPPの経済効果、このGTAPモデルを使った場合にどうなるか、GDPの押し上げ効果、雇用の効果のお話もさせていただきましたが、こういったものがぐるぐると回りながら最適の解が出てくる。同時に、例えば消費者の方というのは、単純な消費者として存在するだけではなくて、場合によってはその方が輸出大企業に勤めていたり、地域の中小企業ですばらしい物づくりをしていたり、また農業をやっていたり、いろいろな形で幾つかの顔を持つということがあって、この消費者の方が仮に農業をやっていてさまざまな工業製品を買うこともあるでしょうし、逆に、会社勤めの方が日本のいい農産品を日々の家庭に並べているということもあるんだと思います。こういうサイクルの中に、更に成長センターであるアジアというマーケットが視野に入ってくるということで、よりダイナミックにこういったものが回せるような形になってくると思っております。そして、委員の方から、米国が復帰することの重要性であったり、また、消費者の利益は何か、こういうことについても前向きな御提言をいただいたところでありまして、我々も、米国には復帰をしてほしい、こういう考えを持っておりますが、その一方で、11カ国、このTPP11をまとめるに当たって、TPPのハイスタンダードを維持しながらバランスのとれたものにしていく、各国の利害、ぎりぎりの調整をしましてつくったガラス細工のような協定でありますから、なかなか、一部のみを取り出して再交渉をする、見直しをする、このことは難しいという側面もあるとは考えております。
○吉良委員
ありがとうございます。ですから、最後の部分については、ほかの国に国内調整を含めて高いハードルを課すようなことがあってはならない。だから、ほかの国から見れば、ハードルがかえって低くなったというやり方をしなければいけない。そういう中にあって、まず隗より始めよではないですが、最後は、農家も守り、農業も守りつつ、日本はもう少し農業分野を開放することによってまとめられないか、という考え方を持っているのです。 もう一点だけ。今、消費者についての言及がありましたが、日本の農業を考える際に、例えばお米を食べなくなったとか、人口減、それから若い食欲旺盛な人たちが減ってきているということもあって、やはり農産物に対する需要をどう維持していくかということも非常に大事だと思っているんです。そういう意味で、農産物が高いよりは、安心、安全でおいしいものが安く消費者の手に入るということは需要を維持したりふやしていくことになると思います。それは、めぐりめぐって農業全体の発展に寄与することだとも思っています。だから、結構いい考え方ないかと思っています。ただ、農産物の関税を低くしようとか、また、関税をなくそうというような考え方を披露すると、必ず出てくるのが食料安全保障の問題です。全部海外に頼って日本の食料安全保障が守れるのか、こういう議論が必ず出てきます。そこで、残された時間は、食料安全保障についての現状の確認、また、私の持論も披露させていただきたいと思います。まず、大臣、世界で一番農産物の輸入が多い国はどこか御存じですか。
○茂木国務大臣
ちょっと正確な回答かはわかりませんが、中国のような気がいたします。
○吉良委員
ありがとうございます。確かに今は中国が一番輸入額が大きい。ただ、中国の経済成長がここまでないときは、米国が一番大きな輸入国でした。今でも二番目です。米国といえば、すぐ頭に浮かぶのは、農産物の輸出国。資料の4を見てください。農産物輸入額上位10カ国の農産物の輸入額、輸出額、そして純輸入額を示した図です。
これを見たときに、結構意外だと思われるのは、米国、オランダ、フランス、カナダといった国々は農業大国のイメージが強い国です。事実、農産物の輸出額は非常に大きい。しかし、同時に輸入額も非常に大きな国々です。これはどういうことか。これらの先進国は、国民に対して豊かな食生活を保障することが一番の主眼にあって、農産物についても、比較優位の原則をとっているということです。ですから、その国の土地柄からして、競争力がない、なじまないものは積極的に輸入し、そして、得意とする農産物は輸出をして、農産物の輸出大国になっている。そういう意味で、農業大国と言われる国は、同時に農産物の輸入大国でもあるということを認識しておく必要があると思ってこの図を提示しています。同時に、資料の5を見てください。食料自給率の図です。これは、農水省のホームページより抜粋した穀物自給率の比較表です。日本の議論の中で、自給率をもっとふやせと言っています。それ自体は間違ったこととは思いません。でも、実際どういう国が自給率が高いのか。見てください、パキスタン114%、マラウイ94%、カンボジア102%、チャド99%、マリ85%、ニジェール84%。これらの国々は、大変失礼なので、言葉を選ばなきゃいけないんですが、パーキャピタ(一人当たり)のGDPを見ても決して豊かな国とは言えない、食生活も十分ではないだろうと思われる国々です。これらの国々の食料自給率、穀物自給率が極めて高い。茂木大臣、このことは御存じだったでしょうか。
