吉良州司の思索集、思うこと、考えること

2016年1月1日

今こそ、将来世代最優先の政治を ~2016年の新年挨拶より~(広報誌14号)

今こそ、将来世代最優先の政治を

本きらきら広報をお届けするのは2012年の正月以来実に4年ぶりとなります。この間、2012年の選挙では落選、その後2年間浪人しながらの政策研究大学院大学での政策研究生活、そして、2014年暮れ、みなさんの力強いご支援により、国政復帰させて戴きました。誠にありがとうございました。
国政復帰後は、ちょうど戦後 年を迎えたこともあり、先の戦争と戦後の我が国の歩みについて勉強し自分の考え方をまとめてきました。また、後述します我が国の厳しい現実を見つめ、我が国が今後進むべき道について考えました。
そして、昨年衆議院議員に復帰したことで(2年間の浪人期間を除いて)議員通算 年を迎えることができました。この 年間、支援者のみなさんから戴いた温かいご支援に対し感謝の念で一杯です。心から御礼申し上げます。残念ながら、この間、きらきら会代表世話人の矢幡一徳先生はじめ、吉良州司を世に送り出し、育ててくれた恩義ある大事な大事な方々が他界されました。あらためてご冥福をお祈りするとともに生前戴いたご厚情、叱咤激励に対して心から感謝致します。
さて、私がこの数年間考えてきたことの一端をみなさんにお伝えします。

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>> 当記事は広報誌14号に掲載されています。

こんな社会が続くわけない

まず、一番大きな問題意識は、「こんな国が、社会が、この先続くわけがない」という思いです。

年収150万円、貯金ゼロ、年収200万円、貯金 万円の若者が、金融資産数千万円を所有する高齢者の年金を支え、医療費を負担し続けている、自分たちは非正規労働者として、雇用の安定もなければ、賃金が上がる保障もない。そんな不安定で将来不安を募らせている若者が、大きな資産を有する高齢者世代を支える、誰が考えてもこんな社会が長続きするはずがないという思いです。
私は高齢者を責めているわけではありません。この間の自分も含めた政治や政治家の怠慢が許せないのです。
これまでもお伝えし続けている通り、働いて働いて働き続けて、戦後復興、高度成長に貢献し、我が国を世界有数の経済大国にしてくれたのは今の高齢者たちの不屈の精神と頑張りのお陰です。大きな金融資産(お持ちでない方々も大勢いらっしゃいますが)も額に汗した勤労所得、それも税引き後のお金であり、贅沢を戒めて倹約に努め、子供の教育資金や老後に備えてと、こつこつ貯めてきたお金であり、また頑張り続けた結果としての退職金であり、誰からも文句を言われる筋合いはありません。
政治の怠慢というのは、こういった社会的矛盾が問題になってくることは、何十年も前から予測できたことですが、政治が国民に厳しい現実と将来予測、それへの適時、的確な対応策を示し、その対応策についての国民の合意を得る努力を怠ってきたからです。

人口減少など国家的課題に直面

我が国は今、少子化高齢化、1000兆円を超える公的債務、増大する社会保障費、失われた 年といわれる経済的社会的停滞、日本企業の国際競争力の低下と需要減少に悪戦苦闘する国内企業の低迷、若者の貧困と将来不安、世代間格差、といった諸課題を抱えながら、最大の国家課題である「人口減少」問題と長期に亘って向き合い、克服していかなければなりません。
これらの問題に向き合おうとした民主党政権の「子供優先」や「子育て支援」など、将来世代や子育て世代に光を当てようとした政策の方向性は間違っていなかったと思っていますが、政権運営の稚拙さなどから、国民の期待に応えることはできませんでした。いや、大きな失望感を抱かせてしまいました。私も大きな反省とともに、政権交代を支援してくださり、民主党政権に期待した国民のみなさんにお詫びしたいと思います。

アベノミクスの厳しい現実

民主党政権挫折の反動もあり大きな期待を担って誕生した自民党安倍政権ですが、アベノミクスも昨年第2四半期でマイナス成長に陥るなど厳しい現実に直面しています。
円安により大手輸出企業の業績は改善したものの、地方の経済、暮らしは一向によくならず、今後よくなると感じている地方住民もほとんどいません。ご存知でしょうか。国際的にその国の経済力の指標とされる米ドル・ベースでの日本のGDPは円安により大きく減少しています(名目GDPは2012年の5兆9573億ドルから2014年4兆6024億ドルと約 %下落、2015年の予想は4兆1162億ドルと約 %下落。IMF統計)。加えて、足元では原油価格の下落により最悪の状態は避けられていますが、我が国の生存に不可欠な資源・エネルギーは米ドルでしか調達できないため多大な国富を国外流失させています。これが続くと貿易赤字の拡大や経常収支の悪化を招き、その先には円や国債の暴落、ハイパーインフレ、金融機関の破綻といった将来的潜在的リスクが待ち受けています。また、過度な円安は、世界から見た日本人の労働の価値や生産物の価値を大幅に下落させています。だから中国の人達が爆買いしているのです。海外の人から見ると、日本人の人件費や日本の商品が安いのです。

