EU離脱後の英国の苦悩から想起するエネルギー安全保障
明日から臨時国会が始まり、首班指名選挙が行われるこのタイミングでお伝えする内容なのか、首を傾げられるかもしれませんが、EUから離脱した英国の現在の苦悩とTPPへの加盟申請について、感じるところ、思うところをお伝えします(英国のTPPへの加盟申請は次回)。
我が国の足下の最大の課題はコロナ感染拡大防止ですが、ここしばらくは、コロナ感染の推移と対策および自民党総裁選挙一色だったので、日本国民の多くが、今世界で何が起こっているかに疎くなっていると思うからです。
1.英国都市部のガソリンスタンドにガソリンがない。
先進国では、コロナ禍は収束していないものの、ワクチン接種の普及による重症化と死亡リスクの軽減により、経済と社会生活の通常化が視野に入ってきています。それゆえ、コロナ禍で落ち込んでいた経済活動に必要な資源や人手がコロナ前に戻ろうとする力が働きはじめています。
その結果、欧州の天然ガス価格が2021年初の5倍に跳ね上がっており、英国では2002年からガス完全自由化となっていますが、この影響により、ガスを含むエネルギー供給会社の破綻が相次ぎ、市民生活に支障が出るところでした(ブリティッシュガスが引継ぐことで何とか事なきを得ましたが)。
また、英国のEU離脱の大きな理由のひとつが欧州大陸からの移民問題でしたが、外国人労働者の減少により、ガソリンのタンクローリー車の運転手が大幅に不足し、都市部へのガソリン供給が滞っています。こちらは市民生活への明確な悪影響が出ています。
英国に住む娘からは「そうなの、大変な状況なの。だからEU離脱をしなければよかったんだけど。今になって多くの英国人がEUからの離脱を後悔していると思うよ」と嘆きの声が届きます。
2.電力安定供給への課題
更には、再生可能エネルギーへのシフトや地球環境対策の観点からの石炭火力の即時撤廃が叫ばれる中、天然ガス価格の高騰に伴い石炭価格も大きく上昇しており、まだまだ、電力安定供給のためには(将来的には減少させていくにせよ今現在は)石炭火力に依存せざるを得ない国・地域にも電力の安定供給上の不安や電気料金の上昇といった問題が出てきています。
私は常に現実的なエネルギー安全保障政策を叫び続けています。エネルギー安全保障は「イデオロギー問題」ではなく、現実の国民生活と経済活動を守っていくための「現実的政策」です。2050年カーボンニュートラルという将来目標は共有し、その目標に向かって進んでいくことには賛同しますが、日々の生活や経済活動への悪影響を最小限に抑えながら、拙速は避け、段階的に目標に近づいていくことが極めて重要だと思っています。私が考えるエネルギー安全保障については私のホームページの政策の中に詳細を記していますので、そちらの方に目を通して戴きたく、本メッセージでは割愛しますが、最近の英国事情から、「現実的なエネルギー安全保障」の重要性につきあらためて考えさせられました。
吉良州司