吉良からのメッセージ

2020年12月1日

11月20日 文部科学委員会質問 核融合発電の必要性について

先日11月20日に文部科学委員会の質問に立ち、2050年カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出・吸収の差し引きをゼロにする)目標を達成するための環境技術と核融合発電技術について、また、外国人児童生徒の受入れや教育に対する取組について、質問という形で問題提起、提案、要望を行いました。
今日は、2050年カーボンニュートラルの目標を達成するために必要不可欠だと思っている核融合発電について、その質疑応答の要旨をお伝えします(分かり易く簡潔にするため、議事録からの意訳や新たな解説を加えていることご理解願います)。

1. 2050年カーボンニュートラルはかなり野心的な目標だが、反対者もいないと思うし、私自身も推進すべきだと思っている。新しい技術やシステムを創り出していく時は、今日から明日と一遍に変わるわけではなく、今あるシステムが少しずつ減少し、その間に新しいシステムや技術が増大していく。核融合発電は2050年ぐらいからの重要な電力源、それまでの間は、既存技術・システムと新技術・システムが併存しながら、新技術・システムをより強く推進していく併存期間だと思っている。

2. エネルギー安全保障という観点から、将来的なエネルギーとしての核融合発電をどんどん推進してほしい。多くの国民も政治家も再生可能エネルギーと蓄電池(電機自動車のバッテリーを含む)を組み合わせれば日本の必要電力需要を賄っていけると思っている。しかし、再生可能エネルギーは天気次第、風次第という気まぐれな要素があるので、必要電力需要を賄うには課題が多い。

3. 再生可能エネルギーの課題

1)天気次第、風次第という気まぐれな電力源なので、天気・風により発電できない時は、化石燃料を原料とする火力発電が代わりに電力供給している(因みに太陽光は発電効率12%、風力は22%なので、太陽光は1年を通して88%は発電していないのと同じ。同様に風力も78%は発電していないのと同じ。だからこそ、現時点では「バックアップ電源」、「調整電源」としての火力発電が電力安定供給には必要)。

2)日本の特殊事情のひとつとして、太陽光や風力発電設備の設置場所につき地形的問題がある。欧州オーストリアのウィーンからスイスのチューリヒに向かう列車から、大きな森と見えるぐらいの風力発電設備が並んでいたが、内陸国オーストリアまで、北海からの西風が届く地形であり、欧州は風力発電の最適地。しかし、日本の設置場所の最適地は極めて限られている。

3)地形的問題として、その設置場所の問題がある。日本の場合、国土面積37万平方kmの中で、人口1億2000万人が住める可住面積は27%。これに対して英国は日本の2/3の24万平方kmに人口6200万人の可住面積は85%。フランスは、54万平方kmに人口6300万人の可住面積は72%。よく例に出されるドイツは35万平方kmに人口8200万人の可住面積は67%、国土の2/3が人の住める地域。日本の場合、これだけ狭い可住地に住居地、市街地、農地、工業地帯がある。西欧は再生可能エネルギーの最適地だが、日本の場合は、地形的に非常に難しい問題がある。これ以上太陽光や風力発電を広げていこうとしても適地がない。洋上風力には期待できるが、北海のような浅瀬の海ではなく、すぐに深海となることに加え、大型台風の問題もある。

4)この地形的問題を解決するために、山を削って太陽光を設置している例がある。地元大分の空港と大分市を結ぶ道路から見える光景は、かつて春は山桜、秋は紅葉で美しかった山が、いつの間にか太陽光パネルでぴかぴか光り始めている。この光景は、万葉の昔から、自然を愛で、自然と共生してきた日本人の心根に果たして合うことなのかと疑問がある。

5)この地形的限界を克服するためには、一軒家のほぼ全ての屋根に太陽光と蓄電池を設置するしかないが、コストが200万円から300万円かかる。それを一人一人負担できるのか。また、負担する意思を国民ひとり一人が持っているのか。総論は、カーボンニュートラルに賛成だが、200万円300万円負担は無理だ、嫌だとなることを危惧する。

6)再生可能エネルギーが天候により発電できない時は、化石燃料を燃やす火力発電がバックアップ電源として代わりに発電しているが、この化石燃料の調達の問題もある。欧州諸国は、天然ガスも石油も、ロシアからのパイプラインが張りめぐらされている。また、電力系統が密接に繋がっているので、ドイツは、水力発電由来のノルウェーから、原子力発電由来のフランスから電気を買うことができる。ところが、日本は、隔絶された島国で電力系統は繋がっていない。仮に電力系統を繋ごうとしても、EUで繋がっている欧州諸国とは異なり、日本の近隣諸国は必ずしも友好的な国だとは限らない。

