吉良からのメッセージ

2016年12月5日

トランプ氏の米国大統領選挙勝利に思う その4

前回のブログでは宗教的、社会的側面からの米国建国史を紐解いて米国共和党の歴史的背景についてお伝えしました。

本ブログでは、米国民主党の支持基盤の歴史背景について説明し、前回の共和党支持基盤の歴史的背景も加味しながら、今回の大統領選挙においてトランプ氏が勝利した理由について私の考え方をお伝えしたいと思います。

本シリーズその1において、米国移民史上1880年代以降から米国都市部の低工場労働者の需要が高まったことを受けて急増する南欧、東欧からの男性単身者を中心(カトリック、ユダヤ教、ギリシア正教など非プロテスタント)とする「新移民」とアフリカ系、ヒスパニック系などマイノリテイといわれる人々が民主党支持者の源流であることをお伝えしました。

民主党がリベラルであることの歴史的背景としては、「新移民」と「旧移民」の軋轢がありました。先発組として社会的地位・基盤・権益を既に得ていたWASPは、その既得権を脅かす存在として新移民を警戒し、蔑称を浴びせて社会的に差別します。
ポーランド系は「ポラック」、イタリア系は「ウォップ」、日系は「ジャップ」、中国系は「チンク」などと蔑まれ、やがて、(特に人種的偏見も加わって日系人など東洋系移民に対する)移民排斥運動へと展開していきます。
移民に対して不寛容なWASPの基本姿勢は既にこの時代から存在していたといえます。

また、シリーズその1で、都市部の工場労働者需要に応じて南欧、東欧から単身渡米してきたのが新移民だと説明しましたが、現在もニューヨークには「リトル・イタリー」や「チャイナタウン」、ロサンゼルスには「リトル・トーキョー」などがありますが、「リトル・ジャーマン(ドイツ)」や「リトル・イングランド」「リトル・スウェーデン」は存在しません。
元々、故郷に錦を飾るつもりで単身渡米した人々が多かったこともありますが、故郷の言語を話しながら、身を寄せ合って差別や偏見と格闘していたことがわかります。
従って、既存既得権益者や社会のエスタブリッシュメントに対する反発が民主党支持者の精神的源流なのです。そして、移民受け入れの社会的・経済的需要の多かった東海岸や西海岸の都市部を中心に多くの支持者がいます。大統領選挙時の米国地図では、面積だけみると中西部の赤(共和党)の方が大きいのですが、選挙人の数が多い(人口が多い)カリフォルニア州やニューヨーク州などは青の民主党の地盤になっています。

このような歴史的背景から民主党の基本理念として「平等」と「人権」を最重要視します。
「平等」は共和党が主張する自己責任や企業による自由裁量では実現できず、政府の介入による富の再分配が必要であると考え「大きな政府」を志向します。オバマ・ケアなど医療保険制度など福祉・行政サービスを積極財政により拡充しようとします。また、黒人の人権・女性の人権・移民の人権は勿論、対外的にも人権外交を重視します。人工中絶容認、同姓婚容認、移民容認、銃規制強化など共和党と対立する個別政策も、これまで述べた歴史的背景が根底にあると思われます。

このように米国の建国史、共和党、民主党それぞれの支持層の歴史的背景から今回の大統領選挙を見てみると、候補がトランプ氏であれ、クリントン氏であれ、個人的資質に関係なく、基本的には共和党支持者はトランプ氏を、民主党支持者はクリントン氏に投票した可能性がかなり高かったのではないかと思っています。
では、何故、トランプ氏が勝利したのでしょうか。私はふたつの大きな理由があると思っています。
ひとつは、接戦州といわれたオハイオ州、フロリダ州、ペンシルベニア州、ミシガン州などでトランプ氏が勝利したからです。これらの州に共通することは、フロリダ州を除いて、製造業に従事する低賃金白人労働者が多いことです。シリーズその1でお伝えした通り、これまでは民主党候補に投票していた白人労働者が今回はトランプ氏に投票したと思われることです。
もうひとつは、マイノリティ(少数派)といわれる黒人、ヒスパニック系の投票率がオバマ大統領誕生時の熱狂に比べて低かったことです。これもシリーズ1で述べたとおり、クリントン氏がオバマ大統領のような少数派を代弁する候補とはみなされず、逆に「エスタブリッシュメント」の代表とみなされてしまった結果ではないかと思います。

米国の歴史や大統領選挙の専門家でもない私が、その歴史解説や選挙分析などをしてきたのは、トランプ氏の暴言が、日本の多くの人が、否、世界の多くの人々が考えていたほどには共和党支持者の投票行動に影響を与えていなかった背景について、自分も考えてみたかったし、その思い至った考えや分析をみなさんに知ってほしかったからです。
専門家としての分析ではありませんが、みなさんが今回の大統領選挙を理解する上での参考にして戴ければ幸いです。

吉良州司