パリの同時多発テロに思う その2
パリ同時多発テロを受けて、フランス、ロシア、米国を中心として、対IS空爆が強化されました。また、EUは集団的自衛権の発動を決めました。シリア、イラクを「領土」とするISを殲滅しようとする対応です。
このことに関して、中東研究の第一人者である東京大学准教授の池内恵氏が示唆に富む話をしていましたので紹介します。
同氏によると、ISの特徴は『「拡大」と「拡散」』だというのです。
「拡大」は本国?であるシリア、イラクのIS領土?を拡大すること。そして「拡散」はISが掲げる思想を世界各地の人々、世界で共鳴してくれる人々、結果としてISの行動に協力してくれる人々を増やしていくこと、だというのです。
今回のパリ同時多発テロも、本国?からの指令に基づいたきめ細かな組織的行動というよりは、ISの共鳴者が本国?の呼びかけ「ISに対して積極的に空爆しているフランスを攻撃せよ」に呼応して、自主的に行われた行動である可能性が強い、つまり「拡散」による自主的な行動の可能性が強い、と分析しています。
そして、ISは空爆などによる「領土」の縮小があっても、なくなるわけではなく、そこからは一旦退散しても、無政府状態の地域などに「拡散」していくと同時に世界の共鳴者に行動を呼びかけ続けることで、その活動はやむことがない、非常に厄介な存在だというのです。「拡大」は抑止できても、「拡散」を止めることは難しい、と見ているのです。
この分析は、私が感じていたことを端的に表現してくれたものでした。このことからも、米ロ仏が中心となってISの「領土?」に空爆を行ったり、場合によっては地上軍を送って、IS領土の拡大を食い止める、否、IS領土を消滅させるための戦いが行われますが、我が国は貧困を最小化するための経済的、社会的支援や、難民支援を行うことにより少しでも「拡散」を防ぐ道を探るべきなのです。
中東はキリスト教、ユダヤ教、イスラム教間の宗教的対立、西洋世界とイスラム世界の文明的対立、同じイスラム諸国内の宗派的対立(スンナ派VSシーア派など)、定住民族とベドウィン族、クルド族等遊牧民族の混在、などなど歴史的に極めて複雑な問題を抱えており、安易な関与(特に軍事的介入)は我が国の国益を損なう可能性があります。我が国にとっては、どのような形であれ「中東の安定・平和」こそが重要です。シーア派とスンナ派との争い、イスラエルとアラブ諸国との軋轢、シリアのように内戦真っ只中のそれぞれの陣営など、一方に偏った関わり方をすべきではないのです。
私が商社に勤めていた頃、アラブ諸国の公的機関の入札には「イスラエル・ボイコット」条項があり、イスラエル企業の物やサービスを使用しないことを応札書類の中で宣誓しなければなりませんでした。当時からイスラエル企業はある分野の技術に優れており、そのような企業との協力(技術の導入)も必要だったのですが、苦渋の選択の中でイスラエル・ボイコット条項を受け入れながら、アラブ諸国に食い込んでいきました。そして、納期の正確さやアフターケアの充実、それらを含む日本人、日本企業の誠実さが高く評価され、シーア派、スンナ派の国を問わず、中東・アラブ諸国から好意的に受け入れられてきたのです。また、歴史的にも中東諸国と争った過去がなく、当然領土的支配をしたこともありません(西洋諸国の場合はかつて植民地支配をしており宗主国だった)。米国とシーア派の大国イランとの1979年以降の国交断絶の中でも「シルクロード」以来の古き友として我が国はイランとの友好関係を維持してきました(それだけに、イランの核開発疑惑の中での経済制裁は我が国にとっての試練でした)。
中東に対しては、(中東の)どの国とも友好関係にあるという世界でも珍しい「我が国独自の立ち位置」を保ちながら、偏った対処をしないことが国益であり、日本人を危険に晒さない最善の道であることを認識した上で対処すべきです。
そういう意味で、対ISとの戦いにおいても、決して軍事的協力はせず、テロの温床を最小化、根絶するための人道支援を軸にした協力が大切だと思います。
吉良州司