吉良からのメッセージ

2016年12月2日

トランプ氏の米国大統領選挙勝利に思う その2

前回は、米国移民史から紐解く米国大統領選挙の背景についてお伝えしました。このテーマについては引き続きシリーズでお伝えしたいと思っていますが、本ブログでは、遅きに失した感は否めませんが、去る11月17日夕(日本時間18日朝)のニューヨークでの、安倍晋三総理とトランプ次期大統領との会談についてお伝えします。会談内容につき報道内容以上のことは全く知らない中で自分が感じたこと、考えたことです。

第一に、会談後に安倍総理は記者団に対し「胸襟を開いて率直に話ができた。(トランプ氏については)信頼できる指導者だと確信した」と述べましたが、果たしてこの段階でそこまで踏み込んだ発言をしていいのかという疑問を持っています。
大統領選挙後は、選挙戦を通して大きくなった国内分断を修復したい旨の発言や、クリントン候補に対する評価・融和の発言がなされ、「選挙戦での過激発言は選挙向けのものであって、大統領に就任すれば、世界のリーダーとして、現実的対応をするのではないか」との好意的反
応があったことは確かです。
しかし、それはまだ、期待や憶測の範囲を出ておらず、確証されたものではありません。また、イスラム教徒やヒスパニック系や女性に対する差別的発言を繰り返し、クリントン氏を刑務所に送り込んでやるとまで公開討論会で発言した事実が消えるものではありません。中西部の小学校で「(米墨国境に)壁をつくろう」と白人の子供たちが気勢をあげ、ヒスパニック系の子供たちが泣き出してしまう、という光景も現れているのです。
その元凶はトランプ氏であり、全米でまだ批判の声が渦巻いている時期です。米国政府のトップに立つのはトランプ氏ですが、米国は民主主義国家であり、半分以上の米国民を下手すると敵に回すような公の発言をこの段階ですべきではなかったと思います。

第二に、結果責任となりますが、安倍総理との会談直後にトランプ氏をして、国民向けビデオ声明で来年1月20日の就任初日に環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱する意思を通知する方針を示させたことです。
会談や交渉は相手があることですから、自分の思い通りにはならないものです。そのことはよくわかっています。でも政治家は結果責任を負わなければなりません。安倍総理は日米同盟の重要性に加え、TPPが米国は勿論、TPP参加国や環太平洋地域、更には世界に大きな利益をもたらす、極めて重要な面的経済連携協定であることを強調したと思います。

しかし、この段階で一番重要だったことは、日本にとって不利になること(在日米軍駐留経費の更なる負担やTPPからの離脱)に関して、「決定的なこと」「確定的なこと」「決断的なこと」を言わせない、言わないように仕向けることだったのではないでしょうか。

会談時点から1月20日の正式就任までの期間、更には米国の新大統領就任から100日間のハネムーン期間(新政権発足から最初の100日間は、新政権と国民・マスメディアの新婚期になぞらえ、米国では報道機関のみならず野党も政権に対する批判や性急な評価を避ける)は、新大統領にとって勉強期間でもあり、正式に大統領になって初めて接する情報も多々あります。
それゆえ、今、日本がなすべきことは、トランプ氏には日本にとって不利になる決定的なことを言わせず、大統領に重要情報を上げる立場の人に、その重要性を説いて回ることだったと思います。
 
第三に、上記で述べたことに関連しますが、私が安倍晋三総理なら、トランプ氏の「再び米国を偉大な国にする」というスローガン且つ最大の政策を絶賛して持ち上げます。その上で、このスローガンを前面に出せば、全ての政策を柔軟に修正変更することができることの素晴らしさを強調します。「今まではTPP離脱が米国のため、米国の製造業のためだと思っていたが、全産業の雇用や国全体の成長を考えると、TPP参加の方が米国を再び偉大にできる」との結論になった、となれば公約違反ではなくなります。最大の政策は「米国を再び偉大な国にする」ことなのですから。

相手があることゆえ思い通りにはいかないことは百も承知していますが、敢えて正論を披露させてもらいました。
また、遅きに失した感を否めないタイミングでのブログ内容となってしまったことをお許し戴きたいと思います。