トランプ氏の米国大統領選挙勝利に思う その3
前々回のブログでは、米国移民史から紐解いて共和党、民主党支持者の夫々の源流についてお伝えしました。同ブログについてはかなりの反響があり、大統領選挙を理解する上で、米国の歴史的な背景につき続きが読みたい、とのご意見を戴きました。
そこで、今日は主に共和党の源流になるわけですが、宗教的、社会的側面から米国建国の歴史的背景についてお伝えします。
『宗教改革運動が社会改革運動に変る必然性を理解しなかった点にルターの宗教改革者としての限界がみえる。一方、カルヴァンの教えは、世俗的職業の積極的肯定などの理由から商工市民層の支持をうけ、資本家、資本主義の成長を促進する。さらに、彼らの信仰の自由の運動が階級闘争とも関連し、オランダの独立戦争やイギリスのピューリタン革命など市民社会の成立に寄与する』
これは、私が高校時代の世界史の教科書の余白に書き込んでいたメモです。
高校時代、世界史を勉強していて目からうろこが落ちたことが数多くありましたが、その中でも特に印象深かったのは、16世紀欧州の宗教改革でした。宗教は、絶対的な教義が存在し、それは不変であるかのような印象を受けます。しかし、新しい宗派が誕生するときは、その時代を生きる民衆の不安や不満に寄り添い、その要望や期待に応える教義が説かれてはじめて民衆からの支持が得られる(信仰される)ことを学びました。欧州におけるルターの宗教改革、それに続くカルヴァンの宗教改革、わが国では鎌倉仏教の普及がそれに当たると思います。
欧州の中世封建制は、最高位のローマ教皇や各地の司教などが宗教的権威を振りかざし、一方では世俗的権力を持つ国王、封建貴族が貧しい農民たちを支配していました。しかし、農業生産の増大による余剰農産物の交換や手工業の発達、十字軍遠征で飛躍的に拡充される物流インフラの発達により、都市や商業や貨幣経済、遠隔地貿易が発達します。
この結果、都市住民は封建的束縛からの自由を求め、商工業者は自由な経済活動を求める動きを活発化します。しかし、商工業活動の結果として、どんなに富を蓄え、社会的、経済的に力を増しても、江戸時代の士農工商ではないですが、中世封建制度の中の身分的位置づけは低いものでした。
このような社会的背景の中で、商工業者や自由になった自営農民から大きな支持を得たのがスイス・ジュネーヴで活躍するフランス人カルヴァンの教えです。
すべての職業は神が一人一人の個性を見抜いて与えた神聖なもので、その職業に勤勉であることは、神の意思に忠実で神を祝福することになる。創造主である神がつくった人間の優秀さは、勤勉に働いた結果としてどれだけ富を蓄えることができるかで証明される、と説きます。
富を大きく蓄えることで人間の優秀さを証明し、結果として人間をつくった神の偉大さを証明できると考えるのです(逆に言えば、富を築けない者は、神を祝福していない、神の偉大さを証明していない、と考える)。
新興市民階級としての商工業者は自分たちの職業、勤労、富、身分が全面肯定されるカルヴァンの教えを大歓迎します。このカルヴァン主義が、資本蓄積と再投資を前提とする資本主義社会の発展に大きく貢献するのです。
カルヴァン派は、イングランドではピューリタン、スコットランドではプレスビテリアン(長老派)、フランスではユグノー、オランダではゴイセンと呼ばれます。米国に最初に渡った清教徒ピューリタンとはイングランドの「カルヴァン派プロテスタント」のことです。彼ら彼女らが米国に渡り、米国の事実上の支配階級であるWASPを形成しますので、カルヴァン主義が米国建国の宗教的・精神的な大元になるのです(WASPは、「ワスプ」と読みます。White白人、Anglo-Saxonアングロ・サクソン、Protestantプロテスタントの略です)。
WASPは共和党の支持母体ですが、歴代米国大統領の中で、共和党、民主党を問わず、WASPでない大統領は、ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ(JFK)とバラック・オバマだけです。JFKはアイルランド系のカトリック信者でした。
大企業優遇、富裕層優遇を堂々と主張する共和党、貧困層に必ずしも同情しない、ある意味では「強者の論理」を貫く米国共和党、宗教的正義を全面に打ち出す共和党の考え方は、日本ではなかなか理解されないと思います。
しかし、前々回のブログで書いた「自力で西部を開拓する自営農民や熟練工、経営者が主流で、日曜日には家族で礼拝に行く人々」であることと、今日お伝えしているカルヴァン主義が源流にあることがわかると、人工妊娠中絶禁止、死刑制度存続、家族制度重視、不法移民反対、銃規制反対などが特徴の共和党の考え方も(共感・共有するかどうかは別として)理解戴けるのではないかと思います。
このシリーズも次回その4を完結編とするつもりです。
吉良州司