吉良からのメッセージ

2022年8月1日

ウクライナ戦争前からはじまっていた世界の分断

吉良州司です。
長期のご無沙汰、お許しください。

この間、参議院選挙では、4期目に挑戦した足立信也参議の応援ありがとうございました。結果は残念でしたが、みなさんのご支援に心から感謝しています。

また、コロナに感染してしまいました(PCR検査結果陽性)。昨日10日間の自宅療養期間を終えて今日から自由の身となりました。3回のワクチン接種をしていたのですが、感染当初は、喉は痛い、高熱は出る、で結構大変でした。しかし、薬にも頼らず、自力で快復し、ここ5日間は熱も平熱続きで自分でも元気を回復している実感がありました。どこでどう感染したのか、全く身の覚えがない感染でしたが、大分も2000人台が続いていたし、東京も3万人を超える日々が続いていますので、みなさんお気をつけください。

この間、世界情勢、日本の課題をはじめ、あれやこれや考え続けていたのですが、選挙やコロナ感染等なかなか集中できない状況が続き、メッセージ執筆と発信ができていませんでした。申し訳ありません。

自宅療養が終わるまさにその時の昨日、NHK特集「混迷の世紀 ~プロローグ “プーチンの戦争” 世界はどこに向かうのか~」を見て、本マルマガを執筆することにしました。同特集は、安全保障、グローバル経済、民主主義の変容とその世界が今後どこに向かうのか、精緻な取材と分析の上に、視聴者に今後の世界の行方、日本が進むべき道について考えさせてくれる、見ごたえのあるいい番組となっていました。

1. ウクライナ戦争前から安全保障、グローバル経済、民主主義の変容と世界の分断は始まっていた

特集番組のタイトルは、「混迷の世紀 ~プロローグ “プーチンの戦争” 世界はどこに向かうのか~」でしたが、特集の柱として掲げていた「安全保障」「グローバル経済」「民主主義」の変容も、世界の分断も、ウクライナ戦争前から始まっていたと考えています。

参議院選挙中、岸田総理は「物価高はウクライナ戦争によってもたらされた」といった説明をしていましたが、物価高は失われた30年と言われる日本の長期経済停滞の結果、ウクライナ戦争前から生じていて、それがウクライナ戦争によってより大きく顕在化しただけです。
また、西側先進国も物価高、エネルギー資源高をウクライナ戦争が原因であるかのような説明を国内向けにしていますが、これも、地球温暖化対策は私も必要だと思っていますが、化石燃料とエネルギー産出国への「いじめ」が激し過ぎて、新旧の併存期間への対策(時間軸を考慮した対応)の失敗の結果として起きている現象だと思っています。

2. 西側先進国の驕りが世界を分断している根本原因 ~気候的・地理的考察~

同番組を見ながら私がずっと感じていたことは、西側先進国の驕りと驕慢、それが世界を分断し続けているということでした。こんなことを言うと世界中から袋叩きにあって批判されるかもしれません。
ロシアの行動が許されないということは議論の余地がないことで、ロシアを擁護しているわけでは決してありません。
しかし、西側先進国が掲げる「価値観外交」、その背景にある「上から目線の世界観」が世界を分断していると思っているのです。

同番組の3つの柱とされた軍事安全保障は勿論、エネルギー安全保障も、ある意味、民主主義でさえも今は「地政学的考察」が重視されています。私も国会の質問の場において、何回も「地政学的」分析と戦略の重要性を訴えてきました。

地政学的考察は極めて大事ですが、それ以前の人々の暮らしと社会の成り立ちを考える時、もっと重要なことは、単純そのものですが、「気候的」「地理的」考察です。

今、日本列島に住む私たちは日々の「猛暑」に直面しています。NHKの呼びかけではないですが、多くの日本国民は「命を守るために適切に冷房を使いながら」生活しています。35度以上の猛暑は命が危険に晒される暑さだというのです。確かにその通りで、とても日中に出かける気にはなれませんし、冷房なしでは何も考えられない、動く気力が湧かないほど暑いと感じます。

