吉良州司の思索集、思うこと、考えること

2017年1月2日

それでもTPPを諦めるな!~トランプ政権TPP離脱宣言!~(広報誌15号)

トランプ政権のTPP離脱表明により、米国を含めたTPPの発効は極めて厳しくなりました。しかし、それでも我が国としては粘り強くTPPの成立に全力を尽くすべきです。将来の米国参加に門戸を開いたまま、米国を除く11カ国でTPPを船出させることも大きな選択肢だと思います。
私は民主党政権時代、TPP参加の是非を議論する「経済連携プロジェクト・チーム」の事務局長として、議論を取り仕切る立場でした。個人としては終始一貫「参加すべし」という信念のもと、TPPとはどのような協定で、メリットやデメリットは何か、について、広報誌「きらきら広報13号」にてかなり詳細に説明しました。
以下では、これまであまり議論されていない論点を中心に、トランプ政権の離脱表明後も尚、我が国としてTPPを推進する意義についてお伝えします。

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>>当記事は広報誌15号に掲載されています。

TPPの地政学的意義

TPPは中国が戦略的に推進している「上海協力機構」に対抗しうる地政学的枠組です。同機構がかつてのモンゴル帝国の版図に匹敵する「陸の帝国」であるのに対して、TPPは太平洋を囲んだ「海の帝国」と位置づけられます。「陸の帝国」が領土を前提にしているのに対して「海の帝国」は自由な貿易・投資を志向する、まさに日本が進むべき道そのものです。〈30ページの外務委員会議事録をご参照ください〉

世界経済と日本経済

日本経済は世界経済の動向に完全に一致しており、世界経済がよければ日本経済もいいし、世界経済が悪ければ、日本経済もよくないのです。世界のGDPの4割を占めるTPPの成長は世界の成長につながり、世界がよくなれば日本もよくなるのです〈私たちの暮らしとアベノミクス」の図6をご参照ください〉

資源小国日本の宿命

日本円は基軸通貨ではないため、我が国は生きていくために必要な資源、エネルギー、食料を「米ドル」で買い続けなければならない宿命があります。その外貨を稼いでくれる輸出企業や海外への投融資企業が、より広く大きな自由市場で、貿易や投融資を行なうためのインフラ・システムがTPPです。

打って出るTPPの重要性

TPPには「迎え撃つTPP」と「打って出るTPP」があります。昨年秋のTPP特別委員会では、農業問題、日本独自の環境規制、食品安全基準、公的医療保険制度などが維持できなくなる懸念などほとんどが「迎え撃つTPP」の議論でした。一方、どうやって日本全体の国益を増進するかの「打って出るTPP」についての議論はほとんどありませんでした。
我が国は日本企業の海外展開とそれにともなう自由な投融資によって、現在「第一次所得収支」(海外からの配当・利子などの金融収益)が20兆円超あります(図4ご参照)。我が国が目標とする名目成長率3%は、GDPが約15兆円増加すれば達成できますから、第一次所得収支の大きさがご理解いただけると思います。我が国は今や投資貿易立国です。TPP推進で拡大させた国益を活用して大事な農林水産業を守りながら、消費者利益を最大化することが我が国にとっての全体最適です。

日本の一人勝ち

図3をご覧ください。TPP合意により、日本以外の参加11カ国の工業製品の99.9%の関税が撤廃されます。これこそ我が国が追求してきた国益です。工業製品に加え、サービス、金融、投資ルール、知的財産権の保護など幅広い分野において、我が国企業が海外展開しやすくなる合意内容です。
また、「原産地累積制度」により、TPP参加国は「メイドインTPP」の恩恵を受けられ、発注企業の海外進出に伴い、国内の下請け企業が海外に出ていく必要がなくなり、国内雇用が守られます。
一方、「迎え撃つTPP」の代表格である農業について、日本以外の参加11カ国の農産物の関税撤廃率はカナダ95%、メキシコとペルーが97%であることを除けば99%か100%ですが、日本は82%です。これは重要5品目(米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味作物)を聖域として守るべしとの国会決議を交渉団が忠実に貫き通した結果の大勝利です。

多国間経済連携が日本の国益

米国の離脱により既存合意のTPP発効は難しくなりました。しかし、世界の自由な貿易・投融資の国際環境がなければ生きていけない我が国としては、TPPや同次元の多国間経済連携を粘り強く推進すべきです。
トランプ政権は2国間の日米貿易協定を追求すると思われますが、TPPに比べて我が国が不利な立場になる可能性が高くなります。
理由は、「経済連携協定」でありながら、「経済」と「日米同盟」を完全に切り離すことが難しくなるからです。もうひとつは、多国間の枠組みは「じゃんけん」みたいなもので、国益を守りやすいからです。
日本よりも圧倒的に強い米国農業も、豪州農業に敵わず、米国のカリフォルニア・ワインはチリ・ワインに敵いません。多国間だと米国も弱みを持つ国や分野もあるので、どこかで妥協して折り合う必要があり、その結果が先のTPP合意内容なのです。
昨年TPPを批准したことは正道です。今後のTPPの発効に繋がるもよし、将来TPPに代わる枠組みをつくる場合でも、我が国が主導権を握れます。我が国の宿命、国益を考えれば、TPPを含む多国間経済連携協定の推進が必要不可欠です。

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