一部の地域の一部の企業業績だけが(日本円ベースで)改善し、地方や大多数の国民が恩恵を受けられない中、輸入関連品を中心に物価が上昇し、生活コストは上がり続けるのに、収入は増えず、生活は苦しくなるばかり、というのが多くの国民の実感です。
私はブラジル留学時代、庶民の家に下宿して、収入が伸びない中でのインフレ生活がどんなに厳しく悲惨であるか目の当たりにしています。市場で需要が供給を上回る形でインフレが進行するのは問題ありません。しかし、世界のどこに、需給ギャップが残ったまま、収入が上昇する保障がない中で、政府や中央銀行が先頭に立ってインフレを推し進め、庶民の生活費を上昇させることに躍起になっている国があるでしょうか。
経済のグローバル化、そして少子化高齢化、人口減少が進行する我が国が取るべき政策が、旧態依然とした高度経済成長時代的政策だったり、国内の既得権益者を今なお優遇する政策のままだから本質的な問題解決ができないのです。そして、そのつけは確実に私たちの子孫に回されているのです。

将来世代を最優先する

今こそ、問題先送り体質に終止符を打ち、人口減少を克服しながら、活力に溢れ、一人ひとりが自立し、自分の夢を追い求めることができる、真に豊かな日本を、我が国の悠久の歴史を、かけがえのない子孫へと紡いでいかなければなりません。
そのために今為すべきことは、 世紀型政策では現在抱える国家課題を克服できないことを再認識し、厳しい現実を国民に示し、課題解決のための政策的優先順位を明確にすることです。消費税増税時の軽減税率が幅広く採用されることになりました。低所得者の負担を小さくしたいという気持ちはよくわかりますが、私は反対です。軽減税率は、政治的、実務的な大問題があるからです。軽減対象品目にしてほしいと関係業界が政治家や官僚に陳情、接待攻勢、献金攻勢するなど政治利権になってしまいます。客観的基準が曖昧なために生じる問題です。また、お店の負担増やレジでの煩雑さや間違いなど実務的な問題もあります。そもそも低所得者対策であるはずなのに、多くを消費する高所得者の方により大きなメリットがあります。子育て支援を含む社会保障充実のための税収確保が目的なのに軽減した分だけ税収減になる問題もあります。詳細な具体例は紙数の関係で割愛しますが、実際問題として軽減税率先進国の欧州でも様々な問題が生じているのです。この政治的、実務的問題が生じやすい軽減税率よりは、現金給付する給付付き税額控除の方が低所得者対策としては望ましいと考えています。
そして、何よりも日本社会の中で一番の弱者は若年層、子供たち、将来世代だと思うからです。1000兆円を超える公的債務は生まれたばかりの何の罪もない赤ん坊に800万円超の借金を課してしまうのです。今の大人は自身の生活力や政治的選択において責任を持っています。しかし、これから生まれる赤ん坊や選挙権を持たない子供たちには何の罪もないのです。
だからこそ、将来世代最優先を国家の新しい価値観に据え、その価値観に基づいて財政再建、社会保障改革、雇用起業政策、教育改革、グローバル化時代に対応した経済成長、国内の成熟経済下における内需企業の成長を実現しなければなりません。

成熟社会の仕事には専門性が必要

成熟した先進国では、国外や地域外に移すことができない地域密着型産業(小売業など対面直接取引型が代表的です)は人口減少による需要減退に適切な対応ができなければ衰退を余儀なくされますが、工夫により商品やサービスの質を高めることでその生業を維持拡大していけます。一方、国際競争にさらされる産業は自然と知識集約型にならざるをえず、そこで働く人には高い専門性や熟練性が求められます。専門性のない労働は必然的に発展途上国に移り、仮に国内で働く場があったとしても、その賃金は発展途上国の賃金水準(低賃金)に下げられてしまいます。
我が国も例外ではなく、現在このことが現実に進行しつつあります。かつては良質な労働力として中間層を形成しえた若者が、専門性を持たないために低賃金の職、それも非正規の職を余儀なくされる事態が進行しているのです。その結果、自分の将来に、特に、家庭を持つことに自信が持てず、結婚をあきらめてしまう若者が増えているのです。

今こそ将来世代への投資を

そんな若者の将来不安を現在の社会保障制度や現在の政治的予算配分の不公正さが増幅させています。将来世代にこそ投じるべき貴重な税金を、政治的圧力をかけることができる腕力の強いTax Eater(税金食い)業界に優先し続ける予算配分。このような仕組みを根本からあらため、これからの日本を背負っていく若者、将来世代が自信を持って自分の人生を切り開いていける社会、生き甲斐となる仕事に就き、幸せな家庭を築ける社会を創っていかなければなりません。そのためには社会をあげて若者、子供たち、将来世代に投資することが必要です。義務教育、高等学校教育、大学教育は勿論のこと、社会に出た後でも、何度でもやり直せる、社会人再出発教育への投資も必要だと思います。少子化高齢化時代の日本を支えていくには、一人ひとりが2倍、3倍の力を発揮してもらわなければなりませんから。

