吉良からのメッセージ

2015年7月21日

安全保障法制に対する吉良州司の考え方 その3

前回のブログでは、基本理念である「『近くは現実的に』『遠くは抑制的に』『人道支援は積極的に』」の中の「近くは現実的に」、つまり日本周辺の危機対応については、充分な備えをしておかなければならないこと、その点、政府はもっと具体的対応の必要性を国民に示さなければならないところ、外交的配慮から「中国の脅威」については、政府側から言及できない、それが故に国民の理解が得られにくいことについて説明しました。

1 今後のメッセージの要旨

今後のメッセージでは、次のようなことを、お伝えしてゆきたいと思っています。

(1)「近くについては、現実対応が必要」、つまり紛争や戦争には相手があることであり、その相手は日本の憲法改正や法改正など待ってくれるわけではなく、いつその挙に出るかわかりません。それゆえ、北朝鮮や中国の脅威に対して日米同盟の強化をはじめ幅広く備えを充実させようとする政府の考え方にも賛同できること

(2)遠くについては、地理的に遠ければ、即座に日本の存立が脅かされる事態にまでは至らないことがほとんどと判断、存立が脅かされるような事態に至る場合には、インド洋の給油法案のような「特別措置法」で対応できるとこと、

(3)特別措置法は、国家としての判断が遅くなって時期を逸する可能性があることに鑑み、自衛隊が事前準備をできるようにすること、国会の判断をたとえば1ヶ月以内や2週間以内に出すことを主要与野党で事前に取り決めておく、などの対応が考えられること、

(4)日本周辺以外の政府案の内容については、そもそも憲法改正が必要であること、

2 今回のブログは「遠くは抑制的に」考える前提の話

今回のブログでは、「遠くは抑制的に」と現時点では考える、その根拠についてお伝えしたいと思います。内容的に、「近く」と「遠く」の違いを説明するために、「近くは現実的に」の部分が多少重複することをお許し戴きたいと思います。また、現行法案と今回の政府法案の違いなどにも触れながら、よく理解戴けるように、過度に専門的であったり、複雑化しないよう、単純化して説明したいと思いますので、その点も予めご承知ください。

3 世界中どこでも後方支援や武力行使が許される政府案

政府法案は地域的な制約を設けず、(武力攻撃事態等への対処は当然許されるとしても)新3要件を構成要件とする重要影響事態や存立危機事態に対処するための(俗にいわれている「世界中どこでも」)後方支援や武力行使が世界中どこでも許されることになっています。

(1)「世界中どこでも」 「周辺事態安全確保法」から「重要影響事態安全確保法」へ

現行法の「周辺事態安全確保法」は、(政府は地理的概念を前提とした法律ではないと強弁していますが)朝鮮半島有事などを念頭に、我が国の平和と安全を確保するために、我が国周辺地域において(日米同盟を有効ならしめるため)、米軍への後方支援ができることになっています。

今回の10本一まとめの法律の中には、この周辺事態安全確保法を「重要影響事態安全確保法」へと名称変更を伴う改正案が含まれています。

地理的概念を取り払い、「世界中どこでも」と指摘される所以は、周辺事態安全確保法にある「周辺事態」の定義「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等(我が国周辺の地域における)我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」からカッコの中、つまり「我が国周辺の地域における」を削除しているからです。

政府が強弁するように「地理的概念を想定していない」のなら、この削除も必要ないはずですが、わざわざ削除したのは、やはり元々の周辺事態安全確保法は「我が国周辺」という地理的概念を想定していたということだと思いますが、この「地理的制約」を今回明確に取り除いたわけです。

(2)「新3要件」を充たせば「存立危機事態」には武力行使が可能に

政府の「束ね10法案の中には「事態対処法」と「自衛隊法」の改正が含まれています。

もともと「武力攻撃事態」と「武力攻撃予測事態」に備えて整備されていた「事態対処法」の改正案では、上記ふたつの事態に加え「存立危機事態」の場合にも新たな3要件を充たせば、武力行使が可能になります。

<注:新3要件>

1)わが国に対する武力攻撃が発生したこと、又は、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること

2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他の適当な手段がないこと

3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

また、自衛隊法の改正案の中に「存立危機事態」への対応が含まれており、その主な内容は下記の2点です。

・自衛隊法第3条(自衛隊の任務)
自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、(直接侵略及び間接侵略に対し)我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。

*今回、カッコ内が削除された。

・自衛隊法第76条(防衛出動)

次に掲げる事態に際して防衛出動が認められる。

一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明確な危険が切迫していると認められるに至った事態

二 わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

*今回、二の全文(存立危機事態)が追加された。

上記でおわかり戴ける通り、「直接侵略及び間接侵略に対し」が削除され、新3要件の存立危機事態が追加されて防衛出動できることになりました。

4 「世界のどこでも法案」には無理がある

世界のどこで生起しようが、重要影響事態や存立危機事態の解釈によって、これまで認められていたいわゆる「正当防衛の範囲」を超えて、世界中どこでも後方支援や武力行使、集団的自衛権の行使ができるようになるわけです。
私はこの解釈、考え方には無理があると思っています。

5 政府法案をどうしても通したい政府の思惑も理解できるが、やはり無理がある

それでも政府が野党や世論の反対を押し切り、強行してまで安全保障法を成立させようとしている背景には、まず、東アジアにおいて、わが国の存立が脅かさせるような危機はいつ起こるかわからない、という危機感があります。
もうひとつは世界の警察官たる米国の国力が相対的に低下しつつあり、軍事費の削減要請と相俟って、もはや米国単独でその責任を担うのが難しくなっている現状があります。
米国からは、同国が果たしてきた役割の一部を同盟国に担ってもらいたいという強い要請があり、わが国として、いつでも米国の要請に応えられる体制を整えておきたいという現実問題があるわけです。

この背景についても、外務大臣政務官や副大臣の経験上、よく理解できるし、共有しています。しかし、それでも少し無理があると思うのです。

少し、長くなってしまいましたので、一旦、このあたりで終わらせて戴き、続きの内容はすぐにお伝えさせて戴きます。

吉良州司