吉良からのメッセージ

2022年3月11日

ウクライナ問題を考える その7 エネルギー安全保障とお家事情

ウクライナ問題に関する経済的側面につき、シリーズ第一回目のメルマガでもお伝えしましたように、予算員会(2月16日開会:外務)分科会の質問通告の中で、

(1)ウクライナ情勢の緊迫化によって世界の天然ガス市場や穀物市場の需給ひっ迫が予想されるが(既にその傾向は出ている)、それでもNATOの東方拡大は、ウクライナの主権の尊重という名のもと、必要だと認識しているか

(2)日本が欧州にLNGを融通することの是非と意義について

という質問通告をしていました。実際には、時間の関係で深く議論はできませんでしたが、ウクライナ情勢の経済的側面、特に、世界のエネルギー需給への影響、我が国のエネルギー安全保障への影響については、この間ずっと考えてきました。

1.ウクライナ紛争の結果、米国の天然ガス権益が拡大する可能性大

今朝の日経新聞に「米でLNG6割増産 ~欧州の脱ロシア見据えて~」という記事が掲載されていました。米国企業が主たる出資者ながら、日本企業3社、フランスのトタルも出資するプロジェクト(ルイジアナ州のキャメロンPJ)なので、我が国やフランスにも恩恵が及びますが、経済的には欧州諸国の天然ガス調達先がロシアから米国へとシフトする動きとなります。

ロシア産原油の輸入禁止とそれを同盟国にも求める(日本など天然資源に乏しい国の特例を認めるようですが)動きとも相俟って、ロシアを締め上げる経済制裁の結果として行き着く先は、米国産のLNGの輸出先と輸出量の確保と拡充です。

「風が吹けば桶屋が儲かる」構造は、数ある物資の中でも戦略物資とされる化石燃料資源において特に顕著です。地球温暖化対策、CO2削減対策が進行中ですが、当面は再生可能エネルギーとの併存の時代とならざるをえず、化石燃料の中でもCO2排出量が比較的少ない天然ガスの需給バランスは重要です。供給国は売り先の確保・拡大、需要国は安定・安価の確保が至上命題となります。

ウクライナ情勢は、資源大国(天然ガスと原油の供給大国であるロシアと今や生産量世界一の米国)と覇権争いの側面も持っていることを認識しておかなければなりません。
米国は、ロシアを経済制裁で締め上げ、天然ガスや原油の輸入禁止または段階的縮小を同盟国に迫る中で、米国がエネルギー権益を確保・拡大できるような仕組みを着々と築きつつあります。

10日ほど前、とある役所の担当者に調査と情報提供を依頼しました。それは、ドイツのロシアからの天然ガス輸入は、何%が長期契約で、何%がスポットなのか。長期契約の価格はいくらか。ロシア産から米国産にシフトする際、米国が提示する価格はいくらになりそうか。もし、長期契約の価格が近年高騰する前の安い価格であり、一方、米国がロシア産の代替として供給する価格が、現在のバカ高いスポット価格かそれに近い価格であれば、ドイツは大きな負担を強いられる。ウクライナ情勢が米国権益の確保と利益の拡大に利用されるとの問題意識を持って依頼した調査です。

この調査依頼の報告はまだ受けていませんが、これから、ウクライナ情勢がもたらす世界のエネルギー事情への影響や日本のエネルギー安全保障について一緒に考える前提として、まずは、私が作成したプレゼンテーション資料「世界の天然ガス事情」にお目通し戴きたいと思います。

2.エネルギー安全保障上のお家事情の違い

緊迫したウクライナ情勢がもたらしているのは、原油価格と天然ガス価格の高騰で、一番大きな影響を受けるのは、これら資源の需要国(日本、中国、欧州諸国等)です。

上記資料で見て戴いたように、米国は今や原油も天然ガスも両資源とも世界第1位の産出国です。原油・天然ガスの高騰は、生産者には恩恵をもたらす一方、生産大国米国といえどもその消費者には大きな負担を強いることになります。

しかし、日本のような資源に恵まれない消費国にとって、価格高騰は何ひとついいことはありません。米国にとっては、大きな消費者負担をもたらす価格だけが問題ですが、日本にとっては、価格問題以上に、資源の安定確保、需要に見合う絶対量の確保が重要なのです。

それゆえ、絶対量の確保になんらの支障もきたさない米国の意向に沿うことよりも、それこそ、日本の国益第一で対応する必要があります。

上記プレゼン資料10ページ「9.日本企業が参画する世界の主要なLNGプロジェクト」及び、12ページの「11 極東ロシアの開発プロジェクトと日本企業の参画」の中で、日本企業が参加している、または参加可能性のあるプロジェクトを紹介していますが、その中のサハリン1、サハリン2のプロジェクトにおいて、米国企業は権益売却の意向を表明しています。日本国内でも権益を放棄すべきとの議論が高まっているようですが、私は、権益を維持すべきだと考えています。

何故そのように考えるか、上記の「お家事情の違い」でも簡単には触れていますが、次回以降のメルマガでお伝えしていくつもりです。

今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

吉良州司

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