ウクライナ問題を考える その10 小麦価格の高騰は世界の貧困層を苦難に陥れる
今回のメッセージは珍しく短い内容です(笑)。
ウクライナ問題シリーズその1において、軍事侵攻前の2月16日に設定されていた予算委員会分科会(外務)の質問通告の中で「ウクライナ情勢の緊迫化によって世界の天然ガス市場や穀物市場の需給ひっ迫が予想されるが(既にその傾向は出ている)、それでもNATOの東方拡大は、ウクライナの主権の尊重という名のもと、必要だと認識しているか」と通告していました。
私の懸念した通り、天然ガス、穀物の需給ひっ迫をもたらし、価格は高騰し、世界経済を混乱に陥れ、世界の多くの罪もない人々の暮らしを直撃しています。
穀物については、世界の小麦輸出の3割をロシアとウクライナが担っており、地理的に近い中東や北アフリカに、主に黒海に面するオデッサ港から出荷されています。
2010年に起こったアラブの春は、当時の各国政権の腐敗に対する不満がマグマのように溜まっていたことが一番大きな原因ですが、直接の引き金になったのは、食料価格の高騰と若年層の失業率の高さでした(貧困層の「パンをよこせ」と若者の「仕事をよこせ」という声)。
今回のウクライナ紛争発の穀物価格の高騰により、苦難を強いられるのは何の罪もない、これらの地域で暮らす貧困層、および、中東に限らず、高いパンを買えない世界各地の貧困層です。
NATO加盟国はそもそも米国、カナダ、フランスなど小麦の生産国が多く、北米と欧州の豊かな先進国の集まりなので、価格が高騰しても、お金さえ出せば、生きていくための絶対量を確保することができる国々です。しかし、中東、北アフリカや穀物の確保が困難な国の貧困層は飢餓に直面してしまいます。
NATO加盟諸国のリーダーたちも、この「風が吹けば桶屋が儲かる」の連鎖をわかっていたと信じたい半面、正義を掲げる際に、血を流す罪のないウクライナ人のことに加え、血は流さないけれども飢餓やそれが原因で病死していく世界の貧困層の苦難について、どこまで考えていたのか、疑いたくなる自分もいます。
個人的には、これまでお伝えしてきた停戦合意案をロシア、ウクライナ双方に提示して即時停戦への橋渡し役を果たすよう日本政府には求めていきますが、現実問題として、我が国にその政治力、外交力はありません。
それゆえ、せめて、ウクライナ紛争により苦難を余儀なくされる国、特に貧困層に対する国際社会による支援の旗振り役を担うよう日本政府には働きかけていくつもりです。
尚、穀物価格、天然ガス、化石燃料高騰による我が国への影響については別の機会にお伝えしたいと思います。
吉良州司