吉良からのメッセージ

2020年2月29日

アベノミクスは私たちの暮らしをよくしているのか その4 幸せ感を最重視する社会へ、いまやるべきは人的投資

2017年の広報誌の「私たちの暮らしとアベノミクス ~経済至上主義から幸せ感を最重視する社会へ~」と題する特集の第3弾です。

『幸せ感を最重視する社会へ

「ポスト成長」、「ポスト経済成長至上主義」の時代が求めるものは何か、それは「一人ひとりの幸せ感」を最重視する社会ではないでしょうか。「経済成長が全てを解決する」という発想からの意識改革と、物々交換によって幸せ感や満足感をキャッチボールする場としてのコミュニテイーの再構築などが求められる世の中がくると思っています。

日本経済と世界経済は完全にリンクしており、世界経済がよければ日本経済も良くなると説明しました(図6)。

世界経済がよくない時に日本だけがよくなるということは、いい悪いは別にして、グローバル経済下ではありえないことなのです。だからこそ世界経済の成長に貢献しながら我が国の国益を最大化できる経済連携の拡大やTPPの推進が重要なのです。

世界経済がよくない時に、アベノミクスのように効果が限定的なのに過大なリスクを伴う政策を打ってはなりません。ましてや、我が国の失業率はここ数年3%台の完全雇用状態なのですから、政府があれやこれや口出しするよりも、民間や市場に任せるべきなのです。日本の経済政策や金融政策の効果・影響が国内完結する時代はとっくに終わっていることを銘記すべきです。

今やるべきは「人的投資」

今、我が国がやるべきことは何か、それは徹底して人への投資を行うことです。
そして、国際的にはTPPのように、企業が世界中どこでも自由に活動できる環境整備を行うこと、国内的には規制緩和による民間支援と、富の再分配により格差拡大を抑制すること、社会保障の充実により将来不安をなくすことです。何よりも大事なことは、一人ひとりの能力を伸ばすこと、イノベーションを加速させながら生産性を向上させることです。子供・将来世代への徹底した教育投資と子育て世代への国を挙げての支援、社会人の再挑戦のための自己投資支援(教育や職業訓練など)こそ最優先すべきなのです。また、国内の成長戦略としては既述の規制緩和に加え、大胆な少子化対策を実行すべき時です。

「米国を除いた先進国の成長には限界がある」と書きました。米国が例外なのは、移民の受け入れを含めて現在も人口が増加し続けているからです(今後のことは、トランプ政権による不確定要素はありますが)。我が国において、大胆な少子化対策を実行したとしても効果が現れるのは数十年後のことです。今、わたしたちの社会や経済規模を維持していくため、一人ひとりが幸せ感に満ちた社会にするためには、各人の能力を高めるしかないのです。

対案は「人への投資」

よく「批判するなら、アベノミクスの対案を示してみろ」との議論があります。アベノミクスの対案といえば、何らかの経済政策、金融政策、財政政策だと思い込んでいること自体が「過去の高度成長期」や「経済成長至上主義」に洗脳された発想です。

一人ひとりの能力向上なくして成長はありえません。その能力を伸ばすことに大きく立ちはだかる「親の経済力格差による子供たちの教育格差」など「教育の機会均等」の崩壊を何としても食い止めなければなりません。誰しもが教育を受ける権利と機会を保障され、頑張れば必ず報われる、何度でもやり直しができる、何度でも何十回でも再挑戦できる社会をつくっていこうではありませんか。

今は、成長至上主義から幸福感追求社会へと意識改革をしながら、ひたすら人的投資にまい進すべき時であり、これこそがアベノミクスに対する対案なのです。』

以上、3回シリーズで、2017年の広報誌の「私たちの暮らしとアベノミクス ~経済至上主義から幸せ感を最重視する社会へ~」特集に目を通して戴きました。如何でしたか。

3年前の特集内容は、現在にも通用する、つまり、アベノミクスは何らの成果もあげていないことがおわかり戴けたと思います。GDPが大きく増加しているのも、GDP統計基準を変更したからです。
また、米ドルを基準としたGDP値では、いまだに民主党政権時を下回ったままです。実際、民主党政権時の米ドル・ベースの名目GDPは2010年5.700、2011年6.157、2012年6.203兆ドルであるのに対し、安倍政権になってからは、2013年5.155、2014年4.850、2015年4.389、2016年4.926、2017年4.859、2018年4.971兆ドル(以上、確定値)、2019年5,154兆ドル(IMFによる2019年10月時点の推計値)となっています(図8)。

世界が見る日本経済の実力は米ドル・ベースですから、安倍政権になって以降、日本のGDPは大きく落ち込んでいると見られているのです。日本国民に対しては、GDP統計基準を変更してまで、GDPが大きく増加していると見せかけられても、世界の目を欺くことはできません。

吉良州司