吉良からのメッセージ

2021年8月24日

アフガニスタンのタリバン復権。歴史と気候条件が生み出す多様な世界と価値観

昨日のメッセージの最後に「民主主義は普遍的価値なのか」との見出しを付けた上で、『アフガニスタンのような厳しい気候条件、地理的条件の国、しかも、部族意識が極めて強い国における、「普遍的な価値」(?)を押し付けることについて、5年前の2016年広報誌「きらきら広報」でも記述していたが、再度、私の持論をお伝えしたい』と書きました。
そこで今日は、私の持論の一部として、2016年広報誌「きらきら広報」中の「パリ同時多発テロを受けて考えたこと」の主要部分につきお伝え致します。

『パリ同時多発テロ※を受けて考えたこと』
※2015年11月13日、パリの劇場やレストラン等への銃撃と爆発が同時多発的に発生。ISの戦闘員とみられるグループの犯行。死者130名、負傷者300名以上に達したテロ事件。

1.パリ同時多発テロの衝撃

「ISとの戦いと人道支援」「中東における我が国の独自性」の文章は割愛

テロの温床をなくすには

理想論に聞こえるかもしれませんが、「テロの温床をなくす」究極の対応は、それぞれの国や民族が、お互いを認め合い、多様性を認め、相手を受け入れる世界を創ることではないかと思っています。キーワードは「多様性の尊重」です。中東の人々が持つ歴史や高い文明を誇った民族としてのプライドを尊重し、西洋的価値観を一方的に押し付けるような愚は避けるべきだと思うのです。
 
何故、そのような思いを持つのかその根拠がふたつあります。そのひとつは「歴史」であり、もうひとつは「気候条件」です。

中東の歴史と誇り

私は歴史の専門家でもなければ、中東、イスラム世界の専門家でもありません。それゆえ、学術的専門的な論考とは言えませんが、少しだけイスラム世界と西洋の歴
史について概観することをお許しください。 <中略> 
それだけに、中東の人々は自分たちの歴史、文明に対するプライドが高く、「西洋の優位はたかだがこの500年ではないか」という思いも強いのではないかと思います。ましてや古くはエジプト文明、メソポタミヤ文明を誇った民族の子孫であり、西洋の下風に立つことを快く思っていないことは確かだと思います。また、現在の中東地域の国境線は、民族自決に基づく国民国家というよりは、西洋諸国が直線で線引きした国境線であり、現在噴出している(イスラエル・パレスチナ問題も含めた)諸問題の原因が、西洋列強による植民地支配、委任統治支配時代にあるという反感もあると思います。
その意味からも、中東の人々が持つ歴史や高い文明を誇った民族としてのプライドを尊重し、西洋的価値観を一方的に押し付けるような愚は避けるべきだと思います。

2.気候条件

自由と民主主義は普遍的価値か

「自由と民主主義」という西洋的価値が「人類の政治社会制度上の普遍的価値」だと私は思いません。それは既に発展段階を卒業した国々、それも気候条件的に「温帯」と「寒帯」に位置する国々にとって、もっとも受け入れやすく、尊重されている価値であって、砂漠の国々や熱帯雨林の国々など気候が厳しい地域の発展途上国にとってのベストの価値であるかは疑問だと思っています。

南米2万キロの冒険旅行で感じたこと

私は、26歳の時に、南米南部(ブラジル全土、ウルグアイ、アルゼンチン、チリなど地球の赤道半周分にあたる2万キロ)をバスで冒険旅行しました。ブラジルのリオデジャネイロ(亜熱帯気候)からブラジル高原(高地性亜熱帯気候)を経てアマゾン川河口のベレン(熱帯雨林気候)に行く時(確か合計で50時間)、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス(温帯)から同国南西のアンデス山脈ふもとの保養地バリローチェ(山あいにありながら地中海性気候)に行く時(約20時間)、そのバリローチェから国際長距離バスでアンデス山脈(高山性気候)を越えてチリ南部のブエルト・モント(温帯)に行く時、そのプエルト・モントから北部の砂漠地域アタカマまで行く時(合計で約40時間)、人々の顔つき、服装、肌の色、空の色、家、街並、地域全体の雰囲気など、次々と移り変わっていきます。
その時私は、「人と社会は、その土地の気候条件で生き方や社会の有り様が決まる」と信じるようになりました。熱帯雨林気候での生活常識が砂漠地域では通用しないのは当たり前のことです。

