10万円一律給付の是非とデジタル政府化の遅れ
紆余曲折を経て、所得制限など条件を付けない、国民ひとり一人への一律10万円給付が決定され、現在申請及び給付過程にあります。この問題については、百家争鳴的な意見、論点があります。
この給付案がベストか、と問われれば、私のみならず多くの方が「No!」と答えるでしょう。しかし、日本の現状を考えると、ベストではないが、これ以上の案がないので、この案に落ち着いたと思います。
本来なら、一律全国民ではなく、一定の所得以下の人、所得が激減した人、に対象を限定して給付するのがベストです。その場合は限定された対象者に10万円ではなく、20万円、30万円、いやそれ以上の金額の給付も可能だったと思います。
では、ベスト案が採用できなかった「日本の現状」とは何か。それは、スピード感が要求される中で、所得水準や所得激減状況の即時把握ができないこと、また、早期に給付するための振り込み口座の把握ができていないことです。
この危機対応において、政府の現金給付の判断の遅さもさることながら、給付(振り込み)の手続きの遅さは、死んだ後に輸血するようなものです。更には、世界の笑いものになることを恐れていますが、オンライン申請を受け付けたはいいが、申請インプット・ミスが多く、結局「オンラインではなく、郵送で申請してくれ」という笑い話のようなことが現実に起こっています。
これまでの行政手続きによく「あるある」ことですが、申請書類の煩雑さ、要件の厳しさとわかりにくさ、本人確認の手間がかかること、などなど、もっと早くからデジタル政府を本気で追求してこなかったツケが今回一挙に噴き出してしまい、ベストではない給付方法を採用せざるをえなかった最大の原因だと思っています。
私自身もまだ勉強中であり詳細設計まではできていないことをお許し戴きたいと思いますが、この問題の最も効果的な解決法は、マイナンバーの有効活用です。今回のコロナ禍でいえば、所得水準、所得の減少、家族構成、振込先口座がマイナンバーで一元管理されている仕組みです。今後も起こりうるパンデミック、地震、台風、豪雨などの自然災害や、リーマンショック的、コロナ禍的な世界経済・日本経済の大幅減速により家計が立ち行かなくなる人たちに、迅速かつ十分な支援をするためです。たとえ、国や行政機関に個人情報を把握されてしまう懸念があったとしても、それ以上の大きなメリットが社会と国民一人ひとりにあると思っています。
米国では「Social Security Number(SSN)(社会保障番号)」をほとんどの米国民が持っています。私も米国駐在の際、米国に到着したその日に社会保障番号を取りに行きました。家族が到着した際も、その日の内に家族全員の社会保障番号を取得しました。この番号を取っておかないと、銀行口座も開設できない、給与も受け取れない、自動車運転免許証も取得できない、家を借りる場合も、家を購入する場合も、税金の還付を受ける際も、とにかく、ありとあらゆる社会行為、経済行為の際に要求されるため、この番号がないと米国で生活できないのです。銀行のオンライン取引、ネット購入の際の本人確認も社会保障番号の下4ケタを入力しろ、と要求されることもよくあります。IRS(歳入庁)いう米国財政当局への税金還付請求も申請から還付まで数日しかかかりません(1990年代後半の経験)。
ではどうすれば、米国の社会保障番号のように社会経済活動に必要不可欠な制度として広く普及させることができるのか。また、機能や利便性が各段に強化されたマイナンバーを、今回のような社会経済の危機的状況において、具体的にどのように活用するのか、等についての私の考えは、次回以降にお伝えしたいと思います。
吉良州司