吉良からのメッセージ

2020年6月9日

マイナンバー制度の利活用 緊急時生活保障制度と所得・資産把握

前回は、甚だ粗削りながら、マイナンバー制度の普及と課題、その解決策について持論を展開しました。
 
 デジタル政府化、そのためのマイナンバー制度の活用、の大きな目的は、(1)国民の利便性の向上(行政手続きの簡素化等)、(2)行政の効率化、(3)公平・公正な社会の実現にありますが、(1)(2)については、国家による個人情報の把握とそれが漏洩、悪用されることへの懸念を除けば、誰しもが納得する目的ですので、ここでは触れません。今回は、(3)の公平・公正な社会の実現のためのマイナンバー制度の具体的利活用について、ふたつの持論をお伝えします。
 
 ひとつ目は、今回のコロナ禍のような緊急事態時の困窮者を救済する具体策、ふたつ目は、世代間の公平性も考慮した税や社会保障の負担のあり方についての具体策です。

 まず、緊急時の生活困窮者を支援する具体策「緊急時生活保障制度」です。
 
前回のメルマガにおいて、低所得者の所得把握や自営業者、フリーランスの方の収入把握にこだわったのは、マイナンバー制度の有効活用により、コロナ禍のような緊急時の生活や事業の困窮者を迅速に救済するためです。

緊急時に経済全体が落ち込む時には、どうしても弱者にしわよせがいきますので、一定の所得(たとえば年収150万円や200万円)以下の人には、収入が減少したかどうかに関係なく、緊急時生活保障を発動し、たとえば半年や1年間という一定期間、毎月支援金を給付します。
また、上下一定の所得範囲内(たとえば150万円以上600万円以下。これはあくまで参考数字)の人でも、収入が前年より大きく減少した場合には、収入減の度合いに応じて緊急時生活保障を発動し一定期間にわたり支援金を給付する、といった制度です。
マイナンバー制度の普及していない段階、特に所得把握や指定口座が登録されていない段階では、そのような対応は迅速性の観点からは不可能ですが、制度が普及し、有効活用できるインフラが整えば、そのような対応も可能となります。

次に、税や社会保障の負担のあり方について、世代間も含めた公平性を確保するためのマイナンバー制度の活用です。

各論の詰め、具体的方法の確立は非常に難しいことは承知の上ですが、将来的には、所得だけでなく、資産もマイナンバーで把握できるようにし、課税対象を資産に広げる必要があると思っています。金融資産や(自宅など生活に必要な資産を除く)固定資産もマイナンバーによって把握、課税できるようにし、「税負担の真の公平性と将来世代への過剰負担の回避」を追求しなければならないと思っているのです。

何故なら、高度成長期、安定成長期は「所得の時代」ですが、それらの時代を経た後の成熟社会は「資産の時代」であり、所得よりも資産と資産が生み出す所得により大きな格差が生じているからです。毎年の所得は国民年金の年間80万円だけだが、金融資産は1億円持っていて、その1億円を株や投資信託など金融商品で運用し、金融所得の分離課税制度に基づき納税はしているものの、税引き後の金融所得(税引き後80%分)を得ることができているような例です。

現行の年金制度の根幹は、まだ若者が多く、高齢者が少なかった時代(昭和36年)に設計され、若者を含む現役世代が高齢者を扶養する仕組み(世代間扶養)になっています。現在のように、若者や若い現役世代は所得も資産も少なく、扶養される側の高齢者は、上記の例のように、年金中心の所得は決して多くないにせよ、高度成長期や安定成長期に蓄えた資産を多く持っているので、扶養する側と扶養される側が豊かさの観点からは逆転しているからです。
現在の制度と社会は「持たざる若い世代から持てる高齢者世代への所得移転」となっているのです。勿論、高齢者の中にも持たざる方々がいることは承知しており、別途対応が必要です。しかし、金融庁によると、60 歳以上が保有する金融資産の割合は、2014 年で 65.7%、2035 年には 70.6%に達すると推計されています(出所:明治安田生命保険「退職世代の資産と老後の生活設計」)ので、全体像、社会の傾向としては、このことが言えると思っています。

しかし、人生という旅路の終盤に差し掛かっている「持てる高齢者」が、「持たざる若者、将来世代」に手を差し伸べる仕組みへと移行させることが健全な社会、持続性のある社会、活力ある社会には必要です。

各人が生きた時代背景も含めた「真の負担の公平」を追求すべきだと思うのです。但し、資産を形成しえた方は、現役時代に休みなく一所懸命働いて、ずっと苦労や辛抱をし続けてきた方々が多いことも事実です。苦労や辛抱や働き続けた汗の結晶ともいえる所得からきちんと税金を払い、残ったお金で資産を形成しているので、その資産は「人生で頑張ってきた証」だといっても過言ではありません。
それ故、決して「ペナルティー」としての課税であってはならず、納税後に残したお金で積み上げた資産に対する課税を受け入れて「持たざる人」のために納税してくれた方々に対しては、社会全体で感謝と敬意を表する何らかの仕組みが必要だと思います。

また、資産課税による将来不安を和らげ、現実的にその負担を軽減するために、例えば、資産課税納税額に応じた相続税の減免、1年間に払った消費税額との相殺(注)なども考えられると思います。これらの方法では、資産税をそのまま納税して戴ければ直接的な若い世代への所得移転となりますし、消費納税額と相殺されることよって資産税納付額が軽減されることは、個人消費を通して、経済活性化に貢献してくれることにもなりますので、本当に大きな社会貢献であり、ありがたいことです。

失われた20年、30年、今回のコロナ禍と、所得が少なく、資産を形成しづらい社会経済状況の中で、これからの日本を背負っていってくれる子供たち、将来世代、そして、その大事な子供たちを育てている子育て世代に手を差し伸べ、みんなで応援するため、頑張り続けてきた高齢者には、「目に入れても痛くない孫のため」とお願いし、理解を得ながら、マイナンバーによる資産の把握、そして、資産課税へと一歩踏み出すべきだと思います。

<注> 資産課税納付額と消費税額との相殺

たとえば、金融資産課税率を1%とすると、金融資産5000万円の場合、5000万円の 1%で50万円の資産課税額となりますが、その年に消費税を30万円払っていれば、納税額は20万円になるといった相殺方法です。

吉良州司