吉良からのメッセージ

2021年8月23日

アフガニスタンのタリバン復権と米国外交の失態の背景

2001年の同時多発テロ後政権を追われたタリバンが、再びアフガニスタンほぼ全域を支配することになりました。まだ、予断が許されない情勢は続きますが、私の思うところをお伝えしたいと思います。

1.軍の撤退、民間人の退去の段取りの失敗はトランプ政権の負の遺産

今年8月31日までに米軍を撤退させることを優先するあまり、米国の大使館員や民間人は勿論、同盟国の軍隊、大使館員、民間人、アフガニスタンを支援してきた国際機関の職員、それらへのアフガニスタン人協力者の実際の撤退・退避か、少なくともその準備が整う前に首都カブールをほぼ制圧されてしまいました。想定外のタリバン進軍だったとは思いますが、事は「想定外」では済まされません。

トランプ政権時代の米国政府の大きな問題は、外交を司る国務省などのポリティカル・アポインティーと呼ばれる政治任用の政府高官(日本の官僚幹部に当たる)は半分程度が空席だったことです(正確な数字や比率でなくて申し訳ありません)。
まともな政府高官候補は、トランプ大統領の下では馬鹿々々しくて仕事をする気にならなかったこと、いくら建言・助言・提案をしてもトランプ大統領の関心や能力の低さから取り上げてもらえないとの諦めや無力感、トランプ大統領政権下の政府高官就任は自分の経歴にケチをつけてしまう、との理由での辞任や、就任への尻込みだったと言われています。

そのため、通常の外交交渉では当事国の官僚が事前に充分な情報交換を行い、合意の落としどころを事前に詰めておくのですが、トランプ政権下ではそれが充分になされていなかったのです。一番厄介だったのは、政権トップに重要な外交判断をしてもらうために、官僚たちが事実関係を含む諸情勢などの判断材料を提供したり、実際に説明したりするのですが、その必要十分な判断材料が上がらず、充分な説明もおこなわれていなかったのです。
つまり、現地情勢の分析を含む専門家や外交のプロたちがいないか、その助言や提言がないまま外交判断を行っていたといっても過言ではないのです。その意味において、安倍晋三前総理と総理を支えていた日本外務省は、事務方による事前調整がほとんどできない中、筋書がないドラマのような対米交渉をよくこなしていたと(私は前総理とは対峙する立場ではありましたが)評価しています。

トランプ政権下の米国外交は、プロが活用されない状況が4年間も続きましたので、今回の米軍の撤退に当たっても、的確な情報収集、同盟国を含む関係国との意思の疎通や諸事の調整、多方面にわたる組織や人への配慮を前提とした必要十分な撤退・退避計画を作成できていなかったと思われます。いくら「ベトナム戦争とは違う」と強弁しても、カブール空港の映像から思い起こされる光景は「サイゴン陥落」時の混乱であり、ベトナム人米国協力者のあまりにも過酷な、悲惨な運命です。
バイデン大統領がアフガニスタン(政権)に放った、自国の責任を棚に上げての発言(紙面の都合で割愛)も批判は免れないと思いますが、私にはトランプ政権の負の遺産が招いた米国外交力の質の低下がなせる業だと思うが故に、バイデン大統領の心中や如何にと察します。米国民がトランプを大統領に選出してしまった負の遺産はこれからも噴出し続けることを、日米同盟が日本外交の礎石である我が国としても肝に銘じておかなければならないと思います。

2.民主主義は普遍的価値なのか

次に、アフガニスタンのような厳しい気候条件、地理的条件の国、しかも、部族意識が極めて強い国における、「普遍的な価値」(?)を押し付けることについて、私の持論中の持論として、5年前の2016年広報誌「きらきら広報」の「パリ同時多発テロを受けて考えたこと」でも記述いたしました。ここでは、一部の重複も含めて、再度、私の持論をお伝えしたいところですが、既に長くなりましたので、次回に譲りたいと思います。

吉良州司

バックナンバー