菅政権はアベノミクスを継承すべきでない
菅政権が発足し、安倍政権の継承を掲げながら、行政改革やデジタル化の推進など独自色も打ち出しています。私は、行政改革やデジタル化の推進はどんどん進めていってもらいたいと期待していますが、安倍政権、特にアベノミクスについては継承すべきではないと思っています。
それにしても、病気で辞任した安倍晋三前総理は本当にツキのある方だと思います。理由は数多くありますが、ここでは、2点のみお伝えします。
その第一は、日銀黒田総裁と二人三脚で進めた金融緩和と円安誘導が柱のアベノミクスですが、もし、石油価格があのまま2014年前半までのようにバレル100ドルを超える水準で推移していたら、日本経済はひとたまりもなかったと思います。しかし、中国経済の先行き不安および米国シェールオイル、シェールガスの増産の影響でバレル40ドル台、一時は20ドル台にまで大きく下落し、日本経済が大打撃を受けることはなかったからです。
異次元ともいわれる金融緩和による円安の進行と同時に石油価格が高止まりしていれば海外への化石燃料支払額は二重で大きく膨らみ、働いても働いても、その果実はアラブの王様等へと流出する。結果、交易条件が悪化して深刻な景気後退をもたらしていたと思われます。
<図の説明:折れ線グラフが交易条件指数で、矢印(→)が右肩下がりの場合は交易条件の悪化、右肩上がりの時は交易条件の改善を表す。シャドウで付した部分は景気後退期。これによると、1985年から87年のプラザ合意直後の一時期の例外を除けば、基本的には交易条件が悪化した後は景気後退局面に入ることがわかる。>
その第二は、コロナ禍がなかったとしたら、東京オリンピック後の反動(建設需要などは既にピークを越えていますが、人の移動に伴う需要などが減少)もあり、アベノミクスの限界や問題点が噴き出していたと思います。しかし、コロナ禍という異常事態のせいで、「アベノミクスが日本経済を力強く回復させていたのに、あと一歩のところでコロナ禍となり、道半ばとなってしまった」と、その失敗を白日の下に晒すことなく、却って「コロナ禍がなければ、アベノミクスのお蔭で日本経済は回復していたのに。残念だ」と惜しまれることになってしまうからです。
アベノミクスをはじめ「やってる感」を演出することは天下一品でしたが、コロナ禍により、失敗であったということが広く国民に認知されることなく、「うまくいっていたのに」という成功幻想だけが残ることになってしまいました。
このように申し上げると、「また野党が批判ばかりしている」との批判をうけるかもしれませんが、私は徹底した是々非々論者です。批判ありきの議論をするつもりは毛頭ありません。しかし、安倍総理が喧伝してきたアベノミクスの成果は少なくとも地方には行き届いていないし、一部の企業や人たちを例外として、東京や大都市圏に住む多くの人々もその恩恵には与っていないと思います。そうであれば、アベノミクスは国民の生活を豊かにしていないし、場合によっては却って苦しくしているのではないかと思えてなりません。
実際、地元大分の方からは「アベノミクスで生活がよくなっていると実感したことは一度もない。給料はあがらないし、物価は高くなるし、踏んだりけったりだ」「戦後最長の好景気など、一体どこの国の話か。経営環境は厳しくなるばかりだ」といった声ばかりを聴きます。
それ故、私は今年に入ってから、過去20年、あるいは30年間における世界の中の日本経済、その実態と実力について、国会図書館や衆議院の調査室を中心に、データを収集し、事実だけを材料にアベノミクスの検証を試みました。まだ、検証し終わってはいませんが、新しく誕生した菅政権が安倍政権の継承を掲げているだけに、この段階で、みなさんに知ってもらいたいことをお伝えしたいと思います。
安倍晋三前総理は口を開けば「アベノミクスによって日本経済が力強く回復している」と力説します。その具体的成果として、高い株価と有効求人倍率を挙げます。しかし、業績とはかけ離れた高い株価水準は、日銀による国債やETF(上場投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)の大量購入、最近は企業の資金繰り支援のためのCP(コマーシャルペーパー)や社債の引受け、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による大量の株式投資、など官による投資によって底上げされる国家資本主義的官製相場と言えます。
また、有効求人倍率は、少子化と団塊の世代の引退に伴う圧倒的な人手不足が原因であるにもかかわらず、自らの政策の成果と誇張するなど、まさに大本営発表が続きました。
しかし、国民は豊かになっているという実感は全くなく、特に地方は却って苦しくなっていると感じているのが実情です。
そこで、アベノミクスによって日本経済は回復していないこと、更には、過去30年間(この間、非自民政権は細川・羽田内閣の1年弱と民主党政権の3年3か月だけで、残り約26年間は自民党政権)の世界における日本経済の低迷について、データを交えながら次回以降にお伝えしたいと思います。
吉良州司