吉良からのメッセージ

2015年7月29日

安全保障法制に対する吉良州司の考え方 その5

前回のブログに対しては、多くのご意見、ご質問を戴きました。
ありがとうございます。
その中で、「地理的制約があるのであれば、つまり我が国周辺対応に限定するのであれば、政府案を丸々受け入れるのか。あいまいさが残る新3要件の『存立危機事態』をそのまま認めるのか」という内容のものがありました。

今日は、その問いに対する私の考え方をお伝え致します。

1.基本的には、国家の正当防衛の範囲内、個別的自衛権の範囲内で対応すべき

東アジアにおける北朝鮮や中国の現実的脅威に対応すべく、日米同盟の強化を通して抑止力を高めることは国家としての最優先課題であることは繰り返しお伝えしてきました。
日米安全保障条約上の「日本を防衛する義務を果たしてくれている米軍」への後方支援は現行法「周辺事態安全確保法」でも認められていますが、私は一歩踏み込んで、厳格な要件を充たせば、武力行使もできるようにすべきだと思っています。

現に我が国に対する武力攻撃が発生している事態や、明らかに我が国への武力攻撃に至ると判断される場合には、正当防衛として武力による反撃も許されるのですが、その相手からの攻撃が日本を守るために活動している米軍に対するものであった場合でも、我が国への攻撃とみなして、日米が共同して武力行使を含めて反撃できる仕組みをつくるべきだと思っています。

この仕組みは正当防衛の範囲内、個別的自衛権の範囲内だと思っていますが、政府答弁で繰り返される通り、国際法上「集団的自衛権」とみなされる場合であっても、実体的には「正当防衛」「個別的自衛権の行使」だと思います。

2.維新の党の考え方は、自分の考え方に近い

上記1の考え方にかなり近い具体的な法案が維新の党から提出されました。維新の党も、東アジアにおける北朝鮮や中国の脅威に対して日米が協力して抑止力を高める必要性を十分認識しており、我が国周辺の危機に備えるべきことを強調しています。

また、私の問題意識と同じく、「我が国周辺の制約」をはずして「世界のどこでも」自衛隊が出ていき、武力行使や後方支援をすることはあってはならないとの立場です。
これらの考え方を元に維新の党は、政府が提出した法案にある「存立危機事態」に対して、「武力攻撃危機事態」という新たな定義を作り、我が国の平和と安全を脅かす事態に対処するための対案を出しました。
私は維新の党が提出した具体的対案には、下記の理由により賛同するものです。

3.維新の党が提案した「存立危機事態」の対案としての「武力攻撃危機事態」

維新案は「自国防衛」のための米国とのチームワークによる防衛に徹し、「他国」の範囲を
(1)条約に基づき
(2)我が国周辺で
(3)日本防衛のために活動する外国の軍隊、つまり米軍への武力攻撃に限定した上で、
(4)我が国への武力攻撃が発生する明白な危険がある場合を「武力攻撃危機事態」と認定して、憲法の範囲内で自衛権を行使(武力行使)できることとしています。

政府案の新3要件の「存立危機事態」は、『我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態』という漠とした、時の政府が如何様にも解釈できる定義でしたが、維新案の「武力攻撃危機事態」の要件は、『条約に基づき、我が国周辺の地域において我が国の防衛のために活動している外国の軍隊に対する武力攻撃(我が国に対する外部からの武力攻撃を除く)が発生し、これにより我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険があると認められるに至った事態』と極めてわかり易い定義になっています。

そして、この定義と想定される具体的対応は、国際法上は「集団的自衛権」とみなされる可能性もありますが、日米が日米安全保障条約に基づき、一体となって、日本を正当防衛する範囲において、個別的自衛権の行使である、とする立場であると理解しています。

以上の説明が、「地理的制約があるのであれば、つまり我が国周辺対応に限定するのであれば、政府案を丸々受け入れるのか。あいまいさが残る新3要件の『存立危機事態』をそのまま認めるのか」という問いに対する私の回答です。

4.「個別的自衛権」と「集団的自衛権」の定義について

このように説明しますと、吉良州司が賛同する維新案は、個別的自衛権なのか、集団的自衛権の行使なのか、一体どちらなのだという疑問がわいてこようかと思います。

そこで「個別的自衛権」と「集団的自衛権」の定義について、整理しておく必要があると思います。
「個別的自衛権」とは、他国からの武力攻撃に対し、実力をもってこれを阻止・排除する権利であり、人間にたとえた場合の正当防衛権だと解されます。

「集団的自衛権」とは、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利」と解されます。

この意味において、上記の「武力攻撃危機事態」は、『米軍に対する攻撃ではあるが、これにより我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明確な危険があると認められる場合には、(その時点で我が国に対する直接的な武力攻撃がない場合でも)我が国として武力の行使ができる』としている点で「集団的自衛権の行使」とみなされる可能性があります。

一方、維新の党の江田憲司元代表は、国際法上の定義として参考にすべきは、国際司法裁判所による「ニカラグア事件判決」(1986年)であるとした上で、この判決において、『「個別的自衛権」とは、「自国を守る」ための権利であり、「集団的自衛権」とは、「他国を守る」ための権利である』と説明しています。
この意味においては、米軍は日米同盟に基づき、「日本を守るため」(日本からみると「自国を守るため」)に活動しているわけなので「個別的自衛権」とみなしうるという立場であると理解しています。

それゆえ、私は「集団的自衛権」とみなされる可能性もあるが、我が国を守るための武力行使である以上、正当防衛、個別的自衛権の範囲内とみなしうると思っているわけです。

吉良州司