過酷な自然条件の中で生き抜く知恵

私の会社時代の初出張は、ブラジル留学から帰国して間もない時期のパキスタン出張でした(それもアフガニスタンとの国境までわずか50キロに位置するクエッタという街)。クエッタから首都のイスラマバードに飛行機で移動する際に目に焼きついたこと、感じたことは一生忘れることができません。それは、アルカイーダのリーダーだったウサマ・ビン・ラディンがある時期潜んでいたとされるアフガニスタン・パキスタンの国境に沿った大山塊と砂漠の光景です。
見渡す限り、岩山、土漠、砂漠がどこまでも続き、「緑」を見ることがありません。日本人にはなかなか実感できないと思いますが、チリのアタカマ砂漠を旅した時にも実感したことです。「水がないところには緑がない」のです。理屈ではわかっていても、実際に草木一本生えていない、全く緑がない光景を見ることは、衝撃ですらあります。
アフガニスタン・パキスタン国境沿いの緑のない大山塊を見ながら感じたことは「よく、何千年もこのような不毛の地で人類が生命を繋いでこれたものだ。この地で生きてきた人々の知恵、生命力には敬服する。」ということでした。
 <中略>

豊かな自然と四季に恵まれた日本

我が国には、太古の昔から大事にしてきた価値、文化伝統があります。その中でも四季折々の自然を慈しみ、愛でる文化は我が国の文化そのものであり誇りです。「八百万の神」を信じる日本人の心根は、昔から多様性を認め、尊重してきたことの証だともいえます。しかし、それもこれも、日本列島が四季に恵まれ、海に囲まれ、緑に恵まれ、緑豊かな山や水量豊かな川に恵まれてこそ生まれた心根であり文化伝統です。日本や西欧など温帯の国々の春、夏、秋は過ごしやすく、冬は厳しいため、冬に備えた勤労が尊重され、冬を生き抜く知恵や人々が協力しあうことが要求されます。
社会がある程度豊かになってきた時には、この四季に恵まれた自然環境とそれが育んできた価値、文化伝統が、現代社会において「自由」と「民主主義」を重んじる社会土壌に繋がっているのだと思います。

厳しい自然環境を生き抜いてきた民族に
温帯の価値観を押し付けるべきではない

しかし、温帯という最も恵まれた自然環境で生活している人々が、砂漠のような過酷な気候条件の中で生きている、また歴史的に生き抜いてきた人々に、自分たちの価値観を強制すべきではないと思うのです。自主的、自立的な選択の結果として、温帯の国々の価値観を共有することには何の異存もありませんが。
 
多様性の尊重がテロの温床をなくす

テロの温床の最小化、根絶は長い道のりになるかもしれませんが、多様性を認め、それぞれの民族の歴史・文化・伝統、そして気候条件、それらを土台とした社会や国の有り様を尊重する。その上で、貧困をなくすための支援、若者が生き甲斐を持って働ける社会になっていくよう支援していくことが解決への道だと思います。そして、これらの支援は温帯中心の先進国が主導権を握る国際社会の責務だと信じています。

多様性を認めて受け入れ、誇り高き中東の人々の歴史・文化・伝統を尊重しながら平和共存を追求していく姿勢こそが、「テロの温床の最小化、根絶」に繋がっていくのではないでしょうか。

以上、「パリ同時多発テロを受けて考えたこと」の主要部分でした。長い文章に最後までお付き合い戴き、ありがとうございます。次回は、この持論中の持論を基にして、アフガニスタンのタリバン復権について思うところをお伝えしたいと思います。

吉良州司

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