吉良からのメッセージ

北方領土問題の本質と対応 その10 基本的認識の共有

北方領土問題シリーズ第10弾です。

前回のメルマガでは、ロシア側の言い分について冷徹な説明を試みました。そして、ロシアが北方領土交渉において絶対に譲れない条件は「第二次世界大戦の結果として、北方4島はソ連(ロシア)の領土になった、ことを日本が認め、受け入れること」だ、ということが、過去の交渉経緯や最近のラブロフ外相の強硬発言から見てとれました。

これ以降のメルマガでは、これまでの歴史的経緯やロシア側の譲れない条件などを考慮しながら、現実的な解決策や北方領土問題の本質に迫っていくつもりです。
その前段として、今回は、以下に箇条書きする「現実的な基本的認識」についてみなさんと共有したと思います。

1.主権は「国家の根本」「国家の尊厳」「国家の面子」の問題であり、経済的効果や利益とは次元を異にする。しかし、4島全ての主権を主張し続ければ、1島も戻ってこないし、平和条約も締結できない可能性が高い。

2.北方領土の一部でも主権を放棄すれば、尖閣諸島問題や竹島問題にマイナスの影響を及ぼす可能性がある。

ここで質問ですが、尖閣諸島問題、竹島問題、北方領土問題の違いは何でしょうか。

<答え> 勿論、相手国が、尖閣諸島問題は中国、竹島は韓国、北方領土問題はロシアですよね。しかし、外交的には、この3つは全く性質が異なります。
(1)尖閣諸島問題は、歴史的にも、国際法上も日本の固有の領土であり、中国の領土主張には全く根拠がありません。従って、わが国は中国の主張に取り合っておらず「領土問題」の存在を認めていません。悩ましいのは、日本にとっては甚だ迷惑な話ですが、中国の国内法である「領海法(略称)」において、「尖閣諸島は中国の領土だ」と明記しています。そのため、日本の人や船が自国領土である尖閣諸島に上陸したり、その領海に入ると(中国の領海法上、不法侵入となりますので)中国の公船が乗り込んでくるのです。中国政府としては、領海法の手前、自国領土を警戒、監視しているというパフォーマンスをやらざるをえないのです。
(2)竹島も歴史的にも国際法上もわが国の固有の領土ですが、残念ながら、韓国が自国領土として、わが国の主張を無視し続けている憂慮すべき状況が続いています。
(3)北方領土は、日ロ両国が「領土問題として認識し、その帰属につき交渉を続けている」問題です。

以上の回答により、3つの問題の性質、背景が異なることがお分かりいただけたと思います。それゆえ、尖閣諸島については、中国が何と言ってこようとも、「北方領土問題は日ロ両国が『領土問題』を認識し、それを交渉によって決着させるべく交渉を続けてきた結果だ」ということで、突っぱね通すことが必要だと思います。

3.仮に北方4島が終戦時から現在に至るまで日本の領土であり続けたとした場合、今現在は、日本でもっとも過疎化が進んでいる地域となっている可能性が高い。

<参考> 一昨年、ビザなし交流事業に私自身も参加し、国後島と択捉島を訪問してきましたが、生活する上で、また、経済的に自立する上で、非常に厳しい環境だと実感しました。産業として成り立つのは漁業のみで、工夫次第で一部の会社や人が観光を生業にできる程度だと思います。

4.国家の尊厳とは別次元だが、実利面からは、元島民と子孫の自由な墓参と里帰り、そして、制約のない漁業を含む経済活動ができることが重要

5.安倍政権は、平和条約締結に向けた布石として、「北方領土における共同経済開発」「ロシアの生活環境大国,産業・経済の革新のための8項目の協力プラン」、「ビザなし交流の拡充(航空機使用訪問も実現)」などを着々と進めてきている。

6.北極海航路開設とシベリア最北端のヤマル(「最果て」の意)LNGプロジェクトの稼働にともなうLNGの中国や韓国などへの海上輸送は、津軽海峡ルートが中心になるが、ロシアのウラジオストクや北朝鮮などへの輸送は、国後・択捉島を含む千島・宗谷海峡ルートも有力選択肢であり、両島の地政学的・軍事的重要性に加え、海上輸送上の重要性が増大する。
<参考> ヤマルLNGプロジェクトについては、ユーラシア研究所のホームページhttp://yuken-jp.com/report/2018/05/09/yamal/ をご参照ください。

7.ゴルバチョフ、エリツィン時代を含め、ロシアは経済力、国力が低下した時には「譲歩の可能性」を匂わせるが、現実交渉の中で、現実的な「譲歩」をしたことは一度もない。確かに、東京宣言では、1956年の日ソ共同宣言の「2島引き渡し」から「4島帰属の問題の解決」へと「4島まで帰属対象を拡大しており、一見、譲歩したように見えるが、国後・択捉両島の日本主権の可能性を認める言動は過去一度もない。

8.理想的100点満点は勿論、4島全ての日本主権を確認することだが、現実的には難しい。次善の理想的満点は、平和条約締結と歯舞・色丹の日本主権の確認とその一部の先行返還、そして、国後・択捉の帰属についての交渉継続。しかし、後者も現実的にはゼロではないものの、かなり厳しい。

9.ロシアは国境警備隊以外のロシア住民がいない歯舞群島だけは日本主権を受け入れるか、主権は譲らない場合でも将来的な施政権の日本への移行を認める可能性はあるが、全体で1万6千人のロシア人が現に居住している国後・択捉・色丹の主権を認める可能性は低いと見ることが現実的である。

10.元島民も「4島は現実的に無理であり、最悪2島で決着してでも平和条約を締結してもらいたい」「自分たちが古里を追われた苦しく辛い経験があるので、戦後70年が経ち、すでに自分の古里として住んでいるロシア人を追い出すことはしたくない」との意見が多くなっている。

以上の現実的な基本認識をみなさんと共有しながら、次回には、現実的と思われる解決策をお伝えしたいと思います。

吉良州司

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