7)今次コロナ禍により化石燃料調達リスクが更に高まっていることも指摘する。南米チリの世界最大の露天掘り銅鉱山チュキカマタ銅鉱山(私も26歳の冒険旅行で訪れた)が、今年6月に集団感染のため操業を停止した。コロナの感染力は極めて強いが弱毒性のようで致死率が低い。しかし、変異して、エボラ出血熱並みの(二人に一人は亡くなるという)高い致死率のパンデミックになった場合には、中東を始め世界各国の化石燃料の輸出が止まる。日本からみると輸入途絶が起こる。中東での紛争リスクに加え、感染症パンデミックのリスクにより輸入途絶が起こる可能性、また、化石燃料が3倍、5倍に高騰する可能性がある。その場合、日本経済はひとたまりもない。

8)一方、蓄電池を備えた再生可能エネルギーのシステムが完備されれば、化石燃料の輸入途絶や値段の高騰にも耐えられるのではないかという議論もある。しかし、石油は180日分の備蓄があるが、電気の備蓄には限界がある。気候変動が当たり前の現在、日本の6月に一度も太陽が出ないという状況があり得る。その場合、仮に一日当たりの電力需要を賄うだけの蓄電池が完備されていたとしても、蓄電池に貯める電気をつくることができない。2050年カーボンニュートラル達成のために再生可能エネルギーの普及促進は絶対条件だが、それだけを頼りにして、日本の電力需要を賄っていくことには限界がある。これらがエネルギー(電力供給)安全保障上の再生可能エネルギーの課題だ。

4. 自前で発電できる核融合発電の必要性

上記エネルギー(電力供給)安全保障上のリスクを回避できるのが核融合発電だ。この開発と実用化は我が国にとって生き死にのかかった、生きるための絶対条件、必要不可欠な技術・発電源になると思っている。もちろん、既存原子力発電もその機能を持っているが、福島第一原発以来、国民の理解がなかなか得られないのが現状。ただし、上述のエネルギー安全保障上のリスクに備える意味でも、当面(上述の新旧両技術・システムの併存期間)は原子力も使わざるを得ないが、将来的には、核分裂に比べて人体に及ぼす影響が極めて軽微で制御可能な核融合発電に期待する。2050年には必ずこの核融合技術を使って発電までやると決めて核融合発電技術・施設に投資をして戴きたい。

5. 茨城県那珂市の核融合施設を視察して確信を持つ

私は、先日、茨城県那珂市の核融合研究所を視察した。また、今年1月には、神戸に行き、世界の7つの国・地域でフランスに建設中の核融合施設ITERへの主要部品の初輸出にも立ち会った。エネルギー安全保障の重要性についての問題意識があるからだ。視察の結果、夢の技術と言っていた過去の話ではなく、実現し得る、実用化し得る技術との確信を持つに至った。2050年の発電を目指して投資をしていく、推進していくことについて、萩生田大臣の答弁を求める。

6. 萩生田大臣の答弁(結論部分)

太陽光など再生可能エネルギーの推進と蓄電などの技術開発と促進は大事だが、いまだ十分な蓄電ができる環境にないので、新たなエネルギー政策は並行して頑張らないといけない。決して太陽光や風力発電がいけないということじゃなくて、蓄電池技術も更に研究は進めてもらいたいが、核融合も大きなツールの一つになってくると思う。二酸化炭素の排出を伴わずに、カーボンニュートラルの実現に向けて重要な役割を果たすと期待される。政府においても、本年1月に決定した革新的環境イノベーション戦略において、脱炭素社会を実現する革新的技術として核融合を位置づけた。文科省としては、世界七極の国際協力によるITER計画を推進し、国際的にも関心の高い核融合による発電に向けた研究開発を進め、ぜひ実用化を目指したい。今後とも、カーボンニュートラルの実現に向けて重要な役割を果たす核融合エネルギーの実現に向け、研究開発を着実に進めていきたい。

以上が、質問要旨と萩生田文科大臣の答弁の結論部分です。

核融合発電を実用化して、我が国のエネルギー安全保障問題上のリスクを解決したいとの思いを強く持っていますが、多くの国民にとっては「核」と名がつくと心配される方が多いと思います。でも、核融合発電は制御可能で安全性が高いことが大きな利点です。しかし、この説明には原子理論やプラズマといった物理化学の基礎知識も必要ですし、かなり長くなりますので、今日はこれくらいにして、マンガなどを使って別の機会に説明したいと思います。
長いメルマガとなりましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。

吉良州司