岸田文雄外相(当時)と議論したTPPの戦略的・地政学的意義
前回、英国をTPP11に招き入れるべきと主張したメルマガの中で、「TPPは高いレベルの多国間経済連携協定であると同時に、戦略的、地政学的価値を持つ枠組みです。」とお伝えしました。
岸田現総理が外相時代、外務委員会において何回も議論を交わしました。政府の立場からすると仕方がないことは理解しているつもりですが、四角四面の、木で鼻をくくったような答弁が多かったので、決して面白い議論だったとは思いませんが、その真面目さや誠実さは充分伝わってきました。
TPPについては、2016年10月16日の外務委員会において、私が「戦略的、地政学的外交方針を問う」との質問を岸田外相(当時)に投げかけた際、中国を中心とする上海機構が「陸の帝国(Land Power)」とすれば、TPPは投資・貿易・人の移動など自由を尊重する国々の集まりとしての「海の帝国(Sea Power)」であるとの認識をぶつけた経緯があります。
その外務委員会の議事録を掲載していますので、是非ご笑覧戴ければと思います。
私は民主党政権時代、(米国も加盟する)TPP12を議論する与党の政策調査会「経済連携プロジェクト・チーム(PT)」の事務局長として、TPP参加の是非の議論を取りまとまる大役を担っていました。夕刻17時から夜は早くても21時まで、長い時は日をまたぐこともあるPT会合で、毎日50人ほどの議員が参加、何かを「決める」議論の際には200数十人が参加する、物凄いエネルギーがぶつかり合う議論の場でした。
「何かを決める」議論の時だけはTPP賛成論者も半数近く参加しますが、「エネルギーがぶつかりあう」とは書いたものの、日々のPT会合には参加者50人中、反対派が48人、賛成論者は1人か2人しかいないという、平場の議論としては大きく均衡を欠く会合でした。
その物凄い反対派のエネルギーが向かう先は、賛成派の急先鋒と見られていた私でした。反対論が圧倒的であるにも拘わらず、吉良が事務局長という立場を利用して、与党としての結論を「賛成」でまとめるのではないか、という疑心暗鬼に充ち充ちており、その目論見をつぶそうと、それはもう集中攻撃を受け続ける、つるし上げのような毎日でした。
数か月続いたこのPT会合を落ち度なく回していくために地元秘書も全員上京させて対応していました。また、身体がもたないので、倒れることを回避するため、予防のための針を打ちに毎週末鍼灸院に通いました。
党内議論自体は圧倒的に反対派が強かったのですが、私は、反対派の頑張りには敬意を払い、そのことも経済連携PTの最終答申内容に明記した上で、それでも最終判断は政府に任せる、との結論でまとめました。私の執念でした。
賛否の立場は違いますが、反対派は粘り強く勉強を重ね、その勉強した知識を基に毎日毎日反対論を展開してくるその執念には、エネルギーをぶつけられる身としてはたまったものではありませんが、頭がさがる思いでした。
経済連携PTの答申を受けた、野田佳彦総理(当時)は、2011年11月のハワイAPEC首脳会合でTPP参加表明をするはずでしたが、突然空白となった「魔の一日」(詳細は墓場まで持っていくか、状況が許せばお伝えしたいと思っています)の後、正式なTPP参加表明は行わず、「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と表明し、参加手前の半歩だけの前進に止まったことは残念でなりません。ここで参加表明していれば、今日の民主党政権に対する評価も大幅に違っていたかもしれません。しかし、日本のこの表明により、カナダとメキシコが参加表明することとなり、一挙にTPPが成立に向けて動きだすことになりました。
カナダ、メキシコの参加がなければTPP12は成立していなかったと思います。民主党政権時代に、半歩だけではありましたが、前に進むことによってTPP12が成立し、トランプ米国の離脱を経て現在のTPP11に繋がっています。
それだけに「悪夢のような民主党政権」と言われると心中穏やかではありません。子ども政策、女性活躍、子育て支援、全世代型社会保障などの民主党らしい政策はもちろん、現在自民党がつくっている防衛大綱も民主党政権時に私が実務責任者として深く関わり大転換した22防衛大綱(北方重視から南西諸島重視へ、大規模基地から機動力重視へ、シーレーン防衛などを念頭においた準同盟国としての豪州等との防衛協力など)が礎になっているなど、現在の自民党は、あたかも自分たちのオリジナル政策であるかの如く名称だけ変更しながら、民主党政権が敷いた政策のレールの上を走っていることが数多あるからです。過去のメルマガや吉良州司ホームページにも過去30年の日本経済の長期低迷ぶりをデータを基に詳述していますが、この30年間、日本を最も貧しい先進国にしてしまった責任を棚上げして、よくもそんなこと言えたものだと憤慨を隠せません。
最後に、最近のメルマガは総選挙直前にも拘わらず英国事情やTPPに関することばかりをお伝えしていますが、コロナと自民党総裁選挙と新内閣発足など内政面ばかりに目が向いている時期であるだけに国際情勢や外交(経済外交)について意図的にお伝えしていることをご理解ください。特に、TPPについて思い入れが強いのは、上述したように民主党政権時代に私が深く関わった経緯があるからであることも併せてご理解戴ければ幸いです。
吉良州司