即戦力に繋がる実務教育が必要

高度成長期以来一般化した「会社に入ってから一から鍛え一人前に仕事ができる人間に育てる」という我が国の古きよき伝統は、今、一部の大手企業を除き、失われつつあります。新入社員、若手社員を一から教育する余裕が企業になくなっているのです。会社側は「即戦力」を求めるようになっています。この要求に応え、社会から必要とされる基礎的な実務能力を全ての子供たちに備えてもらうためには、学校教育段階で、即戦力に繋がるような実務教育を行う必要があります。全ての子供たちに将来家庭が持てる経済力と自信を身につけてもらうためです。
今の若者が置かれた厳しい就職環境を考えると、「貴社益々ご清祥の段、お慶び申し上げます。この度は弊社への貴重なご意見ありがとうございました。戴いたご意見につきましては・・・。」などといった日本語、英語でのビジネス文章やメールの書き方、ITの基礎知識・操作、コンピューターを使ったプレゼンテーションのやり方、資料の作り方などを教えるべきです。ビジネス文章・メールの送り手、受け手など役割分担しながら、つまりゲーム性を持たせながらビジネスを疑似体験することは、子供たちも面白がり、興味を惹くと思います。
また、会計、経理に必要な簿記はどんな会社に入ろうとも必須の実務知識です。男女を問わず、簿記、IT実務、標準的な英語力を習得しておけば、就職する際に大いに役立つと思います(理科系、技術系の基礎的素養は分野や時代によって異なりますので、ここでは例示を割愛させて戴きます)。

必要とされるのは志と人間力

しかし、社会から要求される実務能力を身に着け「雇ってもらう」という受身姿勢だけでは大きな夢や活力は生まれません。上述したことは、どんな若者も社会の実務的な要求に応えられるようにして、最低限、誰でもが職を得て、家庭を持てるように、という思いからの提言です。大きな夢を持ち大きく飛翔するために必要なのは「起業家の志」です。自分が先頭に立って「一緒に夢を追い求める仲間や社員を何百人、何千人、何万人と雇って、一緒に夢を実現するぞ!」「社員とその家族を食わせ幸せにするぞ!」という志が何よりも大事なのです。そして、その夢の実現に必要なのは「人間力」です。
社会に出る前、特に中学、高校時代は、なんとなく「学力の高い生徒が将来リーダーになっていくんだ」という錯覚に陥りがちです。そのため潜在的に高い人間力を持っている生徒も勉強が苦手だと将来に対する自信が持てなくなってきます。しかし、みなさんも経験している通り、社会に出て人から頼りにされ、リーダーになっていくのは、「人から信頼され」「判断力・決断力・問題解決能力があり」「情熱を傾けてことに当たる」人間力のある人です。学力はもちろん大事ですが、学力が全てでないこと、信頼され人間力溢れる人になることがもっとも大事だということを学校時代から教えることが重要だと思います。
また、我が国では暦史的に「手に職を持ったその道のプロ」「職人」を敬う文化があります。この職人への道、農林漁業経営者への道、また、今多くの日本人がスポーツ、音楽、芸術の分野で世界を相手に大活躍していますが、一道に秀でたる若者を育てていくことも極めて大事だと思います。
これらのきめ細かい教育を行っていくためには、少人数学級をもっと大胆に進めること、現在の「教科」を教えるプロの教員に加えて、実務的な内容や人間力を高めることの重要性を教えることができる社会人経験者を有効活用することも必要です。お金はかかりますが、これこそが将来世代への投資です。
大学教育も一部の大学や学部を除けば、「高等職業訓練校」として高度な専門性を身に着けてもらう場に変えていくべきです。ハーバード大学の経営学修士(MBA)を取得した友人が、「所詮、高等職業訓練校だよ」と言っていました。大学は、研究者、学者の道を歩む学生は別として、高い職業的専門性を持った即戦力養成校に衣替えしなければならないと思います。
このような将来世代が「食っていける」ようにするための投資を増強することによって、低賃金に甘んじることなく、力強く社会を支え、家庭を築き、自信を持って自分の人生を切り開いていく若者が、また、世界を相手に戦える若者が増えてくると信じています。

将来世代最優先の国創り
子供たちの笑顔が溢れる社会へ

父がよく言っていました。「お前たちが小さい頃、いつもチョロチョロして育てるのは大変だったけど(母がほとんど育てていましたが)、今、思い返してみると、あの頃が一番楽しかった」と。私自身も子供3人を育てている最中が(やはり育ててくれたのはほとんど嫁さんですが)一番楽しかったように思えます。国も、社会もしかり。子供たちの笑顔に充ちた社会、子供たちや若者が夢に向かって頑張っている社会、大人が子供たちに目を細め、元気な若者を頼もしく思い、逆に元気をもらう、そんな社会こそ、私たちが目指す活気に溢れた社会です。
将来世代最優先を国家の新しい価値観とするには、既得権益者との壮絶な戦いが待ち構えています。たとえ、それが苦難にみちた道であろうとも、良識ある国民とともに、その信じる道を一緒に歩いていきたいと思います。かけがえのない若者、子供たち、将来世代のために、夢と活力溢れる社会を一緒に築いていこうではありませんか。

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