しかし、世界には一年中このような猛暑の環境で、しかも、貧しいが故にクーラーもない中で暮らしている人々が大勢います。私の最初の営業出張はバングラディシュとパキスタンだったので、仕事の中身よりも「よくまあこんな暑い環境の中で生きていられるものだ」という印象が一番残る出張でした。今でも太陽の光がじりじりと皮膚を焼く音がするほど暑いと感じていたことをよく覚えています。パキスタンのパンジャブ地方は40度台半ばから50度近くにもなります。ブラジル留学中に訪れたアマゾン川流域でも感じたことでした。

3. 高度な民主主義と高度な資本主義が成立する気候的、歴史的条件

私たちが暮らす社会は、その地域の気候条件と地理的条件に規定されながら綿々と続く歴史の上につくられています。
高度な民主主義と高度な資本主義は、歴史的に「封建制度」を経験している「温帯気候」と温帯に準じる「寒冷気候」と一部の「亜熱帯気候」の地域でしか花開いていません。同じ寒冷気候でも北欧やアイスランドは両方が機能していますが、ロシアは両方とも機能していません。北欧とロシアの違いは気候条件ではなく、歴史です。熱帯気候のシンガポールや亜熱帯気候の香港など一部の都市国家を除けば、温帯気候(+アルファ)以外の地域では、民主主義も高度な資本主義も根付いていないし、今後も根付くことはない、と認識しておくべきです。
このような、とても受け入れることができない考えを否定したい多くの日本人も、足元の猛暑日が続く今ならこのことの意味するところは分かってもらえると思います。
春夏秋冬の四季があり水と緑に恵まれた環境がどれほど幸せなことか、日本人も米国人も欧州人もわかっているようでわかっていないのではないでしょうか。

4. 途上国は歴史的発展段階を今経験しつつある段階

先進国が今の高度な民主主義や資本主義に近づくまでに経験した歴史上の産みの苦しみを今新興国や途上国は経験しつつあります。陸上三段跳びで例えるなら、ホップに入った国々、ステップに踏み出した国々、ジャンプできている国々、まだホップ手前の助走中の国々もたくさんあります。しかし、気候条件が異なる現在の途上国が、先進国の歴史的発展段階を忠実に辿ることは容易なことではありません。それゆえ、遅々として発展しない途上国、まだまだ体裁の域を出ず、未熟な民主主義段階である途上国を「価値観が違う」として排除、分断することなく、包摂していく度量が先進国になければ世界の分断は収まりません。
しかし、残念なことに先進国にはもはや途上国を経済的に支える国力、経済力がありません。途上国に手を差し伸べる前に、国内の貧困問題、国内の分断を解決する必要に迫られています。その代表選手が悔しいけど日本です。
貧しい国々にとっては西側先進国が、愛でるように勧める「花」(価値観)よりも中国が差し出す「団子」(現実的利益)の方がありがたいのです。西側先進国の価値観の敵であるロシア制裁に加わるより、極悪非道のロシアからでも石油や小麦を安く提供してもらう方が今現在はありがたいのです。厳しい気候、歴史的条件の中で生き抜いていくためです。
ウクライナは国全体としては、一人当たりGDPがロシアの1/16でしかないことなど、まだホップかステップに踏み出そうとする段階の国なのに、歴史的にポーランドやリトアニアの影響、特にオーストリア・ハンガリー帝国の影響を受けた最西端のリビウなどウクライナ西部の一部の先進的人々の願いや思いが強すぎて、国全体を一挙に西側に近づけようと焦ってしまった結果、起こってしまっている悲劇に思えてなりません。

この間あれやこれや考えてきたこと、世論が一本調子になってしまっているが故に強い問題意識を持っていること、過去中途半端になったままになっているメッセージの続編など、を今後発信していきたいと思います。

吉良州司