吉良からのメッセージ

2021年3月22日

お互いに国内世論を意識した、アラスカでの米中外交会談

3月18日、19日の2日間に亘り米国アラスカ州で開催された米中外交責任者会談は、初日から非難の応酬が繰り広げられ、多くの方が、米中2大国の「新冷戦」と
も言われる覇権争いの激しさを実感されたと思います。

今後、我が国はもちろん、世界中を巻き込みながら展開される米中覇権争いは、この先ことある毎に取り上げていきたいと思いますが、本メルマガでは、米中ともお互い
に国内世論を意識した会談であったことを中心に3点について私の思うところをお伝え致します。全ての報道や論説を見ているわけではないので、もし誰かの論点や指
摘と重複している場合はご容赦ください。

1. 米国の国内向け演出

1点目は、トランプ前大統領時代の影響が強く残っていると思われることです。世界のリーダーとして、再び世界秩序の回復に全力で取り組もうとするバイデン政
権が、中国から「外交儀礼に反する」と言われるほどの攻撃的な初動をせざるを得なかったことがそれを物語っています。トランプ支持者や共和党支持者から「対中弱
腰」と非難されないための国内向けの演出が今後も続きそうですが、それが度を越すことによって、世界の平和や秩序に悪影響を与えてしまうことを心配します。

ロシアのプーチン大統領を「人殺しだと思う」とバイデン大統領自ら発言してしまったことは、一線を越えており、トランプの強烈な個性と熱狂的支持者の存在がバイデ
ン政権の平常心を失わせているのではないかと危惧します。

2. 中国の国内向け演出

2点目は、中国も大人(たいじん)としての「空砲」撃ちならまだしも、頭に血が上っての直情的な反撃ではなかったのか、という心配です。楊潔篪外交担当政治局
員は元々そのような傾向を持っていると有名で、民主党政権時代も岡田克也外相が苦労をしていました。

1971年から米国ニクソン大統領とキッシンジャー大統領首席補佐官が主導した米中国交正常化過程において、ニクソン大統領訪中の地ならしのために先に訪中した
キッシンジャー氏を待ち受けていたのは、中国メディアを筆頭にした中国国内の激しい反米的論調でした。「こんな状況下でニクソン大統領の訪中ができるのか」その懸
念を毛沢東主席に伝えたところ、同主席は「時には空砲を打つことも必要ですよ」と答えた、とキッシンジャー氏の回顧録に書いています。政治的・イデオロギー的立
場の違いや文化大革命の罪などは全く別にして、当時の中国のリーダーであった毛沢東や周恩来、また、現代中国の祖である鄧小平などは「泥水を飲んででも妥協点を見
出す大人(たいじん)としての度量」があったように思えます。今回の楊潔篪氏のそれは、大人風の対応からは程遠い直情的な国内向けパフォーマンスだったように思え
てなりません。

3. 韓国の歴史的立場

日米韓の安保上の連携が強固でありえたのは、北朝鮮の存在と20世紀までは中国が軍事的、経済的に強大ではなかったからです。日本政府はよく「価値観を同じくす
る同盟国、友好国との連携が必要」いった主張をしますが、21世紀に入り、中国が政治的、軍事的、経済的に強大になるにつれ、中国と陸続きの朝鮮半島や東南アジ
ア諸国は「同じ価値観がどうのこうの」などと悠長なことは言ってはおれず、地政学的観点から、自らの生存や経済的利益を優先せざるをえないのです。

今回の米中アラスカ外交首脳会談に先立ち、米国の国務・国防両長官が韓国を訪問した際の声明では、日本でのそれとは異なり、中国を名指しで懸念対象とはしませんで
した。これを文在寅大統領の特異さだけに帰すのではなく、地政学のなせる業と受け止める現実感覚が重要だと思います。

今後、米中の覇権争いが激しさを増し、日本、韓国、ASEAN諸国、インド、ミャンマー、パキスタン、中央アジア諸国は否応なくその覇権争いの道連れにされます。

我が国外交の基軸である日米同盟の強化は当然なのですが、国内的に「分断の修復」というトランプの残影と戦いながらの展開を余儀なくされる極めて厳しい状況の米国
外交であるとの冷徹な認識を持つ必要があります。

また、「世界の工場」「巨大市場」「相互依存関係」の中国経済に否が応でも惹きつけられる企業や経済界の立場と、安全保障上の懸念対象であり、南シナ海・東シ
ナ海、尖閣、香港・チベット・ウイグル問題等、決して譲ることのできない政治的立場の葛藤が続く中、中国とどう向き合っていくのかは我が国にとって最大の課題とな
ります。

米中の狭間にあって、現在、将来の平和と安全と国益を冷徹に見つめながら、極めて繊細な外交を展開していかなければなりません。

吉良州司

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