吉良からのメッセージ

2019年12月15日

英国の総選挙結果に思う

英国時間の12月12日投票の総選挙は、BREXITを掲げるジョンソン首相率いる保守党が、過半数を大きく上回る議席を獲得し圧勝しました。

<保守党圧勝の要因>

このメルマガを書いている時点では識者の分析などは一切読んでない中で、結果論になるかもしれませんが、飽くまで自分の独断分析として、次のような要因があったのではないかと思います。

(1)BREXITを巡る社会の分断、議会機能の停滞、どうなるかわからない状態が続くことによる経済的マイナス、等等を受けて、BREXIT賛成派は勿論のこと、反対派の中にも「もうどちらでもいいから、早く決断して、中途半端な状態に終止符を打ってくれ」という思いで保守党に投票した有権者が多かった。
(2)保守党支持者の中にも、BREXITに反対の経営者、高所得層、若者、高学歴層などはいるが、総じて保守党支持者はBREXITの賛成者が多かった。
(3)一方、労働党支持者は、BREXIT賛成派と反対派が真二つに割れており、労働党支持票をまとめきれなかった。
(4)BRXITの根強い支持者は、グローバル化や英国がEUの一員であることは、自国の自由を奪われている割には、自分達の生活を決して豊かにしていない、却って貧しくしている、との強い不満を持っている。

上記はよく耳にする要因分析かもしれませんが、私自身が感じていることです。私事で恐縮ですが、次女は英国人と結婚し英国で暮らしており、ハーフの孫娘もいますので、英国のことは、他人事とは思えません。次女の家庭は保守党支持ですが、現時点での私の見解と同じく、BREXITには大反対しています。

<「決められない政治」への嫌悪>

さて、英国総選挙の結果を受けて、英国通貨ポンドが大きく値上がりしました。また、米中貿易摩擦が融和に向かう可能性が出てきたこととも相俟って、日経平均をはじめ各地の株式市場で株価が大きく上昇しました。この市場の反応を見て、今更ながら感じることは、一般生活者は勿論、市場が如何に「決められない政治」を嫌っているかということです。本来、世界の経済市場は英国のEU残留を望んでいるはずです。それなのに、EU離脱が決定的になる選挙結果であっても好感したということは、如何に「不安定、不確実」な政治経済状況が続くことを嫌っているか、如何に政治経済の安定を望んでいるか、という証左だと思います。

野党に身を置く立場としては、忸怩たる思いはありますが、アベノミクスの明らかな失敗にも拘らず「経済がよくなった」と錯覚させ、市場に好感される要因は、「一強」と言われるほどの安倍政権の政治的安定感にあると思われます。

<真の豊かさとは何か>

私が、本メルマガで一番伝えたいことは、上記要因分析(4)「BRXIT賛成の根強い支持者は、グローバル化や英国がEUの一員であることは、自国の自由を奪われている割には、自分達の生活を決して豊かにしていない、却って貧しくしている、という強い不満を持っている」ということが意味することについてです。

私は「真の豊かさとは何か」という命題を考え続けています。
マクロ経済にとって、経済成長は至上命題です。一方、各個人にとっての「生活の豊かさ」「真の豊かさ」とは何なのか。

パソコンに詳しくない私が例に出すのは気が引けますが、プロから聞いた話です。今、15万円で購入できるノートパソコンのCPU(中央演算処理装置)の処理速度が3.0GHz、メモリが8GBだとします。それを10年前に購入したとすれば、恐らく50万円以上しただろう、とのことです。有名ブランドの4K、55Vテレビの数年前の価格と現在の価格を考えると、もっとわかりやすいかもしれません。

つまり、技術進歩が物やサービスの質の向上をもたらし、利用者の満足度、幸せ感を増幅させます。しかし、値段は下がるので、各々の物やサービスに含まれる付加価値の集大成であるGDPは伸びません。企業の売上、利益も、いいものを提供しているのに、決して右肩上がりにはならない場合があるのです。デフレの是非は、複雑だし長くなるので、ここでは触れませんが、消費者、利用者としては、時の経過と技術進歩の結果、より少ないお金で、より高い満足度や幸せ感が大きくなる物やサービスを買うことができる世の中になっているのです。

しかし、産業革命以降の長い歴史の中で、特に第二次世界大戦後の右肩上がりの経済に慣れきっている人々にとっては、「数字としての賃金」が上がらなければ「幸せ感」を感じられない体質になってしまっているのです。日本や日本人はその典型だと思います。

<既存の資本主義と民主主義の限界>

現在、米国を除く先進国は、既存の資本主義と民主主義の限界に直面しています。そのことが、グローバリゼーションには正の側面、負の側面の両面があるにも拘らず、負の側面ばかりが見えてしまう状況をつくりだしています。
英国でBREXITを支持する人々は、EUのために自国の自由が制限されているのに、自分の賃金がEUの一員だからといって伸びないことに不満を持っています。そして、自覚はしていないかもしれませんが、どうせ賃金が伸びないなら、「心地よさ」や「幸せ感」の方を求めているのではないか。パソコンやテレビに例えたように、英国のマクロ経済的数字はBREXITによって、上がらないどころか、下がるかもしれないが、それでも自分や自分たちの満足度や幸せ感を求めているのではないか、と思えてきました。

私自身は英国人ではありませんが、BREXITには反対の立場です。しかし、BREXITに賛成の人たちを指して「大局観がない」「相互依存の経済関係や世界的サプライチェーンの仕組みがわかっていない」「グローバル化した経済の仕組みがわかっていない」などといった、私の現時点の考え方を改めなければいけないのかもしれないと思い始めています。彼ら彼女らこそ、人口増加や右肩上がり経済を前提とした既存の資本主義や民主主義に反旗を翻すことにより、人間が持つ本来の自由や満足感や幸せ感を求めながら、新しい時代をつくりはじめているのではないか、という問題意識を持つ謙虚さが必要かもしれないと思い始めています。そのことを意識させられる英国総選挙の結果でした。

私のとりとめのない問題意識に最後まで付き合って戴き、ありがとうございました。

吉良州司