新次元の東西冷戦 その1 インドのしたたかな戦略的外交
前回のメッセージでは、バイデン大統領の訪日を題材として、バイデン大統領発言の軽率さ、および、今現在の状況が将来に亘って続くわけではない「無常」についてお伝えしました。読者の中には、日本の中世における「無常」は多分に仏教的、輪廻的概念であり、現在の国際情勢の今後についての譬えとしては相応しくないと感じた方もいらっしゃるだろうと思います。それはその通りですが、現在の状況が今後も継続するとは限らない、ということを強く意識した際に頭に浮かんだのが鴨長明の方丈記の冒頭文だったので、それを引用し、譬えとさせて戴きました。それ以上の深い意味はありませんので、ご容赦を。
ウクライナ戦争に起因する諸情勢に対して、見事なまでのしたたかさを発揮しているのが、中国、インド、トルコだと思います。来るべき新次元の東西冷戦においては、これまでの何倍もの存在感を示すことになるでしょう。
まず、インドは人口大国であり、西欧がすっぽりと収まるほど大きな国土が、戦略上重要性を増すインド洋の真ん中に突き出た、地政学的要衝を占める国です。このことに加え、(ご承知の通り、インドにはカースト制度が色濃く残り、社会的な障壁になってはいますが、少なくとも政治制度上は民主主義が機能していることもあり)日米欧が大好きな価値観外交上も世界最大人口の「民主主義国」として、インド洋太平洋の安定を最重視する米日豪印の4か国クワッドの枠組みに招かれ、参加しています。
同時に、報道でもご承知の通り、ソ連時代からの友好関係に加え、ロシアから兵器を購入し続けてきており、また、化石燃料エネルギーについても、対ロシア産原油の輸入禁止措置が西側諸国によって実施される中、また、原油価格が高騰する中、今ならロシアから安い石油を買えるとあって、対ロシア制裁には加わっていません。
このように、インドが、中国と並んで対ロシア経済制裁の抜け道になることを何としても阻止したい米国や西側諸国に対してロシアカードをちらつかせながら、インド相場を吊り上げるしたたかさを発揮しています。
また、インドはロシア、中国も参加するBRICS(伯、露、印、中、南ア)の重要メンバーでもあり、国境紛争では中国と激しく対立するものの、西欧先進国の「上から目線」に対しては、中国とも同調して、途上国を代弁、代表する立場を取り続けている新興国です。
インドの価値がこれほど高まっている(インドがしたたかに高めている)瞬間はこれまでなかったと思います。
新次元の東西冷戦下では、ロシア、中国など新しい東側の強権国家とは一線を画しながらも、決して縁は切らず、良好関係を続ける。しかし、大枠では西側諸国との友好関係を維持しながら、インドの存在価値を高め続ける戦略を取ると思います。
我が国は、日米同盟の堅持とG7をはじめとする西側の重要メンバーとしての基本的立ち位置を変えることはできないし、してはいけないと思います。しかし、米国一辺倒の外交、西側の上から目線に立つのではなく、先進諸国と途上国を繋ぐ役割を発揮しなければならないと思います。同時に、鎖国し続けても生きていける米国や、近隣諸国と共同協力すればエネルギー資源にも恵まれている西欧諸国とは異なる日本の国情を冷徹に見定め、自らの国益を追求、発信して理解を得ていくたゆまざる努力を続ける必要があると思います。
その際、インド、トルコ、中国のしたたかさに学ぶところ大です。トルコ、中国のしたたかさについては、次号以降にお伝えします。
吉良州司