○茂木国務大臣
恐らく、穀物の中でも、こういった国々を見ますと、比較的麦をつくる国というのは多くて、麦は同じ穀物の中でも比較的、それほど土壌によらずに連作がきいたり、こういった効果というのは一つあるのかなと思っております。あとは、人口に対する国土面積の広さというのも、やはり、日本であったり韓国、オランダ、こういった国が自給率が低いところから見てとれるんじゃないかなと思っております。
○吉良委員
私が指摘したいことは、その資料5の「カロリーベースの総合食料自給率計算式」なんです。一人一日当たりの供給カロリーを分母とし、分子を一人一日当たり国産供給カロリーとしています。これは農水省の定義です。これをブレークダウンした計算式で見ると、仮に、括弧の中、輸出も輸入もゼロだったとしますと、結局、「国産供給カロリー」割る「人口分の国産供給カロリー」割る「人口」となって、自給率100%になります。つまり、海外から農産物を買う経済力のないところは、輸入がゼロになって、もちろん輸出余力もありませんから、自給率が高くなる。比較優位の中で、海外から自分が苦手な農産物を買うだけの経済力があるところは輸入も多くなりますが、米国、フランスのように、農業大国であればプラスマイナスして輸出が多くなる。日本の場合は、圧倒的に輸入が多くなっています。ですから、食料自給率を考えるときは、こういった要素も頭に入れておく必要があります。次に、資料6を見てください。この資料は、「我が国の「食料安全保障」への新たな視座」という報告書ですが、外務省の経済局の安全保障課が有識者に提言をお願いして出したものです。その中には、「食料安全保障への新たな視座、平時、有事の分類と対応」ということで、平時における食料安全保障への対策としてどういうことが必要なのか、また、いざ有事の際の食料安全保障の観点からは、どういう対策が必要なのか、書いています。同じ趣旨のものが農水省のホームページにも出ていまして、見比べたんですけれども、こちらの方がより詳細に書かれていましたので、こちらを出させてもらった次第です。
食料安全保障の議論をするとき、輸入途絶になったり、海外で一朝有事が起こったら、もうパニックになって、国民への食料供給ができなくなるのではないかという漠然とした不安が国民にあると思っています。これは、ある意味、私自身が大学時代にやっていたロッククライミングと似たところがあります。ロッククライミングというと、知らない人は、よくあんな危なっかしい垂直の壁を登るな、と思いますよね。しかし、実は、結構物すごい安全対策をしながら登っていくんです。委員会の場で恐縮ですが、ほんの少し脱線させてもらっていいですか。<ロッククライミングのやり方、安全対策について経験に基づいて解説。詳細は割愛>
実は、食料安全保障も、似たところがあって、精緻に分析をしないままだと、何か一朝有事があったら全てだめになるようなイメージを持ってしまいます。しかし、平時において有事に備えておくべき事柄は何か、有事の際にやるべきことは何か、など精緻に分析と備えをしておけば、実は危なっかしいと思うほどのリスクではないと私自身は思っています。その意味でも、外務省が諮問した研究チームが出したこの研究成果は、私にとって非常に説得力のあるものでした。私が冒頭に申し上げましたように、この日本において誰一人、農業がどうなってもいいとか農家がどうなってもいいという人はいない。みんなが守りたいと思っている。しかし、全体最適と部分最適という脈略の中でいえば、全体最適のためにTPPに一歩踏み込み、そして、農業については、結果としては農業の振興につながるんだというアイデアをタブーなしに検討してみる、きちっと分析してみる価値があるのではないかと私は思っています。そのことも含めてTPPを更に進めていただきたいし、今申し上げたような観点も含めて米国を再度招き入れてほしいと思っています。これについて、最後、茂木大臣からの答弁をお願いします。
○茂木国務大臣
この安全保障、食料にしても、それから外交上、まさにエネルギーの安全保障についても、いかにリスクを軽減させていくか、そして、有事、緊急の事態にどう備えるかと平時から考えておくか、極めて重要だと考えております。ロッククライミングも、仕組みについてはわかりましたが、それでも私はやはり怖いな、こんなふうに思っているところでありますが、TPPについては勇気を持ってこれからしっかり進めていきたいと思っております。
○吉良委員
ありがとうございます。終わります。