吉良からのメッセージ

2021年3月24日

中国とどう向き合っていくのか 中国の経済的存在感 その1

前回「米中外交行責任者会談」についてのメッセージの中で、「今後、米中両大国の狭間にあって、中国とどう向き合っていくのか」が我が国外交の最大の課題になる、とお伝えしました。

コロナ感染症対策について、個人レベルでは「正しく恐れる」ことが重要であるとの議論がなされてきました。中国についても正しく理解し、正しく恐れる必要があると思っています。
中国の現在の国内的諸課題や対米戦略をはじめとする外交戦略や覇権獲得戦略についての全貌については、外務省や専門家といえども分からないことが多々あります。一方、輸出・輸入などの貿易額、投資額、経済成長率、GDPなどは(中国の場合は、統計数字に全く疑問がないわけではありませんが)、数字によりその実態を把握することができます。

中国を正しく理解し、正しく恐れ、正しく対応していくため、本メッセージでは、まず、中国の経済的実態、特に世界経済における中国経済の存在感について、データを示しながら、お伝えします。

1.2000年以降、急速に成長し、存在感を増す中国経済

存在感を増す中国経済の実態についての図表、グラフを見ると一目瞭然ですので、まずは、こちらの図表やグラフをご覧ください。



1990年当時の中国の名目GDPは0.36兆ドルで、世界の名目GDPに占める割合は1.8%に過ぎず、当時の日本の名目GDP3.1兆ドルの1/10しかありませんでした。ところが、1990年代以降、特に2000年代に入り急速に成長し、2019年には14.1兆ドルと、世界GDPの16.5%(日本は5.8%のほぼ3倍)に拡大しています(コロナ禍の影響が大きい2020年は参考にならないので2019年の数字を採用)。また、同年経済成長率も6.1%と主要国中、断トツの高い成長率を示し、世界経済における存在感が極めて大きくなっています。

コロナ禍以前は中国人訪日観光客の「爆買い」が話題になっていましたが、中国の国全体の「買う力」は、各国企業、経済界を惹きつけてやまず、政治的に如何に相容れない状況であっても無視できない存在、否、重視せざるを得ない存在になっています。

2.中国の「買う力」のすさまじさ

世界経済に対する存在感と影響力の大きな要素はGDP・輸入力・輸出力といえます。中でも、輸入力は外交力に直結します。相手国が買ってもらいたいと切望する財・サービスを「買う」ことは、最も大きな外交手段のひとつなのです。売りたいものを「買ってくれる相手」、つまりお客さんにはなかなか頭が上がらないのがビジネスの世界です。中国の習近平国家主席が2019年3月フランスを公式訪問した際、エアバスから350億ドル(約3兆8400億円)の飛行機を「買う」契約を締結しましたが、米国が同盟国と手を携えて対中国包囲網を築こうとする際に、欧州諸国が必ずしも前向きでないのは、このことが大きな理由です。欧州諸国は中国の「買う力」を尊重せざるをえないのです。

そこで、各国企業、経済界が無視できない中国の「買う力」について、実例を示します。

(1)巨大な自動車市場
今や巨大市場へと成長した中国の自動車市場における、2019年の自動車販売台数は2577万台(2017年は2888万台)で、本家本元の米国1748万台を800万台近くも凌駕しています。因みにEU市場は2000万台強、日本市場は520万台ですから、中国自動車市場の存在感は圧倒的であり、各国自動車業界にとっては無視できない存在となっています。

(2)圧倒的な重工業原料の輸入額とシェア
嘗ては、その品質と生産量の両方において、日本の製鉄メーカーが圧倒的な存在感を示し、鉄鉱石生産の世界最大手であるブラジル・バーレ社と日本の製鉄会社間で決める鉄鉱石価格が世界標準価格となる「価格決定権」を持っていましたが、現在ではその圧倒的な生産量にものを言わせて、中国が価格決定権を持っています。重工業の基幹原料である鉄鉱石の中国の輸入額シェアは72%、銅鉱石は同56%と圧倒的な影響力を持っています。

(3)日本と中国は経済的相互依存関係にあり、日本にとって貿易相手国、投資先、インバウンド客として尊重せざるをえない中国経済
2019年日中貿易総額は3,040億ドル(約32兆円)で、日本にとって中国は最大の貿易相手国、且つ、中国にとっても日本は米国に次ぐ2番目の貿易相手国です。また、日本の対中直接投資額は2019年144億ドル(約1.5兆円)で、中国にとって日本は対中第4位の投資国となっています。因みに対中直接投資額の1位はシンガポール、2位韓国、3位英国、5位ドイツ、6位米国となっています。日系企業拠点数は3万3,050拠点(2018年)で日系企業の海外拠点数で中国は第1位となっています。また、2019年訪日中国人観光客数も959万人で第1位です。

中国の「買う力」のすさまじさは上述した分野に限りません。次回、その続編をお伝えします。

吉良州司