吉良からのメッセージ

2020年9月24日

アベノミクスは日本経済を全く成長させていない(米国ドル・ベース)~菅政権にアベノミクスを継承してほしくない背景説明

前回のメッセージでは、菅政権はアベノミクスを継承すべきではないことについての総論的な理由についてお伝えした上で、「アベノミクスによって日本経済は回復していないこと、更には、過去30年間(この間、非自民政権は細川・羽田内閣の1年弱と民主党政権の3年3か月だけで、残り約26年間は自民党政権)の世界における日本経済の低迷について、データを交えながら次回以降にお伝えしたいと思います」と予告しました。

今日は総論から少し踏み込みんで、過去20年間または過去30年間の日本経済の低迷について、世界の主要先進国と比較しながらお伝えします。尚、データにより、統計期間が異なるため、同一基準で比較することは困難ですが、「傾向」についてはご理解戴けると思いますので、前以てご理解戴きたく存じます。

日本経済の国際比較(米国ドル・ベース)

まず、アベノミクスの検証を試みます。世界各国の経済力を比較する際には「米国ドル」が用いられますので、その米国ドルでの比較です。
また、2020年の経済はコロナ禍の影響で日本は勿論、世界各国の経済実態を反映していませんので、直近のデータとしては2019年のものがあれば2019年のものを使用します。

(1)アベノミクスは日本経済を全く成長させていない(米国ドルでの比較)

安倍政権の誕生は2012年末、アベノミクスを発動した最初の2013年度の日本のGDPは5.156兆ドルでしたが、7年後の2019年は5.154兆ドルと横ばいで全く伸びていません。因みに「悪夢のような民主党政権時代」の2011年は6.16兆ドル、2012年は6.20兆ドルです。数字だけ見れば、どちらが悪夢ですかね?
上記の数字については<①「米ドル・ベースの日本、米国、中国の名目GDPの推移(出所) IMF「World Economic Outlook Database October 2019」の下段の表を参照願います>

勿論、この米国ドルでのGDP比較については、その時点での為替相場の妥当性についての議論が必ず出てきます。この為替相場の妥当性問題については別の機会に、日本の産業構造やGDPの構成要素の変化などにも触れながら、説明を試みるつもりです。それゆえ、今は、ありのままの、現実であった円ドル為替相場をそのまま使用した統計により比較します。

為替問題について今ここでひとつだけお伝えしておきたいことがあります。それは、高度成長期やその後の安定成長期など過去の成功体験から、多くの国民、時に政治家までもが、いまだに「円安」になると国が潤うという幻想を持っているということです。
しかし、我が国はもはや貿易立国ではなく、投資立国であること、GDPの60%は個人消費であること、過度な金融緩和によって、自国通貨をバナナの叩き売りのように弱くすることは、グローバル化が進む世界の中では、自国通貨の購買力を減退させる結果、日本の消費者の購買力、日本企業の輸入時の購買力を弱めることから、必ずしも円安が即国益となる時代ではなくなっているのです。
かつて円高で苦しんでいた輸出企業もこの間、現地生産や供給・調達網を世界的に張り巡らせることによって、また、企業が直接米国ドルなど外貨を保有・決済できるようになったことにより円高耐性を身に着けてきています。
過度な円安、強引な円安誘導は、日本人が額に汗して働いた「労働価値」や「生産物の価値」が、外国人の目からは(米国ドルで見ると)「日本人の賃金はこんなに安いのか」「品質のいい日本製品がこんなに安く買えるのか」ということになります。
また、安倍政権が喧伝していたインバウンド効果の実態は、所得が上がり続けている中国やオーストラリアの旅行者からすると、円安との二重効果で「日本のホテルや旅館の宿泊料金、レストランの食事代はこんなにも安いんだ」「日本国内で買う商品は無茶苦茶安いので、爆買いしてもたかがしれている」となっていることが大きな要因です。
為替とそれに関連する問題について、今日は上記のような頭出し程度にさせて戴き、詳細は別の機会に譲りたいと思います。

(2)過去30年間の自民党政権下(例外は約4年)における日本経済の低迷
~日本だけが成長から取り残される厳しい現実 先進主要国との比較から~

細川・羽田政権と民主党政権の合計約4年を除くと26年間が自民党政権だった、過去30年間の日本と主要先進国のGDPを比較してみます。

1)名目GDPの主要先進国との比較

1989年から2019年までの30年間、日本の名目GDPは3.05兆ドルから5.08兆ドルへと1.67倍になりましたが、同期間中、米国3.81倍、ドイツ2.75倍、フランス2.64倍、英国3.03倍へと大きく増加しています。因みに、中国の名目GDPは同期間中0.46兆ドルから14.14兆ドルへと30.74倍に増加しており、2010年に我が国を追い越した後、あっという間に日本の2.7倍と引き離しています。
また、1995年から2019年までの24年間で見てみると、日本の名目GDPは5.45兆ドルから5.08兆ドルへと0.93倍のマイナス成長なのに対して、同期間中、米国2.80倍、ドイツ1.49倍、フランス1.70倍、英国は2.10倍へと大きく成長しています。
上記の数字と記述については、<①中国部分については「米ドル・ベースの日本、米国、中国の名目GDPの推移」の折れ線グラフ、先進主要国との比較については、②「ドル換算GDP増加率1995-2015」、③「主要先進国の名目GDP(USドル)の推移 (1995-2019年)」の棒グラフ、及び④「主要先進国の名目GDP(USドル)の推移 (1989-2019年)の折れ線グラフと下段の実数字を参照ねがいます。>

2)実質GDPの主要先進国との比較

勿論、物価上昇を考慮しなければ公平な比較にならないので、実質GDPのデータも見て戴きます。
1989年から2019年までの30年間、日本の実質GDPは4.48兆ドルから6.21兆ドルへと1.39倍になりましたが、同期間中、米国2.07倍、ドイツ1.62倍、フランス1.62倍、英国1.79倍へと大きく増加しています。
また、1995年から2019年までの24年間で見てみると、日本の実質GDPは5.06兆ドルから6.21兆ドルへと1.23倍であったのに対して、同期間中、米国1.79倍、ドイツ1.39倍、フランス1.47倍、英国は1.64倍となっており、日本の低成長ぶりが顕著です。
この点については、<⑤「主要先進国の実質GDP(USドル)の推移(1989-2019年)」の折れ線グラフと下段の実数字を参照願います>

(3)際立つ日本の国際競争力の急激な低下

日本経済の低迷につきデータで確認戴きましたが、この低迷の原因でもあり、結果でもある日本の国際競争力は1989年には世界1位でしたが、2019年には30位に転落しています。<⑥「主要先進国の競争力ランキングの推移」を参照願います>

以上が、過去30年間(内、自民党政権26年間)における、日本経済低迷の実態です。

安倍晋三前総理は、事あるごとに記者会見を行い、高い株価や有効求人倍率の数字を挙げてアベノミクスの成果を強調していました。しかし、これは井の中の蛙の議論であって、「世界の中で日本経済がこれだけよくなっている」「世界経済に対する輝かしい日本経済の貢献」といった説明はただの一度もなかったことが、以上で納得して戴けると思います。

吉良州司