マイナンバーの普及の方法
前回のメッセージでは、コロナ禍下の支援策として、困窮家計にも裕福な家計にも一律10万円給付にせざるをえなかった最大の理由が、デジタル政府化されていないからであり、今後の緊急時に備え、デジタル政府化を進めるべき、その際、米国の社会保障番号制度のようにマイナンバーを有効活用すべき、とお伝えしました。
前回のメッセージの読者からのご指摘もあり、「マイナンバーの有効活用」という表現について、少し説明が必要です。マイナンバーは住民票コードに基づいて、日本に住民票を有する全ての人に12桁の識別番号(マイナンバー)が既に付番されています。世界で自分しか持っていない番号が既に付与されているのです。一方、マイナンバーカードについては、まだ16%しか普及していません。私が、「マイナンバーの有効活用」という表現を使う時は、「マイナンバーカードの普及や有効活用」のことのみを言っているのではありません。日本に住民票を有する全ての人が持っているマイナンバー(マイナンバー制度)を、国民の利便性を高め、行政実務を効率化し、税や社会保障の公平公正性を高め、今回のコロナ禍のような緊急時には、本当に困窮している人たちへの適正・迅速な支援を行えるようにするために制度全体を有効活用すべきだ、と申し上げています。
「マイナンバー制度の有効活用」に抵抗感がある最大の理由は、個人情報を国・行政に一元管理されること、いつ、誰にその大事な個人情報が閲覧、漏洩、悪用されるかわからないので心配だということです。デジタル政府化には、何より、国・行政と国民の間の信頼関係が重要です。公文書を作成しない、作成しても平然と改ざん・隠蔽する現政府に対する国民の不信感が拭えない限り、いくら利便性、メリットを説いても国民は納得しません。その意味で、今こそ、自分や野党も真摯に自らを省みつつ、政治は「信頼」回復に努めなければならないと思います。
では、どうやってマイナンバー制度を普及させるかについての持論をお伝えします。
私は、基本的にすべての行政手続き、年金受給、公的医療保険の利用、納税や税の還付など、をワンストップサービス拠点としてマイナンバーに一元化すべきと思っています。現在、政府が検討している普及方法は、国民の反発を恐れて、義務化や強制力を伴わない利用促進策が中心です。消費税増税後の消費を下支えするため、また、キャッシュレス決裁を促進するために、マイナンバーカードを利用すると最大5000円分のポイントが付与される、という「マイナポイント」政策などがその典型です。
マイナンバー制度は、個人情報の適切管理と提供・利用につき厳格な運用がなされれば、国民一人ひとり及び社会全体の利便性が向上し、行政効率も格段によくなると思うので、義務化を含めある程度の強制力を持たせてでも普及させるべきだと思っています。
赤ちゃん出産時の出産手当金、出産育児一時金からはじまり、児童手当、失業保険、公的医療保険、年金受給、介護サービスに至るまで、また、低所得家庭の子供が大学教育を受ける際の支援、今回のコロナ禍のような事態における困窮者への迅速な支援、など全ての世代が一生を通じての公的サービスをマイナンバーが一本あれば全て受けられるようにするのです。勿論、現行制度からの移行期間、猶予期間は必要だと思いますが、期間を限定し、マイナンバーの確認がなければ公的サービスを受けられないようにするという、実体的強制力を持たせてでも制度を普及させる必要があると思っています。
因みに、欧米先進国は今回のコロナ禍下の国民、企業向けの支援をデジタル・インフラ(各国独自の国民番号制度)の活用により極めて迅速に実施しています。
米国は大人一人に現金1200ドル(約13万円)、子供に500ドル(約5万4000円)を1~2週間で給付しています。それも多くが「プッシュ型」と言われる方法(個人からの申請がなくても、政府が個人の銀行口座に一方的に振り込む方法)で支給しています。英国、フランス、ドイツ、スイスも雇用を維持するに十分な支援金を迅速に企業に支給しています(以上は、2020年5月18日付の日経グローカルの情報)。
このように、緊急事態時は「スピード感」否、「感」ではなく「スピード」そのものが要求されますので、デジタル政府化を急ぐ必要があります。そして、現在のわが国において最も有効な手段がマイナンバー制度をデジタル・インフラとして普及させ、迅速に目的を達成するために有効活用することだと思います。
吉良州司